第6話 謎の転校生現る!

 俺が通っている、私立尾張高等学校は別に愛知に有るわけでも無いのに、理事長が、

「私、愛知っていうか尾張が……いや、尾張の名武将信長様が大好きなのよ、私信長様の嫁だし!信長様LOVEフォーエバー……(以下略)」

 とかなんとか言って、強硬で決めたらしい。

 信長さんの存在を知った以上、実は濃姫さんが理事長なんじゃないかと思ったりしないでも無いわけだがともかくそれは置いておく。

 私立だけあって、設備なんかは大分整ってたりする。

 プールは、全天候型の温水プールだし、食堂も一流ホテルと見間違えるほど豪華な料理が出たりする。

 教室の机にはパソコンが標準搭載というハイテクっぷりだ、正直払っている金額で賄いきれないだろうレベルの見返りで入学当初は驚いた。

 しかし、慣れってのは恐ろしいもんで二年ともなると使い勝手がわかってくるからか、パソコンにPCゲームを落としたりしてる奴がいたりする。

 勘違いしている奴等も多いんだが、幽霊が見えるせいで、孤立しがちな俺だが、完全なぼっちという訳ではない。

 小学校からの付き合いのやつや、幽霊見えるなんて面白いじゃん!という奇特な奴等が居てくれたりする。

 だから割りと学園生活は充実している。

 まあ、それでも帰宅部の俺とは違い、大多数の奴は部活に所属してるから、放課後はぼっちな訳だが。

「へえ、ここが亮輔の通ってる学校ねぇ」

「設備はとても整っているようですね」

「今の寺子屋がっこうは面白いわね……」

「あ、あれはなんでしょうお義姉さま」

 断腸の思いで連れてきた二人はいけしゃあしゃあと、しゃべりたい放題だ。

 朝のホームルーム中にもかかわらず、まるでマシンガンのように話し掛けてくる……もっとも、マシンガンは弾が無くなれば打ち止めだが、この二人のトークはとどまるところを知らないようだ。

「……というわけで、転校生入ってきなさい」

 二人の相手をしていた……というか話を聞いていたせいで、重要な事項を聞き逃していたようだ。……どうやら、俺のクラスに転校生が来るらしい。

 二年の、それも5月半ばという中途半端な時期に……だ。

「……怪しいな、色々キナ臭い……だろ?亮輔」

 隣の男子生徒の問いに、俺は一拍置いてから答えることにした。

 信長さんたちとの会話と混同しないようにするためだ、まあ俺の友達の奇特な奴のほうなのであまり気にしないだろうが、念のためである。

「そうだな、転校してくるにしたって、時期がおかしい」

 ちなみに、話しかけてきた男子の名前は『越前翔真』どこぞのテニスの王子様とニアミスな名前だからか、テニス部に所属している。

 実力のほうは、国内の高校生でも指折りの実力だそうだ。

 なので通称、『ニアミスの皇帝』と言われているらしい。

 ……なぜ、パチモンのほうが位が高いのか。

 そんなことより、今は転校生だ。

 やはり転校生というものは、その肩書きがつくだけで一躍、時の人となる。

 そして、在校生サイドからすると、男なら女子が、女なら男子が歓喜……いや、狂喜乱舞する。

 ちなみに、翔真との会話を含め、ここまでの思考は担任の呼び掛けからドアが開くまでの五秒間に行われている。

 ドアが開き、転校生の片足が教室に踏み入ると、先程までの喧騒が嘘のように静まり返った。

 スカートの裾が見えた、つまり女子である。

 これにより、男子は皆若干前のめりになり、女子は、少し肩を落とした。

 そして、転校生の顔が見えると、また教室の雰囲気が変わった。

 男子は生唾飲み込む音が聞こえそうなほど、目を見開き、女子も可愛らしい物を見付けた時の様に目が輝いている。

 俺はと言うと、背後の信長さんたちの殺気で冷や汗タラタラだ。

「今日から、お前たちのクラスメートになる転校生の真砂一華まさごいちかさんだ、仲良くするように」

「真砂一華です、ヨロシクお願いします」

 銀髪のセミロングの髪はしっかり手入れをしているのであろう、綺麗に内巻きにカールしている。

 そして、眼鏡の奥の瞳は琥珀色に輝き、日本人離れした美しさだ。

 通った鼻筋に口角の僅かに上がった、薄紅の唇はそれこそ、西洋の人形を思わせる愛らしさがある。

 アイドルなんかにスカウトされれば間違いなく、バカ売れ必至の美少女だ。

「…………」

「…………?」

 そんな、美少女と一瞬だが目があった……。いや、恐らくあの少女は俺ではなく、俺の背後の信長さんと目を合わせたのだろう。

 信長さんが息を飲む音が聞こえたので間違いない。

 彼女は、恐らくではあるが信長さんたちがのだ。

 見えている、と言うことはSCCについて、何かを知っている……若しくは、憑依した武将の霊か何かなのだろう。

 彼女には注意したほうが良さそうだ。

「じゃあ、真砂の席は……浮津の左側が空いてるな、そこに座ってくれ」

「…はい」

 俺の席は、窓際から2列目の最後尾、その右側が翔真で左側は誰も座っていない空席だ、なんて羨ましいポジションだろう……ではなく、色々聞き出すにはなかなか良いポジションだ。

