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 七月後半に入り、真由香の作業量は格段に増加した。

 BS太陽の『超時空少年トキオ』のクランクインは八月四日月曜日に決まった。従来、東光のキャラクター番組はもう少し早めに撮影開始するのが通例であったが、同時期に始まる二本の刑事ドラマとの人材の確保・やりくりの調整に時間がかかってしまったため、この時期になった。結局すべての人材を確保することができなかったため、一部のスタッフは『スカイフォース』とかけもちで番組に関わってもらうことになっていた。現在は第一話のパイロット監督を務める長坂眞が中心になり、撮影所内で連日本読みとリハーサルが行われている。主役を務める中学二年生の佐伯春は学校が夏休みに入っているので、今の時期毎日大泉に来てもらい、連日の稽古に取り組んでもらっていた。各スタッフから「あの子は天才か」との評判をよく耳にしていた。

 一方、『飛翔戦軍スカイフォース』の夏の劇場版が八月二日土曜日に公開されるため、今現在撮影チームは過密なスケジュールで撮影ロケを敢行していた。というのも、公開前後の土日としばらくの週末やお盆は主役の五人組は全国の映画館にプロモーション活動に駆り出されるのだ。当然その間撮影は進まないから、今のうち撮りだめをしておく必要があった。夏の暑さが盛り上がりつつあるときに、スタッフキャスト共に相当なハードスケジュールに相当参っているようだった。

『スカイフォース』の視聴率の推移はまずまずで、前年度の『サンダーフォース』よりも高いレーティングを確保できていた。このあたりはほっと一安心だったが、これから八月に入るので安心はできなかった。一年を通して八月がもっとも数字が取れない時期だった。テレビ関係者のあいだではこの期間を「夏枯れ」と呼んでいて、通常、戦軍でも本筋とは関係のないコメディ話を連発したり、撮影の手間がかからない総集編などを織り交ぜてその時期をやりすごすのだと槇から教えられた。総集編回はいつも毎年日本テレビが『24時間テレビ 愛は地球を救う』を放送する時期の八月最終週近辺の真裏にぶつけるのが恒例になっていた。毎週放送している『笑点』以上の視聴率を獲るコンテンツにわざわざ真剣に戦いを仕掛ける必要もないということらしい。

 真由香としては少々納得いかない思いもあった。それじゃまるで敵前逃亡じゃないかとも内心感じたものの、撮影チームの疲労がピークに達している時期でもあるので致しかたないなと思い了承している。

 そういう状況なので真由香はとても忙しい。本当は人事総務部より人間ドックに行け、お前だけ行ってないじゃないかと再三再四言われているがとてもそういう時間を捻出するのも難しいので、「後日に行きますから」といってやり過ごしている状況だった。



「『飛翔戦軍スカイフォース』番組責任者様宛

 毎週子供と楽しく拝見させております、私は兵庫県伊丹市在住の主婦です。いつも日曜五時半、子供と一緒にテレビの前でスカイフォースの応援を行っています。

 子供のノエル(男の子です)は赤名翼クンのファンで、彼が主役の話になると特にテレビの前で応援しています。でも、私のイチオシはモチロン黒田洋クン。洋のあのクールな佇まい、キリッとした横顔、涼しい目つき……何もかもが好みです。阿部タケルクン、大好きです。タケルクンのシーン、もっと増やしてください。お願いします。

 あと私が懸念しているのは、洋クンと白木茉莉との仲です。役の上とはいえ、ホワイトにちょっかいを出すのはよくありません。最近はブラックを拒絶してたっぽいホワイトもだんだんブラックに気を許している感じがしていて、こちらとしても気が気でありません。子供の情操教育上よくありませんし。まさかとは思いますが、二人が恋仲になるなんてことはないですよね? 

それはホントにダメです。だって二人は地球を守る正義のヒーローじゃないですか。絶対にダメ。ダメダメダメ。許しません!

