ステラリス銀河への進出

第1話 恒星間調査船試験航海艦隊

今日から本格的に私の仕事が始まる。

今までは、各システムの調整等を一人でこなしてきたが、

いよいよ新しいマスターとの対面だ。



「こんにちは、大君主ドロレズ・ゴンザレズ様。

 私はヴェアー、あなたのアドバイザーとして仕えるため、我々の文明で最も優れた知性が開発した摸擬知性体のプロトタイプです。

 できるかぎりの効率で任務を遂行するよう努力いたします。」

「初めましてヴェアー、これからよろしくお願いしますね。

 私はつい先日この役職に着いたばかりですので頼りにしていますよ。」


グレゴ暦2199年某日

これが、私が初めて造物主以外のマスターの元に就いた日の会話であった。



アドニア星系第一惑星アドノア、衛星サン・クリストバルを要する大陸型惑星。


私たちが住まうこの母なる惑星を紹介する上で忘れてはいけないことがある。

それは、同じ公転軌道上にもう一つ惑星が在ることだ。

名前をデルゴヴィシア。

惑星と呼ばれてはいるが、正確には準惑星となる。

だが、世間一般では惑星として認識されている。

このデルゴヴィシアも、衛星を要しており名前をワン・トンという。


同じ公転軌道上に規模の違いこそあれ、惑星と呼べるものが二つ存在している。

こんな稀有な環境の下にある惑星が、私たちの母星アドノアである。



グレゴ暦2200年1月1日


「引継ぎも滞りなく終わりました。

 予定通り今日から本格的に仕事が始まりますね。」

「はい、

 初日の仕事は前大君主が進めていました、恒星間調査の為に編成されました、

 調査艦隊進宙式典となります。」

「本来であれば、ご自分が出席したかったでしょうに・・・。」

「しかし、こればかりは・・・」

「そうですね、私たちの医療技術では、限界寿命の延長までは至っていませんからね。」

「はい、亡くなるそのときまで感覚などを誤魔化し、普段と変わることなく行動できますが、そこまでです。」


「ドロレズ様そろそろお時間です。」

「えー、では、式典に出席している間になにかあったときは、

プロセスどおりにお願いします。」



寿命か・・・。

レガリアン人の現在の平均寿命はおよそ100年。

記録されている限りの最高齢は136歳だ。


これは、レガリアン人としての限界寿命だと言われている。

個人差を考慮しても130~140歳。

これ以上の寿命延長は、生物として何かしらの壁を突破しないといけないと結論付けられている。

このさき、レガリアン人はどのような形で、この壁を突破するのだろうか。



グレゴ暦2200年1月12日


次代の大君主が選ばれ、副大君主として任命される。

副大君主として選ばれのはニイノミ・ゴンザレズ。


「本日正式に副大君主が決まりました。」

「そうですか、無事私の推挙したニイノミが議会の承認を得られたようですね。」

「はい」



グレゴ暦2000年初頭

アドノア統一国家レガリアン・コンシャスネスが樹立。

これにより、アドノアに住まう全人類種は、レガリアン人という名称に統一される。


政治形態としては立憲君主制となるが、実態としては絶対君主制と言っていいだろう。


統一国家樹立前の各国家の代表・・・、

大統領や国王などをそれぞれの地域の君主に据え、この君主により議会を発足。

その後、その議会に於いて大君主を選出した。


このやり方だと、議会の紛糾が容易に想像できるだろう。

だが、実際にはそうはならなかった。


なぜならば、統一国家樹立を行った者たちによる根回しというなの、煽動が行われていたのだ。


その者たちはゴンザレズ家。

当時、各国家に対して国債の買い付け、投資・・・。

方法は違えど、お金の力を持って自身の影響力を高めていた豪商の家系である。

金は力を体現し統一国家樹立までも、その影響力を持って成し遂げてしまった。

そして、今もなおその影響力は衰えず、今日に至るまで大君主はこのゴンザレズ家から輩出されてきたのだった。



グレゴ暦2200年3月29日


「研究部門からの報告です。

 本日未明、アドノア宇宙港の観測所に依って、リンダウェリランド星系に船団と思われる構造体が発見されました。

現在も継続して観測を行っていますが、詳細については判明してないようです。」

「あら、このタイミングでですか。

どこかのタイミングで何かしらと接触するとは思っていましたが・・・。

まさか、隣の恒星系で観測するとは。」


ふーーん、今の段階ではなんともいえないですね。


「ヴェアー、異星生命体の可能性も考慮して最優先で調査をするように伝えてください。」

「解りました、研究部門各所に通達開始します。」



レガリアン人にとって、初めての異星生命体のものかもしれない構造体の観測。

それも、船団と呼べる規模のものだ。

果たしてこの接触は、どのような結果を招くのだろうか。


追記:便宜上この構造体を「アルファエイリアン」と呼称することが後日決定した。

 


