第4話 出会いは突然に

私の名前はアン。

木こりのお父さんとお母さんより生を授かってから14年。

都会から遠く離れた田舎の村で暮らしている。

所々に不便もあるし、都会に憧れも持っている。

だが、ここでの暮らしは幸せだ。

口下手で顔は怖いけど優しいお父さん、おっとりしているが頼れるお母さん。

二人には、いつも感謝の気持ちでいっぱいである。


そんなある日、私のお母さんが寝込んでしまった。

村の人が心配して声をかけてきてくれた。

皆、いい人ばかりである。

村のお医者さんが言うには、ただの風邪なので安静に寝ていれば大丈夫とのことだが、どうにも心配だ。

お母さんには早く良くなってほしい。


そこで私は皆に秘密で、お母さんの病気のために山頂にある薬草を取りに行くことにした。

日頃の感謝の気持ちも込めてだ。

以前に村を訪れた薬剤師のお婆ちゃんから薬草の生えている場所と特徴を教えてもらったので大丈夫である。


山を登るのは大変ではあるが、出来ないことはない。

辺境の地のため、モンスターも滅多なことじゃ現れない。

なので、アンは今までモンスターをほとんど見たことがない。

それでも一応にと護身用のナイフを持ち、周囲に注意をはらいながら、足を進める。


登ること、しばらく。

疲れながらも登り続けていると、ついに木々がなくなり山頂が見えた。


「や、やった。やっと着いた!」


アンは達成感に満たされながら、ずれていたお気に入りの帽子を直し、最後の力を振り絞り山頂へと駆け登る。

そして息をつきながらも山頂に達し、アンの目に満開に咲くお花畑が、




「グルルルルルッ」




―――――そして、その花畑に鎮座する鳥の化物がアンの目に映った。


羽は鈍い銀の輝きを放ち、15mはあろうかという巨大な体躯。

紅に輝く目はアンを捉えている。


生まれて此の方初めて見たが、この魔物をアンは知っていた。

昔、母が読んでくれた絵本に出てきた魔物にそっくりだ。

【町潰し】【血の瞳】【石の悪魔】

その怪物は呼ばれた名は数知れず、多くの犠牲の下に討伐された魔界を住処とする災厄。

その魔物の名は、



「こ、コカトリス・・・!?」


「ゴゲッーーーーーー!」



コカトリスがこちらに向かって走ってくる。

アンは腰が抜けてしまい逃げられない。

いや、少女が万全の状態であったとしても逃げきれなかったであろう。

絶望が刻一刻と迫ってきている。


(だ、誰か・・・助けて)


アンの願いも虚しく、応じる者は誰もおらず。

眼前に大きく開かれた口が迫り、ガルテアから1つの命が失われようとしていた。






「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!アベシッ!?」


「ゴゲブリェ!?」



ズドーン!



だが、神だけは見捨てなかった。


少女の命は救われた。

間抜けな声と共に降臨したガルテアのイレギュラー、沢辺誠一によって。


―――誠一の命はどうなったか知らないが





~数秒前に遡る~


皆さん、【自由落下】についてご存知だろうか。


物体が引力だけによって地面に引き寄せられる現象だ。

例えば・・・例えばの話だが、もしも物体を上空4000mから落とした場合どうなるか。


答えは簡単。


時間が経つにつれ、重力によりますます加速する。

地面に達する直前、物体の達する速度はおよそ時速200km。

正確には、空気抵抗とかいろいろな要因で速度が変わるだろうが。

・・・まあ、長々とこんな事を説明して、何が言いたいかというと、


今まさに死にそうです。


「死ぬううううううううううううううううううううううううううう!」


(何か、何かないか!?)


異世界でのファーストキスの相手が地面とか、マジでシャレにならねえ!

どうにかこの状況を打破するべく死ぬ気で思考する。


「そうだ、自分には【幸運】があったはず!」


神様からもらった能力だ、それでなんやかんやで無事になるはずだ。

良かった、これで一安心だ。


「ふー、良かった良かった・・・・・・って、なわけねえだろうが!」


この状況、運がいいだけで助かるわけがない。

そもそも幸運だったら今の状況になってねえよ!

現実逃避してる場合じゃねえぞ、俺のバカ野郎!


あまりのストレスのせいで現実逃避にノリツッコミする誠一。


何か身を守るものは何かないのか、何か、何か・・・!

問題を解決しようと、まるで某アニメの未来の猫型ロボットよろしく、慌てふためく俺。


だが、無慈悲にもその時は迫り、


「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!アベシッ!?」


「ゴゲブリェ!?」


ズドーン!


一瞬変な声が聞こえた気がするが、凄まじい音と共に誠一は意識を失った。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「・・・・・・・・・ハッ!?」


しばらくして、誠一は意識を取り戻した。

目覚めたばかりで、呆けていたが、空高くから落ちてきたことを思い出し慌てて怪我がないか調べる。

料理人の命である腕とその他の部分を確認するが、これといった外傷は見当たらない。

あの高さで怪我がないのは良いことだが、むしろ逆に不安になってくる。


「何故無事なのか訳が分からないが、良しとするか」


儲けもんだと思いながら、改めて誠一は自分の身を確認した。


まずは肉体だ。あの細くなった腕に筋肉が戻り、出ていたお腹が凹みバキバキに割れていた。

白髪に染まっていた髪も、黒くなっている。

ハナミ様は20歳ぐらいになるって言っていたな、あと肉体改造とも。


「生き延びたのも、改造のおかげなのか?」


その通りならハナミ様に感謝するべきなのだろうが、感謝したくないな。

そもそも、あんな空高くに転送されたのもハナミ様のせいな気がする。


それ以外に目立った肉体の変化は特に無いか。

服装はジーンズに安っぽいTシャツとパーカー。

庶民感が満載である。

前世の服なのか・・・いや、神様が作ったやつだ、間違いなく。

だって、内側のタグに『カミクロ』て書いてあるし。

無駄に凝ってんな、神様ってこんな服着るのか。


そんなこんなで服に少し感心をしていると、ズボンのポケットに何か入っているのに気づいた。


「・・・?何だこれ」


恐る恐るポケットに手を突っ込み、中身を確認する。


出てきたのは2つ。

1つは銀色の光沢を放つ金属で作られたカード。

何も書いてなく、凹凸がなく真っ平らだ。

もしかしてこれが身分証明書か?


「まさか不良品じゃないよな」


転送場所のヘマを考えると、充分あり得る。

不安になりながら、もう一つを確認すると


「スマートフォン?」


異世界に場違いな現代技術の結晶が出てきた。

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