Develop 11

 麗紅は自動販売機の前で何を買うか悩んでいた。最初は水を買おうと思って部屋を出たが、想像以上に種類が豊富でつい優柔不断になってしまう。

「あの、先にいいですか」

 背後から女の人に声を掛けられる。小声で謝罪しながら、自動販売機の前から横にずれる。

 女の人は千円札を入れ、缶コーヒーを三本買って近くの談話室へ去っていった。

 談話室では楽しそうな声が聞こえてくる。一人でいる自分のことを考えると何だか寂しい気分になった。Re-17と仲良くなれたのだから、他の人とも仲良くなれるかと思ったが、やはり、麗紅は口数が少なく、仲良くなれる気がしない。

 小銭を自動販売機に入れ、アイスティーを買う。

「あ」

 左脇に挟んでいた財布が床に落ちる。つい溜息を吐く。これだから、手先が不自由なのは不便だ。麗紅は不便で嫌な自分の左手を見た。この不便な左腕と左脚ともあと数日でお別れだ。

「大丈夫?」

 落ちた財布を拾おうとすると、先に聞き覚えのある声の主が拾った。

 麗紅よりも髪は少し長めの背の高い男性。

 ───レイセだ。

 眼鏡も掛けていないし、白衣も着ていない。髪も無造作じゃないし、麗紅と同じ被検体用の服を着ている。昨日会った時の格好とは違ったが、確かに彼はRe-17だった。

「レイセ……」

「麗紅に会いに来たらしゃがみ込んでたから……大丈夫?」

「うん、財布取ろうとしただけだから」

「そっか、安心した」

 Re-17は安堵し、笑顔を見せた。

「今から時間ある?」

「大丈夫だよ」

 麗紅が答えると、Re-17は目を輝かせ、麗紅の手を握った。

「連れていきたいところがあるんだ!」

 Re-17が麗紅を手を引き、立ち止まったのは、二階フロアの中央に位置する一つのドアの前だった。プレートも提げられておらず、このドアの先に何があるのか分からない。

「ここは?」

「入れば分かるよ」

 Re-17は子供っぽい笑みを浮べながら、ドアに内蔵されたICキー錠に手をかざした。錠が反応して小さな反応音を出し、解錠される。ドアを開けると、そこは庭だった。中央に大きな木がそびえ立っていて、上からは日光が眩しいほどに入ってくる。庭はステンドグラスに囲まれていて、ステンドグラスに日光が反射してキラキラと輝いていた。

「───綺麗」

 その言葉は無意識に麗紅の口から漏れていた。

「僕のお気に入りの場所。麗紅に見せたかったんだ」

 Re-17は麗紅の手を引き、更に中央へと歩を進める。木の下にはベンチと小さなテーブルがあった。静かで和やかな空間。研究所の中にあるなんて信じられない。

「こんな所があるんだね」

「そう。秘密の場所。僕とここの研究員の少数しか知らない。その中でもこの場所に入れるのはもっと絞られるんだ」

 Re-17は製造過程でこの庭への鍵を内蔵された。博美がそうしたのだ。

「私なんかを入れてもいいの?」

「うん、だって、初めての友達だから」

 Re-17から発せられる「友達」という言葉が、今まで聞いてきた「友達」とは違うものに感じられた。胸が締めつけられる。

「ありがとう」

 自然に感謝の言葉が出た。

「気に入った?」

 麗紅は黙って頷いた。

「良かった」

 Re-17は満足そうに笑う。

「これからも、ここに来よう。ここに来て色んな思い出を作ろう」

「うん」

 二人は暫くの間、綺麗に光るステンドグラスを眺めていた。


 To be continued......

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