土曜日。ソウは朝からパチンコ屋に出かけた。リアと私は今日から開く海に出かけた。自転車で、水着の上にラッシュガード、ショートパンツと言う出で立ちで海岸に向かった。数軒の海の家がオープンしていたけれどアルコールは我慢してリアと遊んだ。空気入れで膨らませてきた浮輪で浮かぶリアを押して泳いだ。砂の山に螺旋を作り、砂を固めたボールを転がした。作っても作っても砂のボールは転がる途中で崩れた。私たちは砂山にトンネルを掘った。トンネルが貫通して、小さくて柔らかい可愛い手と握手した。

 スマートフォンの防水ケースに入れてきた千円札を二枚出した。海の家で焼きそばとかき氷を頼んで、リアとシェアした。リアはほとんど食べられないくせに必ずブルーハワイと練乳のかき氷を頼む。私に手渡される頃には、かき氷は半分溶けていた。水着のまま自転車に乗り、家の前で乾いた砂を払う。そのまま二人でシャワーを浴びた。バスルームはまだ照明が要らないほどの陽光に包まれていた。柔らかいソープの香りが漂った。


 夕方。ソウは不機嫌な顔で帰ってきてキッチンで煙草を吸っていた。少し落ち着いたのか、煙草を消すと、リビングでDVDを観ていたリアを抱き上げた。

「俺もリアと海に行けば良かったなぁ」

 ソウは力なく笑って、リアを小さな水槽の前まで抱えて行った。

「クレオにゴハンあげた?」

 じゃあ一緒にあげようぜ。ソウは小さな餌の粒をリアの手のひらに載せた。クレオは待ちきれないように水槽の中を行ったり来たりしている。リアは水色のベタに「クレオ」と言う名前を付けた。ディズニーのアニメーション映画の「ピノキオ」に出てくる金魚の名前だ。

「クレオたべて」

 リアが水槽の蓋に空いた穴から餌を落とすと、クレオは勢いよく食いついた。

 夕食の準備をしていると頭痛が始まった。料理を並べ終わった時には食事を口に出来ないくらいに痛かった。冷感シートを額に貼ってベッドに横になった。ソウとリアが、歩いて三分のところにあるドラッグストアで湿布とミネラルウォーターを買ってきてくれた。湿布を切って両耳の前の辺りに貼った。様子を見にきてくれたソウに、リアの歯の仕上げ磨きを頼んで目を閉じた。


 夜中に目を覚ました時には少し痛みが引いていた。リアもソウも眠っていた。ソウ、ありがとう、と頭の中で言って起き上がった。食べ終わった食器は洗われて水切りに並んでいた。冷感シートと湿布を貼り替えて、買ってきてもらったミネラルウォーターを飲んだ。夕方帰ってきたソウの様子だと、小遣いを使い果たしてしまっている気がした。一昨日が給料日だったばかりなのに……。私は長いため息を吐きながら、ため息と一緒に幸せが逃げていくのって本当かな、と思った。夜になって切り替えたLEDの、淡い紫の光に満ちた水槽を眺めた。水草に隠れるようにしてじっとしているクレオも眠っているようだった。遮光カーテンの隙間から薄っすらと光の線が滲んでいた。カーテンを開けて見上げると、空が白み始めていた。私は寝室に戻ってリアのパジャマを直し、もう一度ソウの隣に横になった。

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