 ……まあ、どうせしばらくは転校生特有の質問攻めで話し掛ける機会などないだろうが。

「信長さん……転校生、戦国時代で見たことあるか?」

「私もそこまで国内の情報に詳しかった訳じゃ無いけど……もしかしたら忍とかそっちのほうの人間かもしれないわね」

「忍……ねぇ……」

 信長さんにも、よくわからないようだ。

 敵だとしたら厄介だな……、そう思っていたら転校生が挨拶もそこそこに自分の席についた。

「ヨロシクな」

「ええ、ヨロシク…」

 やはり信長さんたちを見ている……これはホントに憂鬱な1日になりそうだ……。


 ***


 午前の授業が終わり、あっという間に昼休みになった。

 午前の授業の休み時間では大量にクラスメイトが集まっていた一華の席も、昼休みともなるとあまり人が寄り付いていなかった、弁当にしろ、学食にしろ大体は決まったグループのメンツと食べるからだろう。

 俺は、この機に乗じて色々と聞き出してみることにした。

「真砂…昼飯一緒に食べないか?」

「ええ、別に構わないけど」

 とりあえず第一関門は突破だな。

「真砂も弁当なのか」

「も…ってことは、浮津君、だったかしら?あなたもなの?」

「あぁ、まあそんなとこ」

 他愛ない話で、警戒を解ければ良いんだけどな…。

「そういや、真砂ってどうしてうちの学校に転校してきたんだ?」

「そんなに面白い理由じゃないけど、大丈夫?」

「あぁ、いいよ」

 俺は、今朝作ってきただし巻き玉子を口に放り込みながら話を聞くことにした。

「親が仕事で海外に出張することになってね、海外に行ったら今以上に忙しくなって、ぼ……私に構ってる暇が無くなるからって、祖母の家に預けられたの」

「聞いてる限りだとそれ……」

「ええ、体の良い厄介払いね、祖母も亡くなって結局一人暮らしだし」

 聞いていただけで、全身の血管がにわかに泡立ち始めるのを感じた、同じ立場なら激昂していたことだろう。

「まあ、でも悪いことばかりじゃなかったみたい」

「え?」

「あなたみたいな、面白い人とも会えたことだしね」

 先程とは別の理由で血管が沸騰仕掛けたが、背後の三人分の視線に殺されそうだった為堪え忍んだ。

 気付かれないように深呼吸して、俺は別の質問をしてみた。

「真砂はさ、好きな戦国武将とかっている?」

 警戒されないように、遠回しな質問で攻めてみることにした。

「……なぜ、そんなことを?」

 まあ、そりゃそうだろうなそれが一般の反応だ……一拍の間がなければな。

 一拍の間があったってことは何か思うところが有るんだろう、ここは更に警戒されないように切り込むしかない。

「いやさ、俺戦国武将好きでさ、独眼竜の伊達政宗とか鬼島津とかさ」

 背後で「あの、奥州引きニートぶっ潰す」とか「あの酒乱で淫乱な女にだけは引き合わせないように……」とか聞こえた気がしないでもないが、今は目の前の真砂の様子を見なくては……。

「そうね……あまりメジャーではないけれど雑賀孫市かしらね」

「おぉ、傭兵集団雑賀衆の頭目かー」

「ええ、正確には雑賀衆の中の一派閥のトップなんだけどね」

「ほうほう」

は自分の部下達のことを何よりも信頼した用兵を行っていた点が素晴らしいと、私は思うの」

 これは完璧にクロだ、確かに雑賀孫市には女性説もあった、だが基本は鈴木孫一という男の武将の名前が転じて孫市になったそれが一般的だ。

 つまりほぼ女だけだったって言う信長さんの話を信じるなら、こいつは戦国武将だ。

 それも、雑賀孫市本人かそれに近しい誰かだ…でも、なぜわざわざ偽名を使ってまで俺に近付く…?

 それがイマイチわからんな……、とりあえず様子見ってことで話をあわせるか。

「そうか、孫市さんか……なかなか渋いところだな」

「そうね、あまり有名では無いわね」

「まあ、俺も嫌いじゃないぜ?」

「そ、そう?あなたも大概珍しい人ね」

 なぜ、照れたし。

 あんまり、そういう反応してほしく無いんだけどな……主に後ろの方々の反応で死にそうだから。

「あ、そうだ、放課後家に来る?祖父が収集家だったみたいで結構その手の情報いっぱいあるのよ」

 どうする、誘いに乗っておくか……?

 でもなー、それも恐ろしいと言えば恐ろしいんだよな……、主に学校の噂的な問題で。

『うつけが美少女転校生の転校初日に自宅に上がり込んだ』なんて噂されたらそれはもうほぼ死に等しいんじゃなかろうか。

 少し考えた俺はとある方策を一つ思い付いた。

「行きたいんだけどさ、一人歴史好きの知合い連れていってもいいか?」

「ええ、別に構わないけど」

「じゃあ、駅前で待ち合わせにしようぜ」

「ええ、わかったわ」

 さて、とりあえずこれで第一の危機は回避したぞ。

 ……問題は俺の後で起き始めてる第二の危機なんだが。

「私が行くわ、長政」

「いえ、私が行きますお義姉さま」

 どうしたら良いんだ、こういうときは……女ってのはホントにめんどくさい…。

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