みかの宇宙人さん事件

けろよん

第1話 事件の始まり

 宇宙には宇宙人がいてたくさんのUFOが飛んでいる。信じられないかもしれないけれど、それは本当のこと。

 この広い宇宙を見渡せば銀河の辺境にだって宇宙人は飛んでいる。そこでは一台のUFOがもう一台のUFOに追われるように飛んでいた。




「ええい! ふりきれんのか!」


 追われているUFOの中で、宇宙人の指揮官は偉そうに、前の座席に座っている部下の椅子を蹴とばした。部下は前面の広いパネルを必死で操作している。こうしてUFOを運転している。


「無理です! このおんぼろ円盤の性能じゃ、いくらあっしの腕が良くても限度ってもんがあるさあねえ!」


 部下は自慢の腕前で軽くUFOを回転させ、後ろのUFOが撃ってきたレーザーをひらりとかわす。そのまま急角度に進路を変え、逃げ切りを図る。追ってきたUFOはその巧みな動きについてこれず、宇宙の闇に消えて行った。


「へなちょこ警察め。ざまあ見ろ」


 ひとまずの安心に胸をなでおろす指揮官と部下。


「宇宙警察にも変な奴がいるな」


 指揮官宇宙人のちょっとした感想である。あのUFOに乗っている奴はよほど撃つのが好きなのか、現れたときからひたすらレーザーを撃ちまくってきていた。

 普通の奴ならそうはしない。出来るだけ少ない消費エネルギーで生け捕りにするのがスマートなやり方というものだ。


「あの手の乱暴者とはあまりお近づきにはなりたくないものだな」


 そんな物思いにふける指揮官の前で、部下はそっと呟いた。


「ふう、今のは危なかった。危うくオンボロがスクラップになるところだった」


 指揮官はいきなり部下の頭を蹴った。


「いてっ!」

「わたしのジェミーちゃんをオンボロとかスクラップとか言うんじゃない!」


 ジェミーちゃんとはこのUFOの名前である。名付け親は指揮官。古いながらも長く苦楽をともにしたこのUFOを指揮官はとても気に入っていた。


「止まりなさい! 止まらないと撃ちますよ!」


 いつの間にかまた追いついてきた警察のUFOが、撃ちまくりながら呼びかけてきた。指揮官はめんどくさいと思いながらも手元に備え付けてあるマイクを手に取った。


「お前こそ撃つのをやめろ! そうがんがん撃たれると止まるものも止まれんだろうが!」

「撃たれて吹き飛べば止まるだろう! へい、ゆー、ボンバーー!」

「やれやれ、お前はよほど射撃戦が好きらしいな。身の程というものを教えてやろう。やれ、我が部下よ」

「へいへい」


 追いかけっこは続行される。時に静かに時に激しく。

 指揮官はゆったりと椅子に座り込むと、ティーカップにお茶を注ぎ、ゆっくりと口をつけた。どんなときでも慌てず騒がず優雅に振舞う。指揮官の持ち論である。

 そんな彼の前では部下が必死にUFOを操り、宇宙空間の後ろからは物騒な光線を撒き散らす騒がしいUFOがぴったりとついてきていた。

 そうして、どれほど飛び回った後だろう。やがて、彼らの前に青い星が現れた。地球と呼ばれている辺境の惑星だ。宇宙の地図を広げて指揮官が確認した。


「うむ、うるさいハエをまくには丁度いいかも知れんな。おい、ジェミーちゃんをあの星に降ろせ、隠れてやりすごすぞ」


 指揮官は部下に命令した。


「え、あの星は……」


 部下が言いかけた時だった。当たるはずも無いレーザーが一発機体に命中した。とたんにガタガタ揺れ、バランスを崩すジェミーちゃん。結構ガタが来ているらしい。


「てめー、俺のジェミーちゃんを! 一体どこに目をつけて運転してやがるんだ!」


 拳を振り上げて怒鳴る指揮官。能無しの部下を叱責しようと席を立とうとする。


「ぐふっ」


 その前に再びの激しい揺れが襲って、部下は前面のパネルに頭を打ちつけて気絶した。

 制御不能になったUFOは重力に捕まり、大気圏にまっすぐに突入していく。機体の周囲に赤い火花が舞う。

 指揮官たちの乗ったUFOはそのまま墜落するように夜の雲海へと落ちていった。




 ちょうどその頃、地上では。

 夜の住宅街は静かにたたずみ、空では幻想的な星々がちらちらと瞬いている。少し涼しい春の風が緩やかに吹いている。

 そんな星空の下、一人の少女が自宅の二階の窓から小さな望遠鏡をのぞいて空を眺めていた。


「いちばんぼしー、いちばんぼしどこかなー」


 おぼつかない手つきで望遠鏡を動かして、夜空の星々を眺め渡す。彼女の手の中で丸い夜空がぐりぐりと動いた。空は広い。


「あ、にばんぼし見つけたー。いちばんぼしどこかなー」


 ちょっとした歓喜の声をあげて、元の探し物に戻る。

 彼女の名前は平口みか。広大な星々に思いをはせる今年の春幼稚園を卒園したばかりのかわいらしい少女だ。この春休みが終われば小学生になる。

 彼女の使っている望遠鏡はこの前の冬、近所に住んでいたお兄ちゃんがくれた物だ。

「飽きたから」と言ってぶっきらぼうに望遠鏡をくれたその日の光景を、彼女は昨日のことのように覚えている。

 みかは星空を眺めながら、その時のことを思い出してクスリと笑った。

 お兄ちゃんはあれからすぐに引っ越していってしまった。

 みかは嬉しそうに星空を眺めつづける。


「みかちゃーん! おふろ沸いたからはいりなさーい!」


 階下からお母さんの呼ぶ声が聞こえる。


「まだいちばんぼし見つけてないのに……でも、仕方ないか」


 みかはしぶしぶといった感じで、望遠鏡から目を離した。

 その時だった。流れ星が見えた。視界の片隅にそれを捕らえたみかは、慌てて望遠鏡に目を戻した。きれいな小さい光が尾を引いて、遠くの夜空を横切っていく。


「ながれぼし様、もしみかのこと見てるなら宇宙人さんに会わせてー」


 そして、彼女は願いをかけた。流れ星はふらふらといびつな動作で空を横切り、やがて遠くの空にすとんと流れ去っていった。変な星だった。

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