 もし二人がくっついたら、私はもう番組を見ません。イヤ番組を見ないどころか、不買運動も行います。てはじめに、ノエルの健康のためにいつもスーパーの特売で買っている『スカイフォース 魚肉ソーセージ』の購買を取りやめます。

いやそれだけじゃありません、私は『スカイフォース』がいかに教育上よろしくない番組であるかを周りの人間五人に言うことをお約束します。するとどうでしょう、多分その五人は、さらに別の五人に言うと思います。五かける五で二十五。アタック二十五です。私のアタック25作戦は多分功を奏し、きっと日本中の視聴者は『飛翔戦軍スカイフォース』にそっぽを向けるでしょう。誰も見なくなるでしょう。番組に見向きもしなくなるでしょう。こうして番組の視聴率は下がっていき、きっと番組の打ち切り請け合いです。

 ……というのは冗談です。すべてが冗談です、なんちゃって。まあ、でもブラックとホワイトがくっつくことなんてことはないでしょう。だって子供番組ですからね、うん。

 といったわけで、長々と失礼しました。番組関係者様全員のご健康とご多幸をお祈りしつつ、そろそろ筆をおかせていただきます。あと最後に一言。もっと洋クンのアップを増やしてください! 

ではでは」



 槇から回ってきた長文の手紙を一読して、真由香は頭が痛くなった。割合綺麗な字体だが、書かれている内容は支離滅裂で、しかも途中で番組の役名と演者の名前がごっちゃになり、『スカイフォース』を知らない人間が読めば、とても意味もわからない。

 そもそもアタック25作戦っていったい何なんだ? そりゃ日曜で毎週長年放送してるテレビ番組という意味では、戦軍と一緒だけどさ。

「……因みに住所とか送り主とか何も書かれてなかったからね、匿名希望、伊丹市在住の主婦からのお便りでした」

 槇憲平はホットコーヒーに口をつけた。

「スカイブラックへの愛を感じる手紙ではありました」

「タケル喜ぶよ。またこの手紙、あいつにも持っていこう」

 タケルとは阿部タケル。スカイブラックを演じる役者の名前だった。

 ――ここは中央区銀座の東光本社の会議室だった。真由香と槇のほかに、メインライターの能勢朋之、テレビ太陽のプロデューサー海老江孝夫、ラインプロデューサーで東光テレビプロ所属の天野正典がいた。今後の『スカイフォース』の展開についての打ち合わせを行う席だったが、何故か『スカイフォース』とは関係もない神長倉和明も同席していた。プロデュースの勉強のために、是非『スカイフォース』スタッフ打ち合わせを聞きたいと本人が申し出たのだった。

 真由香は神長倉にも手紙を回した。

「いや、ありがたいですよ、こういう視聴者の存在はね。最近はメールでご意見ご感想を送ってくるのがほとんどなのに、わざわざ手紙をしたためてくるなんて。ありがたいとは思います。しかも手書きだし」

「だったらこの奥さん、多分今後の展開次第では本当にアタックに25作戦を決行するかもしれないなあ。本当に二人を恋仲にしようと考えているわけだからね、こっちは」

 局プロの海老江が大きく咳払いをした。

「何度も言いますが、あまりやりすぎないように頼みますよ。別にこちらとしては了承しているわけじゃないですから。あくまで子供番組です。恋愛沙汰をストーリーに織り込むのはいかがなものかと。ほどほどにねがいますよ」

「でも当初から冒険は必要だって、海老江さんもおっしゃってたじゃないですか。戦軍はこの『スカイフォース』が最後になってしまうかもしれないから、悔いなく大胆にやっていきましょうって」

 能勢は腕組みしながら口を挟む。一時期はスランプに陥っていたメインライターは今はその状態から脱し、快調にシナリオを提供できるようになっていた。今現在はサブライターは特に立てず、能勢にすべてシナリオのシリーズ構成を一任している状況だった。

「あの頃と今は状況が違いますよ。……幸いなことに『スカイフォース』は視聴率だって好調だし、玩具の売り上げもまずまず。わざわざ冒険する必要がなくなったと考えているわけです」

