第2話 霊衣着装!俺は信長!?

「纏うって、どうやれば良いんだよ!」

「SCCに右手を当てて『着装クロスオン』!!って言いなさい、その後は私に任せて!」

「わかった、『着装』!!」

 すると、SCCが淡い光を放ち始めた。そして……

『クロスオン! ノ・ブ・ナ・ガ!天下布武オンリーワン!』

 という発声とともに、その光が俺の全身を包み込んだ。

 次の瞬間、俺は真紅の陣羽織に黒い軽甲冑という出で立ちになっていた。

「すげえ、なんだこれ身体の底から力が湧いてくる…!」

『当然よ、あなたは今私と合体しているようなものなんだから』

 突然、信長さんの声が響いてきて、俺は思わず周囲を見回した。

『なーにやってるのよ、私とあなたは合体して文字通り、一心同体だって言ってるじゃない』

「なるほど、納得だ。で、俺はこのあとどうすればいい?」

『私の使える武器は、曲刀・天下布武と軽銃・曙丸よ。取り敢えず、家の中だし銃はやめた方が良いわね、取り敢えず天下布武を念じて呼び出してみて』

「わかった」

 俺は右手に意識を集中させ、曲刀をイメージした。

 やがて、俺の身長の半分ほどの刃渡りの曲刀が現れた。

「ん?思ったより軽いんだな」

『当たり前じゃない、私が使うの前提なんだから軽くて振りやすい様になってるに決まってるじゃない』

 なんでかいやに刺々しい、これはあれか、生まれたままの姿を見てしまったことに対する、怒りと恥ずかしさが未だに尾を引いてるのか。

『一応一体化してるから、考え筒抜けなんだけど…?』

「それはすまん。これを片付けたらなんか埋め合わせ考えるから」

 言って目の前の影夜叉に、意識を集中した。

 恐らく、敵の攻撃が当たったら相当危険だろう。そう判断した俺は、相手が動きを見せる前に一気に攻め立てることにした。

「せい!」

 一息で距離を詰めると、大上段から斬りつけた。影夜叉は身を守るために、持っていた刀を横一文字にして俺の一撃を受けようとした、だが勢いに乗った曲刀の一撃を食らい、そもそも刃こぼれしていたその刀は、真っ二つに折れた。

