目に見えぬ者たちの縁を結び、欠けていた大切なものを取り戻していく。

 ひょんなことから不思議なアルバイトをすることになった気弱な少女・結。他の人には見ることのできない化生のものと呼ばれる存在に届け物をすることで、縁を結んでいく物語。
 雇い主である瑠璃と琥珀、クラスメイトの夏帆、どこかチャーミングな化生のものたちなど、個性豊かな登場人物に囲まれ、主人公の結は主に受け身の姿勢で事件に巻き込まれていきます。
 家族の顔を知らない、友達と呼べる相手もいない、自分に自信が持てない——最初の頃の結は、多くの欠落を抱えています。しかし戸惑いながらも勇気を持って一歩を踏み出すことで、たくさんの縁を結ぶことができます。
 思うにこれは、周りの人々や化生のものたちの絆をつなぐと同時に、結が自身の中の欠落を埋めていく物語、なのではないでしょうか。

 物語を紡ぐ文章も、とても良く練られていると感じます。
 独特だけれどすとんと腑に落ちる言い回しの比喩表現や、ひらがなが多く柔らかい文の中に時々現れる難しい漢字の名詞など、目に飛び込んでくるそうした文章の表情が、この物語の少し不思議な世界観を形作るのに一役買っています。

 読み手の心をほっこりさせる、素敵な物語。続きも楽しく拝読いたします。

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