第8話 おっふぅ

「本当に申し訳なかった!」


誠一の正面には土下座しているアンのお父さん。

誠一はそれを見て、苦笑し頬を掻く。


あの後、理性を失い襲ってきたアンちゃんのお父さん。

何とか、アンちゃんの協力もあり、やっとのことで説得に成功した。


アンちゃんのお父さんから話を伺うと、どうやらアンちゃんが家にいないのに気づき、村人に聞いたところ山に行ったことが判明。

そして、突然山から鳴り響いた謎の落下音。

アンちゃんの身に危険がないか心配になり、大慌てで山を駆け上り、娘の近くにいた変態(お父さんから見た誠一)を見つけ、理性を失ったとのことだ。


そして、現在、山を下りた俺たちはアンちゃんの家にお邪魔し、お父さんから謝罪されている。

部屋に入ると、いきなり土下座したものだから驚いた。

土下座の概念って異世界にもあるんだな。


さっきからこのままの体勢で、逆にこっちが申し訳ない気持ちになる。

誠一は土下座を止めてもらうべく、声をかける。


「何とも思っていませんから頭を上げてください。大事にもならなかったわけですし」


「娘の恩人に俺は何てことを・・・本当に申し訳なかった!」


「いえ、ですから・・・」


なかなか謝罪を止めないアンちゃんのお父さん。

終わりの見えないやり取りを続ける2人。

それを止めたのはおっとりとした女性であった。


おそらく、アンちゃんのお母さんなのだろう。

アンちゃんはお母さん譲りなのか、面影がよく似ている。

もちろん、お父さんと同じように犬の耳がある。



「あなた、お客さんが困っているから顔をあげて下さい」


「しかし―――」


「・・・・・・あなた~?」


「はいっ!」



お母さんに笑顔で睨まれると、アンのお父さんがぱっと立ち上がった。

どうやら、この家庭でのカーストは父よりも母の方が上らしい。

というか、アンちゃんのお母さん顔は笑っているが、目が笑っていない。

綺麗な顔が相まって、より怖さを引き立てている。

誤魔化すためか、アンちゃんのお父さんはわざとらしく咳をし、誠一に自己紹介を始めた。


「娘の命を救っていただき、ありがとうございました。俺はアンの父、ホブスだ」


「私はレダと言います。夫がご迷惑おかけしました」


「俺は沢辺誠一です。おじょ、娘さんについては当然の事をしたまでですよ」


ホブスさん、畏まった言い方に慣れてないのか、敬語が崩れてきている。

まあ、この方が接し易くて良いが。


やっと落ち着けるようになった誠一。

心に余裕が生まれ、そうなると、どうしても気になる。

ホブス夫妻の頭から生える獣の耳。


(あれって本物だよな、動いてるし)


観察すると、時折、ピクピクと動いている。

しかし、あまりにじっと見すぎた。

自分の耳が見られているのにホブスが気付き、誠一に声をかける。


「もしかして獣人に会ったことが無いのか?」


「え、あ、はい。ずっと田舎にいて世間知らずなもんで」


「それでか。そりゃ、初めて見たなら驚くもんな。俺たちの村は人狼族の集まりなんだ」


いきなり聞かれたものだから、とっさに嘘をついてしまった。

バレるかと心配したが、どうやら納得してもらえたようだ。


しかし、獣人か・・・

改めて、ここが地球ではないと実感させられるな。

そう言えば、残念神のハナミ様が、ケモ耳がどうこう言ってたな。

他にどのような種族がいるのか気になり、誠一は聞こうとしたが、


「セーイチお兄ちゃん、はいこれ。忘れ物だよ」


部屋の扉が開いたかと思うと、アンちゃんが部屋に入ってきて中断した。


「おお、ありがとう」


アンは新しい服に着替え、手には俺が貸したブカブカだったジーンズを持っている。

被っていた麦わら帽子もなくなり、ボブカットの髪からは耳が生えている。


・・・ちなみに漏らしてしまったことは両親に秘密だ。


アンの気遣いに感謝しながら、誠一は受け取った。

すると、何故かアンは不思議そうに誠一を見る。

そして、どうしても気になる事なのか、アンは浮かび上がる疑問を口から出した。


「ところで、セーイチお兄ちゃんは腰巻のままだけど何か着ないの」


「着たいけど他に着る物ないからな」


「「えっ!?」」


「おい、そこの夫婦!その驚きはどういう意味だ!どおりで2人ともツッコまねえと思ったらそういうことか!言っとくがこの格好は好きでしてるんじゃねえからなっ!」


「俺は、セーイチの村の風習かと」


「てっきり、そういうプレイかと」


「ホブスさんは百歩譲って良いとして、レダさんは俺をそんな人だと思ってたんですか!!」


「はっはっはっ、冗談だよ、なあ母さん」


「ちょっとした冗談ですよ」


「だったら何で目をそらしながら言ってるんですか!」


「ねえ、セーイチお兄ちゃん。『ぷれい』って何?」


「それはアンちゃんがまだ知らなくていいから!」


乾いた笑いをあげる夫婦に、首を傾けるアンちゃん

あまりの暴露に驚き、つい敬語をやめてしまった。

この世界の住人はハナミ様みたいに残念なのか。




(そう言えばハナミ様で思い出したが、戦闘中に頭に何か響いていたな)


詳しく調べるべく、ズボンのポケットをまさぐりスマホを取り出す。

電源を入れ確認すると、【能力】と言うアプリが増えているのに気づく。

・・・鳥の化物を収納した時に気付けよ、とマヌケな自分に突っ込みながらもアプリを開く。


だが、この行動を後に後悔した。



見なければ良かったと。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


【能力】

転生者『沢辺 誠一』の特典は、次の5つになります。

また、現在のステータスを表示いたします。



《絶対強者》

その圧倒的な力は万物に破壊をもたらす。

弱肉強食の世界の頂点。

作用:HP上昇、筋力上昇、俊敏上昇、耐久力上昇



想造魔法そうぞうまほう

魔法の原点にして、至高。

思い描けぬ魔法はない。

あらゆる魔法を想い、造り出す。

作用:MP上昇、知力上昇



森羅万生しんらばんしょう

その手は物を生まれ変わらせる。

四辺の土を金に、剣に、家に変えるのなど造作もない。

作用:技量上昇、知力上昇



《ヒーローの幸運》

行く先々に自分を中心とした騒ぎがおこる。

是か非か関係なく、出来事に巻き込まれ、様々な命あるものと巡り合う。

作用:ランダムで運上昇、ランダムで運低下



《鶴の羽》

1000年生きることが出来る。

作用:HP上昇



〈ステータス〉


「沢辺 誠一」


種族:新人類


Lv.52


HP《ヒットポイント》:7002200

MP《マジックポイント》:5003000


筋力 :4000500

俊敏 :3000600

耐久力:2900400

技量 :6000250

知力 :8000300

運  :???????


 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


「ねえ、その小さな箱って何なの?・・・・・・セーイチお兄ちゃん?」



アンの言葉に反応せず無表情のままの誠一。

そして、動いたかと思うとスマホをそっとポケットに戻し、


――――家を飛び出した。


突然の誠一の行動にどうしていいか分からず固まるアン一家。



「アアァァァァァァァァァァァァァァァァッ!」



山頂めがけて、誠一は駆けた。

降りてきた山を一瞬で駆け上がり、自分の落ちたところに着くと空を睨み、





「やりすぎだろおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」




天にいる神様に、あらん限りの大声でツッコミをいれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る