《 虐待 》悲しいオモチャ ②

この物語は、ひとり芝居風に描かれています。

落語のように、主人公の台詞だけで話を展開してまいります。


 ****************************************************************************

 【 その二 虐待された子 】


場所:肌寒い三月のアパートのベランダ


お腹がすいたー。

もう……何日もご飯食べてない。

前は一日に一回はパンとジュースくれてたのに……。

母さんが……くれなくなった。

ここのまま、あたし死ぬのかなぁー。


まだ、三月だから……ベランダは寒いよ。

こんな毛布一枚じゃあ、凍えてしまう。

寒いよぉー寒いよぉー。


どうして、あたしだけ、お部屋の中に入れて貰えないの?

中からテレビの音や笑い声、食器がガチャガチャ……と、

みんなでご飯を食べてる音がするのに……。

あたしだけ中に入れて貰えない。

なんで……?


痛い、痛い!

新しいお父さんに殴られた、身体中が痛い!

なにも悪いことしてないのに、どうして、あたしばっかり殴るの?

あたしが母さんの『連れ子』だから、可愛くないから殴るの?

母さんも側で見てるくせに、どうしておとうさんを止めてくれないの?

もう……あたしのこと可愛くないから?


なんでこんなことになったんだろう?

去年、お父さんとお母さんが大ケンカして、

離婚しちゃったんだ。

お姉ちゃんはお父さんと家に残って、

あたしはお母さんに引き取られて家から出ていった。

四人家族がバラバラになって、

もうお姉ちゃんとも会えなくなった。


ふたりで家を出て……。

お母さんは、すぐに今のお父さんと一緒に暮らし始めた。

新しいお父さんも最初だけは優しかったけど……。

お父さんの連れ子も一緒に暮らすようになってから、

あたしばっかり怒るようになった。


お母さんは、そんなお父さんをれものにさわるように、

ビクビクしながら……見てるだけで何も言わない。

お父さんに命じられるまま、あたしにご飯も食べさせない。

連れ子の男の子には、お菓子やオモチャを買ってご機嫌取ってるくせに。

もう……あたしはお母さんの子どもと違うの?

ただのなの?


本当のお父さんやお姉ちゃんは、

どうしてるんだろう?

ずっと前、家族旅行で東京ディズニーランドに、

行った時は楽しかったなぁー。

アトラクション観たり、乗り物にのったり、レストランで食事したり、

お土産いっぱい買ったり……。

みんなで楽しかったのに、あんなに楽しかったのに!

本当の家族だから……幸せだったんだ。


今は毎日毎日、新しいお父さんに殴られてる。

どんなに泣いて頼んでも許してくれない!

「屑」とか、「死ね!」とか怒鳴りながら、

棒で叩いたり、足で蹴ったりする。

痛くて気を失ったら……べランダに放り出される。

もう……限界だよ……あたし……。


……どうして、誰も助けてくれないの?

学校の先生にも言ったんだ「新しいお父さんに殴られた」って、

お友だちにも「お父さんが怖い!」って泣いたのに……。

みんな遠巻きに見ているだけで知らん顔してる。

誰も……誰も……助けてくれない!


逆に、お父さんに、

「殴られたって、言ってますが本当ですか?」

先生が訊きにきたから……お父さんを怒らせてしまって、

学校にも行かせて貰えなくなったし、

前より、もっともっと酷く殴られるようになった!


大人の言い分ばかり信じて……。

子どもの叫び声なんて、誰も聴いてないんだ。

大人たちは子どもを守ってくれないの?

あたし、誰に、誰に助けを求めたら良かったんだろう?


もうイヤだ! 楽になりたい!

毎日毎日、殴られるのはイヤだぁ―――!!


苦しいよぉー、苦しいよぉー。

身体中痛くて……苦しいよ……。

誰か助けにきてください。

お父さん、お姉ちゃん、先生、お友だち……。

誰か、誰か……お願いだから気づいてよ。


こんなところでひとりぼっちで死ぬのは、

……寂しいよ。

お母さん……お母さん……お母さん……。


……助けてよ。

あたし良い子になるから……。

お母さん、助けて………………よ。



………………………………………………

………………………………………………

………………………………………………。



あぁ!

あたしの身体から……魂が抜けていく――。

もう苦しくないよ!

お腹も空いてないし、身体中が痛くないもん。


ベランダで死んでいる。

痩せて、身体中が痣だらけのあたしが……。

悲しそうな顔であたしが死んでいる!


……お部屋の中ではお母さんたちが、

テレビ見ながら、おやつ食べてる。

あたしの存在なんか忘れちゃってるのかなぁー?


あぁー、お月さまがとってもきれいだ。

まだ、あたしがちっちゃい頃に、

お母さんに抱っこされて見た、

あの月さまにも手が届くかなぁー?


今度、生まれ変わったら……。

あたし、お花になりたい。


みんなに「きれいだね」って褒められて

そして枯れちゃうんだ。

短くてもいいから、ちゃんと愛されたい。


それでいいんだ。 それがいいんだ! 


                                         

 

                         完。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る