第4話

「道場破りだぁ?」


 理は思い出す。父親が旅立つ前に話していた言葉を。


 道場破り、五人組の女。


 理は周囲を見渡すが女は一人だけだ。


「一応、師範代と決闘して看板を貰わないとだから、アンタ、師範代を呼びなさい」

「なんでテメーに命令されなきゃなんねーんだよ」

「下っ端にはキョーミないの、早く呼んで」


 理の額に血管が浮き出た。怒りの形相である。


「師範代は俺だ!」


 沈黙。


「いや、冗談はいいから」


 呆れ果てたように女は言う。


「冗談じゃねぇ!代理だが、俺がここの師範代だ!」

「.....はいはい。まあいいや、私のポリシー的に弱い奴から奪うのは嫌だし。本当の師範代が来たらまた来るわ」


 期待外れと言わんばかりに、肩を落として茶髪の女は理の真横を通り過ぎようとする。


 本当に帰るつもりなのだろう。


 何が起きているのか分からない理であったが、コケにされたまま女を帰すわけにはいかなかった。


 彼のプライドがそれを許さなかった。


 ただ、なんと声をかければいいのかも分からない。それでも引き止めねば、と彼は言葉を口に出す。


「ちょっと待て! なんだお前、俺と闘うのが怖くてビビってんじゃねーのか?」


 子供の煽り文句。こんな安い挑発に乗ってくるはずが.....


「は? ビビってないから」


 女は足を止める。


 女の反応を見て理は再び口を開く。


「うっそー、絶対ビビってるね! ちょっと涙目になってるし!」


 涙目にはなっていない。


「は!? なってないから!」

「いやいやー、まあ女の子だしね。闘いたくないよね? 王子様が助けてくれるのが一番だもんね?」

「王子様が助けてくれるとか、ガキじゃないんだから考えたこともないわよ!」


 コイツ、ひょっとしてチョロい? そう思った理は続ける。


「なら俺と決闘してみろよ? 逃げずによぉ!」


「ガチでムカついた.....いいわ、闘ってあげる。つーか殺す」


 女は拳の骨を鳴らす。目つきも鋭くなっている。


 自分が巻いた種であるが理は自分が冷や汗をかいているのを感じた。しかし、微笑んだ。


 この女は強い。


 女を倒せば自分はもっと強いということになる。


 強者が強者を求めるのは自然の摂理である。


 胸が高鳴る。


 理は大きく一歩踏み込み、腰の回転とともに右の拳を繰り出した。

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