第25話

 次の日、学校でテスト勉強について鏡也と話をした。


「へぇーちゃんとテスト勉強してるんだな」


「まぁどんな問題が出るか予想しながら、普段してる勉強をおさらいしてるようなもんだけどね」


 普段からそれなりに勉強をしている海生はおさらいをしているような感覚なのだ。


「海生は一応ちゃんと勉強してるっぽいもんな」


「そういう鏡也はあんま勉強してる感じじゃないよな」


 鏡也は普段の授業は普通に聞いているが、家に帰って勉強しているという感じではない。中学の時からの付き合いだがそれは高校になっても変わらないようだ。


「んーまぁ授業聞いてればだいたいわかるし、テストに出るって先生方が言った箇所だけちょこっとテスト前に見返せば点はとれるし」


「お前のそーゆー天才型のとこ腹立つな……いつか努力型の奴に足すくわれるぞー?」


「ねぇよ。お前は俺に勝ったことないだろ?」


 毎度恒例になりつつある取っ組みあいの喧嘩をはじめる鏡也と海生。だがこと取っ組みあいに関しては鏡也はもう海生に手も足もでない。


「ね?」


 どや顔で鏡也を組み伏せる海生に悔しそうに言葉を返す鏡也。

 だが二人は気づいていない。その二人を見守るクラスの視線の中に、最近優香と美優と同種の視線が紛れ込んで来ていることを。


「ちくしょうお前こんなのばっか強くなりやがって! この前の大会の時だって……」


「ん? なんで大会のこと知ってるの?」


 しまったというような顔をする鏡也。どうやら大会の時見に来ていたようなのだ。


「うるせぇ別に良いだろ。俺そもそも見にいくって言ってたし」


 見に行った鏡也は思ったよりも海生が活躍していたこと、レスリングが思ったより面白そうだったこと、マネージャーが思ったより可愛かったことで、少しバカにしていた自分が恥ずかしくなりなんとなく声をかけられなくなっていたのだった。


「へぇー見に来てたんなら声かけてくれれば良かったのに」


「ただ見たかっただけだから良いんだよ。それよりテストで勝負しようぜ?」


「負けたら何でも一つゆうこと聞くとか?」


 周りで話を聞いていた者たちの中に『ん? 何でも?』と反応している者がいたが海生達の耳には入らなかった。


「おーしそれで良いぜ? 勝ったらお前に人に言えないようなことさせるからな?」


「それはこっちも同じだよ」


 テスト勉強に気合を入れる二人。そして放課後、昨日と同じように勉強に励む。



 学校が終わった後、昨日と同じように海生の家で勉強を始める海生と幸隆。今日は英語と国語だ。


「英語は単語を出来るだけ多くの単語を覚えておくと良いと思うよ? ただテスト前だけで沢山覚えるのは大変だと思うから、出そうな単語絞って覚えよう」


「わかった」


 赤点を取ることで補習となりレスリングの練習時間が削られるのが嫌な幸隆は真剣に取り組んでいる。


「あとはちょっとした文章問題とかだね。えっと去年の問題はどういうのが出てるんだろ」


 海生は優香と美優から借りた英語のテスト問題を確認してみる。比較的まともそうな回答をしている美優の解答用紙も一緒に見てみた。


 問1この文章を英語に訳しなさい。

『疲れていてベッドから立ち上がることも出来ない』

 解答欄

 It can not also be rises from ed tired


「あーこれ惜しい! ベッドのbが抜けちゃっててバツになってるや」


 だが少し考えて海生は妙な事に気づく。


「なんかEDって単語と立ち上がることも出来ないって言葉一緒に並ぶと嫌なこと連想させるな」


 英語の勉強が終わり、国語の勉強に移る。


「国語は漢字と文章問題がメインだけど、これも暗記出来る漢字から覚えよう。文章問題はだいたい問題文の中に答えがあるから慣れるしかないし」


「なぁ海生これ去年のテスト問題さ。なんか偏ってねぇ?」


 実際に去年のテスト問題を見てみると、確かに漢字が偏っている気がする。


 以下の漢字の読み方を書きなさい

 薔薇  百合  葡萄


 優香のテスト用紙の解答欄を見ると全問正解している。読み方は

 ばら、 ゆり、 ぶどうのようだ。


「ま、まぁちょっと偏ってる気がするけど気にせず覚えよう!」

 海生は別の意味を考えたら負けだと思い、暗記するのに集中した。


 ____________________________


 一通り勉強して一息ついたところで部屋のドアがノックされ、海里が海生の部屋に入ってきた。


「お疲れさん。飲み物持ってきたよー」


「ありが……柄にもないことしてるね」


 お礼を言おうとしてふと我に返った海生。姉にはあまり素直になれないようだ。


 どうもありがとうございますとお礼をいう幸隆に、どういたしましてというよそ行きの笑顔をむける海里。


「なんだ海生? 今普通にありがとうって言おうとしてたな? 姉ちゃんに感謝していいんだよ?」


「いいよそういうのは。っていうかベストなタイミングで飲み物持ってきたね。ちょうど休憩してたところだったんだけど」


 まぁそりゃ聞き耳たててたしとぼそっと海生には聞こえない声で海里は呟いた。


「まぁ姉ちゃんは間の良い奴だからな!」


 そして誤魔化すように話をそらした。


 ごゆっくりーと言葉を残して部屋を出ていく海里。思ったよりあっさりと出ていったので勉強を早めに再開出来た。


 そして今日の勉強も終わって帰り際、幸隆がつぶやいた。


「早く練習したいな」


 海生は少し沈黙を保って、うんと一言返した。

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