第15話

 団体戦のニ回戦が始まる。団体戦の出場校は三校になるため、この試合に勝利すれば団体戦の優勝が決まる。


相手の高校の名前は『首里工業高校』、団体戦は六階級をそろえており、74kg級のみ欠けている。


「はっはー 一階級分ハンデがあるとはいえ負ける気はねぇぜ?」

やけに元気で張り切っているように見える選手がいた。整列して学校別に並んだ際に84kg級であることが分かる。


「康太よぉちょっとは強くなったのか? まぁ強くなっててもまたボコボコにしてやるから覚悟しとけよ?」


「舐めないでください? 俺がいつまでもあなたの下だと思わないことだ」


康太が敬語を使っていることから三年生だとわかる。なにやら因縁がある相手のようだ。そして試合がはじまった。


50、60、66kg級の試合はそれぞれ通天高校の選手が勝利、55kgの幸隆が三年生の先輩相手に負けてしまった。いい試合だったが、一歩及ばなかった。


あと一試合勝てば、通天高校の団体戦の優勝が決まる。

「おー来たな康太。可愛がってやるよ」

「その言葉、まなぶさんにそっくりそのままお返しします」


そして84kg級の試合開始のベルがなる。


開始と同時に手を伸ばしたのは学と呼ばれた三年生の選手。

挑発的な態度で康太の頭に手をおいた。睨みつける康太。


その腕をはたき落としタックルに入るモーションに入る。学はそれを回避しようとするが、タックルはフェイントだったらしく、空振りに終わる。


お互いに向き直り、距離をとる。次に仕掛けたのは学の方だった。康太の前に出されていた手を掴み、タックルに入る。


だがそのタックルは康太が両手でガッチリと押さえつけることで阻まれる。そしてそのまま全体重をかけることによって学に足をつかせた。

「いつまでもあなたの下だと思うなと言ったでしょう」


康太の猛攻撃が始まる。


 「康太先輩はね…… 一年生の時に学ぶさんにコテンパンにやられてるの」

試合の最中優香が話はじめた。


「だから今年の練習は学さんを意識しての練習が多かったみたい。ずっと学さんを倒すための練習をしてきたの」


そう呟く優香はいつになく真剣で、普段の少しふざけた感じはまるで感じない。


「勝ってほしいな」


一緒に練習してきた後輩としても同じ気持ちだ。康太の練習はいつだって、自分を追い込みそれでも負けたくないという気持ちを失わないだけの覚悟があるように感じた。


「言ってくれるじゃねぇか康太。いつまでも大口叩けると思うな? 」

そう言う学に康太は答える。


「あなたにだけは言われたくないですよ」

そう言った直後、康太は組まれていた腕を離し学の片足、右足に飛びつき上に持ち上げた。片足だけで立っている状態になりバランスが悪くなった学。そこに足払いをし、完全にグラウンドに持ち込んだ。


「まず1ポイント」

グラウンドに持ちこみ、バックについたことで1ポイント先取。そしてまだ攻撃は終わらない。ローリングを行おうとする康太。


しかし、それは反対に踏ん張ることで阻まれてしまう。


ただ、それを予想していたかのように康太は踏ん張った時に生じた学の右腕の隙間に腕をかけた。

脇から頭に腕をかけ、テコの原理で無理やり仰向けに持っていく。

そうすることで、上から覆いかぶさるようにしてフォールを取る体勢に持っていった。


「よし! いけそう! 」

優香が勝利を確信し言い放つ。だが試合はそこで終わらなかった。


「あっぶねぇ」

仰向けになると同時に勢い良くブリッジをし、そこからぬけ出す学。


そして立ち上がり向きなおる。以前ポイントでは康太が勝っている。

そこから攻防が続いたものの、防ぎきることができ、康太は1ラウンドを勝利した。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


インターバルに入り、上地が康太に駆け寄る。

「苦しい戦いだったけど良く取った。学相手にきちんと戦えているよ。気を抜かずにね」


「わかりました。学さんのことです。アレで終わるわけはありません。気を抜かずに堅実にポイントを取っていきます」


 1ラウンド目はなんとか取ることが出来たものの気は抜けない。2ラウンド目を取られてしまえば振り出しに戻ってしまう。どうなるか分からない以上、次も全力で取りに行かなければならない。


 団体戦の勝敗は、あと一試合勝てば通天高校のが勝利のため、相手も後がない状態だ。

 そして2ラウンド目が始まる。


「正直ここまでやるとは思わなかったぜ改めよう」

 1ラウンド目とは打って変わった態度に出る学。だが目にはあきらかに1ラウンド目とは違う闘志の色が宿っている。


 開始の合図の後いきなりタックルに入る学、それを躱し康太は状態を立て直した。すぐに組み合いに行き、そして今度は康太からタックルに入った。

 相手の手を押しのけて、片足タックルを相手の右足に仕掛ける。


 片足を取ることに成功するも、学が予想外の展開を起こした。

 片足を捉えている康太の腕を極め、体重を完全に預け、状態を崩させたのだ、それからぶら下がるようにして自分の右足を康太の足の後ろに持って行き足をかけて転ばせた。


「なっ!? 」


「嘘だろあんな技実践で使うか!? 」


 試合を見ていた紀之と幸隆が同時に声をあげた。

 あの技は一度見たことはある。先輩達が遊びのような感覚でどんな技があるかピックアップしていたものだ。


『カニバサミ』先輩達はそう呼んでいた。遊びのようなその技で、実際に康太を追い込んでいる。


 倒された康太は、状態を立てなおそうとするも、素早く動いた学に抑えこまれてしまった。

 上から覆いかぶさり、仰向けの状態の康太を完全に抑えこみ、フォール。


 その試合は、学の勝利で幕を閉じた。

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