「下手な安定志向はまた番組人気を下降させてしまうんじゃないかと懸念します。マンネリは悪です」

「大いなるマンネリ、大いに結構じゃないですか。現に戦軍真裏の『笑点』はあのお馴染歌丸師匠司会の大喜利で、長年視聴率トップの座に君臨しているわけだし」

 海老江が首を振った。

 因みに日本テレビの『笑点』はスポーツ新聞によると、次回の放送回よりしばらく回答側の林家木久扇師匠が病気治療のためしばらく不在になるらしい。メンバーは代役を立てずそのままのメンバーで番組は放送されるらしい。人が少なくなるから番組のパワーが落ちるというわけでなく、視聴者が気になって番組を見るからむしろ数字が高くなるのではないかと真由香は睨んでいる。本当に敵ながら、『笑点』は恐ろしい番組だと心の底から思う。

 それはさておき……。

真由香は珍しいな、と思った。ここまで強硬に反対の立場を貫く海老江を初めて見た。いつもは、こちらのやる内容にあまり干渉しないタイプの人間だと思っていた。ただ銀行員のように実直そうな局プロは確かに当初から、番組に恋愛要素は不要との立場を貫いていた。

 戦軍シリーズ第三十四作『飛翔戦軍スカイフォース』はかなり苦しい制作事情から番組の立ち上がりを余儀なくされた。シリーズ前作の『稲妻戦軍サンダーフォース』は視聴率、玩具成績共にシリーズ過去最低となったため、『スカイフォース』がコケれば放送枠が変更、もしくはシリーズ打ち切りという危機感があった。

 そこで真由香やメインライターの能勢といった制作陣は、シリーズに新しい風を吹き込ませようとした。戦軍シリーズのメイン視聴者はいうまでもなく児童層である。悪が正義を倒す……勧善懲悪の物語がメインであることはいうまでもない。

 しかしそればかりを中心に描いていいのか。主人公たちはヒーローだが、彼らにだって生活があり、自分たちの物語がある。それらを描かなくてよいのか……そこで、能勢朋之はこう提案した。正義対悪のドラマを中心に据えてはいても、主人公たちの物語を掘り下げてみよう。彼らだって恋愛をするんじゃないのか?

 真由香は面白い試みだと思った。

 来年二〇一五年はシリーズ三十五作目のアニバーサリー作品なので、王道の物語になることが決定している。だったら、今年の作品はとことん変化球であっても許容されるんじゃないか……。

 サブプロデューサーの槇は当初この方向性に難色を示した。いや、槇だけじゃない、社内の人間からは面を向かって「そういう要素はいらないだろう」と反対された。真由香はそのたびに根回しを行って、「戦軍は懐深い作品です。どれだけ形を崩しても、根本さえしっかりしていればビクともしませんから」と説得工作に回った。

 ただ、局プロの海老江は最初からその方向性にはどうもノッてくれなかった。

「数字がダメなら起爆剤が必要かもしれませんがね、わざわざ冒険する必要があるのかなあと思います」

「別に冒険とは思いませんよ。ちゃんと本筋の話はしっかりと描きます」

 能勢が力説する。

 槇は手元の書類に何やらペンで書き込みしている。……槇もどちらかというと、海老江と同じ考え方なので、ここは話の流れがどういう展開になるのか見守ろうとしているのだろうか。それとも、今は来年の『恐竜戦軍ザウルスフォース』の立ち上げに頭がいっぱいなのか、よくわからない。

 海老江はアイスコーヒーに口をつけると、ふうと溜息をついた。

「……もし今、長門監督がこの場にいたら、あの人はどういう意見を述べたんでしょうね」

 真由香は自分の心臓が一拍大きく打つのを自覚した。能勢や槇や天野と目が合うと、彼らも何とも言えないという表情になっている。

 長門監督。

 長門清志郎。

『飛翔戦軍スカイフォース』のパイロットである第一話、第二話、第三話。そして第八話、第九話のメガホンをとった監督である。年齢は六十四で、主に戦軍をはじめとする特撮キャラクターシリーズで大きく名を馳せた巨匠だった。『スカイフォース』の立ち上げには長門の力を大きく借りたし、彼の力なくして、今の『スカイフォース』の今の安定ぶりはなかったと感じている。

