一つめの事件

 星ヶ丘ほしがおか小学校ではその日、臨時の全校集会が開かれることになっていた。

 朝礼後、体育館への移動がはじまるまでのその時間、クラスではめいめいが勝手に友達と話したり、ふざけあったりしている。

 いつもの休み時間と、同じだった。それはもちろん、宮藤晴のいる五年二組でも変わらない。教室では、生徒たちがわいわいと騒いでいた。

 壁には一週間の時間割りや、生徒の座席表、保健室からのお知らせなんかが貼られている。いくつかの紙は破れて、セロテープで補強されていた。座席表は席替えをしたのに、まだ古いままになっている。

 もっとも、子供たちのほとんどは自分の席についていなかったので、それはどっちにしろ役に立たなかった。数人で一人の席に集まって、何かを見せあっている生徒もいる。

 小野俊樹おのとしきが〝何か〟で自慢していたのは、その時のことだった。

「すげえだろ、これ」

 その時、小野俊樹が自慢していたのは、何かのカードについてだった。何とかという、その頃はやっていたアニメのトレーディングカードである。

 近くの席だったが、ハルは特にそういうものに興味はないので座ったままぼんやりしていた。窓の外はうららかな陽気で、ちょっと眠くなっている。ハルはあくびをかみころした。

 やがて担任の葉山美守はやまみもりがやって来て、クラスの全員が教室の外に並びはじめた。ほかのクラスでも同じように、廊下に列を作っている。

 ハルも、小野俊樹も、もちろんそれに従って外に出ていった。その時、ハルは俊樹が例のカードだか何だかを大切そうに箱の中にしまい、それに鍵をかけているのを見ている。

 ハルはそれを、別にどうとも思っていなかった。ずいぶん大げさだな、くらいに思って気にもしていない。

 それはそうだ――

 その時のハルは、自分がそのことである事件に巻き込まれるなんて、考えもしていなかったのだから。

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