サード・パーティー

鯨武 長之介

いくつの街を越えてゆくのだろう

皆さんにの第二の故郷ふるさとと呼べる場所はあるでしょうか。

 その場所に定義や形はありません。生まれ育った国や家ではなく、思い出の場所でも構わないと思うのです。


 素敵な体験をした旅行先、苦楽を共にした学校、お世話になった方々の住む町など、その考え方、感じ方は人の数だけ無数にあるでしょう。


 第二の故郷とは言っても、それが一つとは限りません。いくつあっても良いと思うのです。私も現に一つに絞ることなど到底できませんが、この場をお借りして、私もひとつの第二の故郷の話をさせていただきます。


 目を閉じればそこに居ずとも、あの頃の記憶と無数の場景が思い浮かびます。ひと言でたとえるならば、そこは異国でした。外国の童話に出てくるような不思議な国でした。


 まだ七つにも満たない幼かった昭和末期のあの頃。その街は何も考えずに力の限り無鉄砲に走り回り跳ねることしか知らなかった私に、落ち着きという作法を教えてくれました。


 最初、その縛りは元気があり余る私にとっては、拘束にも近い苦しみと不愉快ではありました。しかし、時間とともにその環境にも慣れてきたのか、いつしか楽しく過ごすようになりました。


 恐れも知らず遠くの山や森、暗がりに赴き傷だらけになって帰ってくることが何度もありました。その度に叱られたりもしましたが、その人は、また、私を元気よく送り出してくれました。


 私はその国で読み書き、算数、地理を学びました。その国では入国の都度、手続きが行われるのですが、そこでは誰も助けてくれません。私は何度も涙を飲みました。文字をよく読んで正しく書く注意力を養いました。足し算や引き算や買い物の仕方、東西南北などの方角も覚えました。


 私はそこで向上心を知りました。失敗を繰り返しながら、あるとき自分がひと回り大きくなったことを実感するとともに祝福された気持ちに包まれました。子供というのは、人から褒められても、なかなか成長の喜びには気付かないものですが、それは形となって心にも響いたのでした。


 いつしか私はその国の曲を口ずさむようになりました。歩きながら、本を読みながら、風呂に入りながら、いつの間にか体のどこかで奏でているのです。勇ましさと不安と兼ね備えたその唄は大人になった今でも体に染み渡っています。この先もきっと忘れることはないでしょう。


 そこでの長い生活にも終わりが近づいてきました。いえ、その気になればいつまででも浸ることはできますが、当初の目的が私をそう気付かせてくれるのです。


 自分で言うのもなんですが、私はその国で時をともにした約半年の内、いつしか自信が身についていました。使命感ともいうべき責任を学んでいました。最後の最後で甘い言葉と好奇心に負けて後悔や反省もしましたが、私はその国で一つのことをやり遂げたのです。


 涙が溢れました。感動と達成感で私の胸はいっぱいでした。最後、その国を去った私は虚無感におそわれました。それは卒業や別れにも近い感情だったと思います。


 一人で過ごしたその故郷の思い出と経験は以後も大きく活かされました。私は新しい場所でたくさんの仲間と出会い、そして苦楽とひと時を重ねました。そして数年後、私は思いもよらぬ形で再びその国へと帰ってきたのでした。


 さて、私の第二の故郷は分かりましたでしょうか。ここまでで分かった人はきっと私と同世代、もしくは同じ文化を歩んだ世代。きっと共感してもらえると思っております。


 私の第二の故郷、それはアレフガルドです。ご存知の方もいるとは思いますが、そこはかの有名な日本を代表するRPGの舞台となった大陸です。今でもふと当時を思い出しながら少しだけ立ち寄ります。


 ゲームの世界が第二の故郷? 変だと思われるかもしれませんが、そこでは学校や大人が教えてくれる一般常識とは異なる形で私に知識を与えるとともに、新しい世界の彩りを魅せてくれたのです。


 決して勢いや力任せでは攻略できない物語、レベルアップや装備で自身が強くなることの喜び、復活の呪文が正しく入力できて冒険が無事に再開できたときの安心感はあの頃だからこそ味わえた貴重な経験です。竜王を倒すべく私はアレフガルドでロトの血を引く勇者として、一生忘れられない冒険を体験させてくれたのです。


 そして翌年には船旅を経て、そして翌々年にはギアガの大穴を通じてたどり着いた世界。そこであの名曲『広野を行く』は耳にした私は、当時の記憶が一瞬で甦ると同時に思わず「帰ってきた!」と喜びの声をあげたのでした。


 私はこれからも度々その故郷のことを思い出すことでしょう。

 リセットボタンを押しながら何度でも何度でも。そして伝説へ…。


ーFinー



参考

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

機  種:ファミリーコンピュータ

作品名:ドラゴンクエスト、ドラゴンクエストⅡ、ドラゴンクエストⅢ

発売日:1986年5月27日、1987年1月26日、1988年2月10日

発売元:エニックス

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


言わずと知れた国産RPGの代表作品のひとつ。ロトシリーズの三部作として国内外で大ヒットを記録した。続編が発売される毎に社会現象を巻き起こした。特に第三弾では、セーブデータが消えた時の呪いの音楽は多くの冒険者にトラウマを残した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る