――昼休み。

 給食を食べ終えてしまうと、二人はそれぞれで聞きこみにあたった。とにかく、まずは情報を集めなくてはいけない。

 ハルは食器トレイを給食のワゴンに戻すと、同じように食事を終えた小野俊樹の机に向かった。教室にはまだ何人か、給食を食べ終えていない生徒が残っている。

「ちょっといいかな?」

 俊樹は気味悪そうな、不審げな表情でハルのことを見た。それはそうだろう。こっちが犯人だと言った相手から話しかけられているのだ。

「何だよ」

 ぶっきらぼうな返事だった。小野俊樹はどちらかといえば背の低い、痩せた少年だった。髪が短くて、落ちつきのない目をしている。

「いくつか聞きたいことがあるんだけど」

 ハルは近くの机のイスを引っぱりだして、そこに座った。

「カードは見つかったのかよ?」

 俊樹は不機嫌そうな顔をした。ハルのほうをまともに見ようとしないが、答える気がないわけではないらしい。

「まだだよ。その前にいろいろ聞いておきたくて。まず、盗られたカードっていうのは、どういうものだったの?」

「スタチャイのよんカーだよ」

「すた……よん……?」

 どこから聞いていいのかわからなかった。

「とりあえず、〝すたちゃい〟って何?」

 どこかの国のお菓子だろうか?

「〝スターチャイルド〟のことだよ。知らねえのか?」

「……そういえば、ちょっとだけ見たことある」

 答えたが、内容は全然覚えていない。最近人気のアニメ番組だった。

「それにカードがあるの?」

「ああ」

「それで、えと、〝よんかー〟っていうのは?」

 俊樹がめんどくさそうに説明した。

「四つ印のことだよ。四つ印カードで〝4カー〟。俺が持ってたのは主人公のカードのうち、四つ印のやつで、No.25には変異種が四枚あるけど、そのうち一つはめったに出ねえんだ。今、カードは第三セッションのツーエンドに入ってるから、初期カードはなかなか手に入んねえし」

 さっぱりわからなかった。

「とりあえず、すごく珍しいってことだね?」

「カードショップ行ったら、五千円くらいするだろうな」

「そんなに?」

 ちょっと驚いた。それなら、単純に金額が目当てだったということもありえるのだろうか?

「それくらい普通だよ。スタチャイのすげえカードとかはもっと高いんだぜ」

 俊樹はそう言って、もの欲しそうな顔をした。変に熱っぽい表情だった。

「カードの大きさは、どのくらいあるの?」

「普通だよ、ってわかんねえか。ええと、まあトランプのカードくらいだな」

 それならポケットにも入るし、どこにでも簡単に隠せそうだった。もっとも、高価なものらしいのであまり粗雑には扱えないだろうが。

「カードがなくなったのに気づいたのは、いつ頃?」

「教室に戻ってすぐだよ。集会が終わって、戻って調べてみたらなかった」

「一応聞くけど、なくした可能性は?」

「あるわけねえだろ」

 うっとうしそうに言う。

「あれは絶対盗られたんだっつうの。俺は箱に鍵かけてたんだぞ」

「その鍵っていうのは、どういうのなの?」

 これはちょっと重要なことだった。

 俊樹は面倒くさそうにしながら、引きだしの中からごそごそと箱を取りだしている。

「それ?」

 意外と物々しい外観の箱だった。直接鍵をかけられるようになっているらしく、横面に鍵穴がとりつけてある。金属製で、大きさは手の平に乗るくらいだった。

「鍵を持っているのは?」

「何だよ、俺だけに決まってるだろ」

「これ、鋏とか使って開かないかな?」

 自転車の鍵くらいだったら、普通の鋏で開けられる。

「無理だね」

 何故か自信ありげに俊樹は答えた。

「これ、元々小さい金庫だからな。鍵は見た目よりしっかりしてんだよ。ちょっとやそっとじゃ開かないようになってる。親父からもらったんだからな」

「へえ」

 ハルはその箱を手にとって、しげしげと眺めてみた。意外と重みがあって、学校に持ってくるにはちょっとした荷物になりそうだった。こんこん、と叩いてみると硬く、簡単には壊れそうにない。確かに頑丈そうだった。

「教室に戻ってきたら、鍵が開いてて、中身が盗られてたんだね? 盗られたのは、カードだけ?」

「…………」

 何故か俊樹は黙った。

「どうかした?」

「?」

「戻ってきたとき、鍵は開いてなかったんだよ。俺が開けてみたら、中身がなくなってたんだだ。カードのほかには何も入れてなかった。盗られたのもそれだけだ」

「鍵はかかったままだった……?」

 犯人は鍵をかけなおしたということだろうか。わざわざどうしてそんなことをしたのだろう? 発見を少しでも遅らせるために? でも結果的にはそれはまったくの無駄に終わっている。

「念のために聞くけど、カードを盗られる心当たりとかはない?」

「あったらそいつを疑ってるっつーの」

「それもそうだね」

 これ以上、聞くことはなさそうだった。

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