グレゴ暦2200年5月16日


「研究部門からの報告です。

 本日昼頃、アドノア宇宙港の観測所に於いて、アルファエイリアンの観測を継続していたチームが、リンダウェリランド星系に新たな構造体を発見しました。

先に観測した構造体との類似性は認められないため、別の種族のものと推定。」

「あら、2ヶ月もたたないうちに新たな接触ですか、しかも、同じ星系と・・・。」


これは、偶然?それとも何か理由があるのかしら。



2ヶ月、この広大な宇宙においてこの期間は一瞬といえるだろう。

この短い期間で、別種の異星生命体の物と思われる構造体を観測。

私たちが、本格的に外宇宙に進出しようとしている最中にだ。

何かが起ころうとしてるのだろうか・・・。


追記:便宜上この構造体を「ベータエイリアン」と呼称することが決定。



恒星間調査船試験航海艦隊旗艦 サッチ 提督執務室


恒星間調査艦の試験航海がスタートしておよそ6ヶ月。

通常航行、FTL航行、惑星探査、

これらのテストを行いながら各種訓練項目をこなしつつ、アドニア星系を航行中の調査艦隊。

その旗艦となるガガーリン級調査艦サッチの執務室で寛ぐクラリース・バーゲロンに報告がもたらされた。


内容の概略は、今までの観測との整合性が得られないデータを観測したというもの。

クラーリスは先日本国から報告があった、異星生命体の可能性もある、構造体を思い浮かべた。

自身の文官を呼び出しつつ、防衛部門を取り仕切るシァング・タンとの回線をオープンにした。


「タン防衛長、先ほど私のところにこれまでの観測データと整合性が得られないモノを発見したという報告が上がってきた。

そちらにも、報告は行っているか。」

「はい、すでに私の耳にも届いております。

 ・・・先日、本国から異星生命体との接触の可能性が示唆されたこのタイミングとは、何かありそうですかな?」

「それに関しては、今行わせている調査しだいだろう。

ただ、もしもの事態に備えておいてはくれ給え。」

「それは、もちろん滞りなく。

しかし、今のこの艦隊の防衛戦力でどこまで出来るのやら。」



グレゴ暦2200年8月25日


「先日届きました、恒星間調査艦隊からの暗号データの解凍が終わりました。

 こちらが、データになります。」

「ありがとう、さて、一体なんだったんでしょうね。」



「・・・ふ。これはこれは」

「どうかなさいましたか?」

「ヴェアー、中身は読んだかしら?」

「はい、データ入力はすでに完了しています。」



恒星間調査船試験航海艦隊による、アドニア星系第9惑星セレンディピティにて発見されたアノマリーについての報告書から一文抜粋


我々の古い探査機をセレンディピティで発見しました。

どういうわけか故障しておらず、未だに母星にデータを送ろうとしています。



これは、かつて宇宙開発黎明期において打ち上げられた探査機のことだろう。

いやはや、まさか数百年も前に打ち上げられた物が、稼動しているとは。

しかも、報告書の内容では惑星表面にあり、

墜落かそれに近しい状態で地表に降り立ったとのこと。

どれだけ、頑丈だったのでしょう。

しかし、それもうなずける、これを作った人々の国のことを、

かつてのマスターが変態技術国家などど言っていましたからね。




それは過去の苦闘の象徴であり、惑星というくびきから逃れようという願いの象徴となったのだった。



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※メモ

恒星間調査艦試験航海艦隊編成


恒星間調査艦試験航海艦隊旗艦

サッチ ガガーリン級調査艦(艦隊提督搭乗艦) 提督クラーリス バーゲロン

恒星間調査艦試験航海艦隊随伴艦

バラオ ドーリットル級コルベット 艦長シァング タン(防衛部門長)

リドヴァク 同級

ブルドッグ 同級

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