 しかし長門はとある事情で第九話を最後に番組を降板した。その降板については真由香が最終的に決定したことだった。いま、長門がどういった仕事をしているのか、真由香は事情を把握していなかった。

 サングラスに顎に下駄。とにかく見た目のインパクトは十分の活動屋。性格は凶暴。でもとにかく撮る作品の出来素晴らしい。

 今、どこで何をしているのか……。

「もし、長門カントクだったら」

能勢は左頬を指で軽くつねった。「多分面白い、やってみようってノッてくれたんじゃないかと。あの人は映像においても、オハナシにおいても常に貪欲でした。新しいことにどんどん挑戦したいっておっしゃってましたし」

「……まるでこちらが貪欲じゃない、保守的だというふうに聞こえますねえ」

 海老江が唇を尖らせたので、ラインプロデューサーの天野が苦笑しながら「まあまあ」ととりなすようにあいだに入った。ラインプロデューサーは撮影現場の諸々の雑業務、予算調整、人事などの雑務の面倒ごとを管理する裏方のトップと言って差し支えなかった。天野自身、丸坊主の飄々とした穏やかな性格だった。同じラインプロデューサーでも、『超時空少年アラン』の折尾仙助とは、性格も人柄もまるで真逆だった。

 まあ、一年間の特撮ドラマシリーズを作るのに、そりゃカンタンに方向性なんて決まらないよなとも真由香は思う。今日中に結論は出ないだろうが、とにかくここにいるメンバーは作品を面白くしよう、盛り上げていこうと考えているわけだから、あとはどこを落としどころにするのか見定めるのかはチーフプロデューサーの真由香の仕事だった。

 部外者の神長倉は理由はわからないが、手帳にいろいろとメモを取っていた。



「他人事のような感想を言っていいですか」

 神長倉は唐突にそう切り出した。彼の目の前には日替わり定食がおかれている。

「なんでしょう」

「プロデューサーって大変ですね」

「カミさんだってプロデューサーじゃないですか」

「そうなんですけど」

『スカイフォース』の打ち合わせが終了したのが午後四時を回っていた。会が散会後、神長倉は空腹だといったので、『超時空少年アラン』の打ち合わせもかねて、社内喫茶の『ジャンヌ』に移動してきた。真由香は食欲がないので、アイスレモンティーだけ注文した。

「先程のやりとりはどう今後決着つけるんですかね。宮地さんも大変ですね」

「大変です」

「なおかつ『トキオ』のプロデュースもあるし。そりゃ、すごく大変だと思いますよ」

 神長倉は真由香より年齢も役職も上なのに、いまだに敬語で話しかけてくる。真由香は以前、「そろそろ敬語はやめませんか」と言ってみたが、彼は「僕はプロデューサー一年生で、宮地さんは十年選手です。この関係性は不変ですから」と頑なに首を振ったので、そのままになっている。そんなものなのかと思ったが、以降はお互いずっと敬語で話していた。

 小松菜のおひたしに箸をつけながら、神長倉は「ところで」と言う。

「はい」

「宮地さんは昔から東光に入社志望だったんですか? ……まあ食事中なんで、世間話の一環ということで」

 こういう話をされると、真由香はうーん、と頭を搔いてしまう。

「わたしは別に東光に憧れて、というわけではないんですよ。学生時代に周りのコたちがマスコミマスコミって騒いでたからそれに何となく影響されたって感じです」

「じゃ、東光が第一志望ってわけではなかったわけですか」

「ぶっちゃけた話そうです。本当はフジテレビとかTBSに入りたかったし。あと集英社とか講談社とか。でもすべて全滅。で、ひっかかったのが東光なんです」

 もしかしてこの答は神長倉を失望させたのかな、とも思ったがこんなところで嘘をついても仕方ないと思ったので本音を喋った。すると彼は箸を置くと、やや浮かない顔になった。