 それによって、多少勢いは落ちたがそれでも未だ曲刀は止まらず、影夜叉を頭から真っ二つに両断した。

 そして影夜叉は音もなく霧消した。

「なんだか呆気なかったな」

『多分小手調べで弱いやつを送ってきたのね、陰険な真似してくれちゃって』

「陰険とは違うと思うけど…それよりこれどうやって解除すんの?」

『もう一度右手で触れば解除されるわ』

 言われた通りに触ってみると、『クロスアウト』という発声とともに、元に戻った。

「さすがに解除したら信長さんが裸でしたなんて、ありきたりなことは……無いな、良かった」

 後ろの信長さんはしっかり服を着ていた、まあ恐らく今後も襲ってくるだろうし、毎度脱がれても困るんだけど。

「ん?」

 戦い終わった後、余り気にしなかったが、SCCに若干の変化が起きていた。パーツが部分的に、信長さんの瞳のような真紅に染まっていた。

「なんか若干色変わってるんだけど」

「そういう仕様みたいね、この感じだと後三人位は登録出来るんじゃないかしら」

 そう言うと信長さんは踵を返した、恐らく風呂にでも行ったのだろう。

「じゃあ、信長さんの部屋でも用意しますかね」

 俺は一人呟いて、2階の空き部屋のひとつに向かった。


 ***


 30分くらいで整理と布団の用意を済ませると、俺はリビングでソファに沈むように腰かけた。

 今日は色々と有りすぎた。頭がキャパオーバー起こしそうなレベルだ。

「これからどうなることやら」

「そうだね、りょーちゃん」

「香菜、お前休んだんじゃなかったのか?」

「変態さんは見張っとかないと大変なことになるからね」

 どうやら今日の一件で、香菜の俺への好感度は大分落ちたらしい。……不可抗力なのに。

 ……そもそも好感度なんてあったのかすらあやしいが。

「俺はもうちょい起きてるから香菜は寝ちゃえよ」

「そう言ってあの人にイヤらしいことでもするんでしょ」

「阿呆か、信長さんに部屋教えるだけだっての」

 その後も香菜は少し不満そうな顔をしていたが、眠気には勝てなかった様子で、目を擦りながら仏壇の中に入っていった。

「さてと、信長さんが出てくるまでどうするか」

 そう言えば信長さんに、シャワーとドライヤーの使い方教えて無かったような気がする。30分以上経ってから気付くのもあれだと思うが。

「信長さん?シャワーとかの使い方ってわかるか?」

 勿論脱衣場に入って行くわけにもいかず、外から声をかけた。


 ………………………………。


 5分くらい経っても、返答がない。まあ、女性だから仕方ないだろう。もう少ししてからまた聞いてみるか。


 ……………………。


 3分経ったそろそろ聞いてみよう。

「信長さん?大丈夫か?」

 まだ、返答はない。これはいよいよのぼせてるんじゃなかろうか。

 しかしもう、香菜は寝かせてしまった。

 中を確認するには俺が行くしかない。

 ……また罵倒されるだろうな。そう思いながら、俺は脱衣場のドアを開けた。

 信長さんの姿は……ない。ならまだ、浴室だろう。

 あーあ、まったく女性なんだから脱ぎ散らかしておくのはやめてほしい。色々と目の毒だ。

 一応ここでも信長さんに声をかけてみよう。

「信長さん?大丈夫か?」

 ………………………………。

 やっぱり反応はない。

 仕方ない、俺は腹を括って浴室のドアを開けた。

 そこには、湯船に浸かりながら気を失っている信長さんがいた。

「最悪だ……」

 言いつつ俺はなるべく信長さんの身体を見ないようにしながら、湯船から引っ張り上げると。これもまた身体を見ないようにしながらバスタオルで身体を拭き、あらかじめ持ってきていたのであろうキャミソールとホットパンツを穿かせ(緊急時だったので下着も俺が穿かせた)、リビングまでおぶって連れていき、ソファに横たえた。

 横たえた後、頭に濡れタオルを乗せると俺はようやく一息ついてソファの座面に寄りかかるように座った。

 きっと、憑依出来るとはいっても所詮はマネキンの身体だし、慣れないことだから疲れたんだろう。

「んっ…あれ、私…」

「ようやくお目覚めか、信長さん」

 目を覚ました信長さんは未だにポヤポヤした目をしていたが、あらましを(俺が不利になるようなことはそれとなく隠して)伝えると、状況に合点がいったようだった。

「そしたら、信長さんもう寝る?」

「そうね、予想以上に疲れたしもう寝ようかしら」

「じゃあ、部屋まで案内するよ」

信長さんを部屋まで連れていって自分の部屋に戻ると俺は、ベッドにダイブして直ぐ様意識を手放した。

こんなにぐっすり寝たのはいつぶりだろう、と思うほど快眠だった。


***


朝、目が覚めると俺は猛烈な違和感に襲われた。

というか、何故か布団が盛り上がっている、人肌の暖かさと重みを俺の胸の辺りに感じる。

「信長さんが寝惚けて入って来ましたとかじゃ……無いよな?」

一つ呼吸を置いて意を決して布団を引っぺがすと、そこには……全裸の青髪美女がいた。

「………………」

まあ、そりゃ絶句しますよ。

なんせ、信長さんがその直後に部屋に入って来たんだから。


☆☆☆


目が覚めた私は、昨日寝る前に確認した亮輔の部屋に向かうことにした。彼を起こしに行くためだ。安土桃山の時代から早起きは三文の得と言われていたし、何より彼の寝顔がどんな間抜け面なのかを拝んで見たかった。

そんなわけで私は彼の部屋の扉を勢い良く開いた。

「おはよう、朝よ!りょうす……け?」

私が起こしに来ると既に彼が目覚めていた……だけでなく、彼の胸の中にかつての私の義妹・浅井長政が全裸で抱き付くような格好で寝ていたのだから。

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