第4話 フィールドホッケー部

「落ち込むなら真琴から謝ったら? でも、癪だわ~。スポ根女はひどいわね~」


 真琴は昼食をサヤカと校庭のベンチで食べていた。真琴は昨日の昼休みの出来事をサヤカに打ち明けたのであった。


「うん、私も癪なんだけどね。でも、私も大人げなかったかなって……」

「俊が悪い! 乙女の純情を何だと思っているの、俊は」


 サヤカは語調を強めた。


「朝のランニングのときに俊とたまたま遭ったけど、こっちを見てなかったよ」

「乙女、悲しむな。こういうこともあるって。にしても、俊は鈍感ね~。ウチの高校のマドンナに惚れられてるっていうのに!」

「サヤカ、小声で!…あと、マドンナじゃないよ、私」


 真琴は誰かに聞かれてなかったか、周りを見回した。幸いにも近くには誰もいない。ホッとした真琴を見てサヤカは


「少し俊をほっといたらいいよ。俊も真琴の大切さに気がつくんじゃない」


 サヤカの意見ももっともなことだ、子供の頃からずっと一緒だったからお互いが慣れすぎているのかもしれない、しばらくは様子見がいいかなとも真琴は思った。


 その日の学校は何事もなく授業を受けて、部活の時間になった。その間、俊と話す機会はやはりなかった。



(あっ、こんな初歩的なミスを)


 真琴が持つスティックからボールが離れ、予期せぬ方向へ転がっていった。


「すいません」


とペアで練習していた先輩の川俣かわまた奈津希なつきに謝り、真琴はボールを拾いにラインの外に行く。


 フィールドホッケーのスティックは長さ約90cm、先端が湾曲した形状で平らな面と丸みを帯びた面からなる。ボールは平らな面でしか扱うことはできない。ドリブルの際はスティックをくるっと回しながらボールを運ばなければならない。


 今日の真琴はスティックの回しがいつもよりぎこちなかった。


 ボールをつかんだ真琴はラインの内側に戻る。ホッケーのボールの大きさはだいたい野球の硬球ほどだ。硬さはゴルフボール並み。  


 スティックから放たれるボールのスピードは時速100㎞を超え、世界水準の選手なら200㎞を超える。このボールスピードの爽快感がフィールドホッケーの魅力とも言える。


 ただし、速い球が直撃すると危険であるか、らゴールキーパーはプロテクターやレガード(脛当て)、ヘルメット等を着用する。


 また、ルールは安全性を重視し、基本的にシュート以外にボールを高くあげてはいけないし、サークルと呼ばれる半円の中でのみシュートは可能である。


 スティックを持ちスピードボールを打ち合う選手たちは、冷静な判断力と相手を危険にさらさない配慮が要求されるのである。


 真琴がドリブルとパスの練習を再開すると程なくして休憩タイムになった。 


「マコ、今日は調子が悪そうね、何かあったの?」


 キャプテンの川治かわじ摩耶まやがベンチで休む真琴に声をかけた。彼女はショートカットで少し小柄だが、DFディフェンス陣の要で、全日本高校生選抜にも選ばれている。


「あっ、摩耶先輩、何でもないんですよ。今日はミスが多くてすいません」

「そう、なんでもないならいいのだけれど・・・。いつもとパスの感じが違うから心配したの。体調とか、悪いときは言ってね」


 摩耶は冷静で思いやりがあり、よく気がつく人だ。だから、キャプテンを任されている。


 フィールドホッケーは、激しいスポーツに属する。そんな競技を続けられる女子は、どこかに強さを持っている。気持ちがぶつかり合うことも少なくない。摩耶がいるからこそ、強い個性が集まるこのチームが一つにまとまっていると真琴は常々感じる。そんな先輩の摩耶に要らぬ心配をかけてはいけないと真琴は思った。


(8月には全国大会が待っている。落ち込んでる場合じゃないわ!)


「休憩終了!」


 コーチの平ケ崎ひらがさき由紀子ゆきこの声がグランドに轟いた。真琴はスティックを持ち直してグランドに戻った。

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