「じゃ、僕と一緒だ」

「そうなんですか」

「そうです。東光が第一志望じゃなかった」

「じゃ、どこが第一志望だったんですか」

「僕はね」神長倉は湯呑に口をつけた。「共テレに入りたかったんですよ」

「共テレって……共同テレビですか?」

 正式名称は共同テレビジョンで、フジテレビジョンの小会社。フジサンケイグループの会社である。実は真由香も共同テレビの入社試験を受けたが、一次の書類選考、二次の筆記試験はパスできたものの、一次面接で落とされた。……でも、そのことをあえて神長倉に言うつもりもなかった。

「そうです。……きっかけは小学五年生の頃にリアルタイムで見たテレビドラマですね。月9ってあるでしょう? フジテレビの」

「はい」

「月9って今もドラマやってますが、昔は『欽ドン!』とかバラエティをやっていたんですね。でも昭和六十二年春からドラマを放送するようになったんです。それが『アナウンサーぷっつん物語』ってドラマなんです。岸本加世子さんや神田正輝さんが出てた。月9第一作です」

「ふうん」

 真由香は曖昧に相槌だけ打った。タイトルだけは何となく聞き覚えはあるが、未見のドラマだった。真由香は昭和五十六年生まれなので、その頃はまだ小学生に上がる前だった。……ああ、神長倉とは五年も年が離れているのか。

「そのドラマはスタッフも豪華でしてね。局側のプロデューサーは亀山千広さんでした」

「ああ、今のフジテレビの社長さん」

「そうです。脚本の畑嶺明さんは『毎度おさわがせします』とか『妻たちの課外授業』とかで一時代を築いてこられた方。演出の藤田明二さんもずっとドラマ一筋で名作を撮ってこられて、今はテレビ朝日に移られてまだ現役ですね。中山和記プロデューサーはミスター共テレともいうべき方で、脚本家の鎌田敏夫さんとのコンビで『ニューヨーク恋物語』『29歳のクリスマス』といった名作を数々と世に送り出しました」

「……カミさん、すごいドラマ知識」

「そうですかね。昔からキャストとかよりも作り手側に興味がありましたね。誰が脚本で、誰が演出かとか。……それはともかく『アナウンサーぷつつん物語』は一時期流行した業界ドラマで当時としてはそれなりに画期的な内容だったんですよ。舞台はフジテレビで実在する番組名もバンバン出てくる。勢いのあるドラマでした」

「でもそれなら、共テレじゃなくてフジテレビに入ろうとは思いませんか。そりゃ制作は共テレだったかもしれませんけど、フジだってドラマは作られてるわけだし」

 神長倉は首を振った。

「まあ、そうなんですけどね。でも局が作るドラマというより、共テレが作るドラマに憧れを持ったんでしょうね。だから共テレに憧れて入社試験を受けてみた……結果は不合格と」

「それは」真由香は短く一言いう。「ご愁傷さまです」

「でも何年遅れではありますが、今こうして東光でドラマのプロデューサーに就けた。自分は幸せ者だと思っています」

 神長倉は薄く笑うと、コロッケにソースをかける。

「それにしても、今『アナウンサーぷっつん物語』で思い出しましたが、ああいう業界ドラマっていろいろ数多く作り出されましたけど、一つ共通点があるんですね」

「なんでしょう」

「作中人物でプロデューサーは全て脇役で片付けられてるんですね。いや、別にプロデューサーはエラいんだと威張ってるわけじゃないですよ。でもなぜか、軽い役で片付けられている。あれは何故なんでしょうね。プロデューサーほど人並みに苦労して、汗をかいて、気を遣って、面倒な仕事はないのに」

「それはたぶん」

 真由香は首を傾げた。

「プロデューサーは毎日そういう報われない面倒な仕事ばかりだから、画にならないんですよ。仕事の日常がつまらないから、ドラマの主役にしたってオハナシがつまらなくなる……そう思ってるんでしょうね。だって、ドラマを作るのはプロデューサー自身なんだもん」

「うん、そうなんでしょうね。自分もいまだんだんそれがわかってきています」

 神長倉はコロッケを口に放り込んだ。


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