第37話

模型製作している部員の後ろをゆっくり回る千秋。

皆いまだにてんてこ舞いではあるが、少しずつ形になってきた気がする。

一応経験者も何人かいるためだろうか。


「美守ちゃんは何を作っているんですか?」


美守は護衛艦こんごうとむらさめを購入していた。

今は艦橋後部の第二甲板を延長しているようだ。

素材は当然、大量に購入してたプラ板だ。

船体の方もすでにいくらか延長されている。


「ちょっと……あの有名な護衛艦を作ろうと思ってね。前から作ってみたかったんだ」


「ああ……わかりました。確か、経験者だと聞いたので大丈夫そうですね。頑張ってください」


説明される途中で気付いた。

こんごうとむらさめを合体させて作る護衛艦……それはあれだ。

過去に行ってしまったあの超性能護衛艦の三番艦だ。

ご丁寧に艦名のデカールまで用意されていた。

次はウォーターラインの金剛を制作していた正子だ。


「正子ちゃんは大丈夫ですか?」


「……あまり器用じゃないから、大丈夫じゃない……かな。アハハ……」


確かに手先はあまり器用ではないようで機銃などの細かい部品がかなり破損しているし、接着剤もはみ出ている。

彼女は以前、部活後に元気を出すためと言って料理を作ったことがあったがその次の日は全員が学校を休んでいたのでこの手先の不器用さもある意味納得できる。


「ピンセットを持つときはあまり力を入れ過ぎちゃだめですよ。落とさない程度の軽い力で掴んであげてください。それと、接着剤はそんなにいっぱいつけなくても大丈夫なので、つけたい面に少しだけ塗ってあげてください」


「うん、わかった」


皆自分の好きな艦か作ってみたい艦を作っているので目をキラキラさせている。

正子の隣に座っていたのは栞菜で作っているのは戦艦長門の新造時だ。


「なぁ、色が上手く塗れないんだが」


「えっ?」


作られている長門を見ると甲板の木目の色が軍艦色で塗られるはずの部分に付いたり、その逆になっていたりする。

他にも似たような関係の部分がいくつも見つかった。

筆で塗っているので当たってしまうようだった。


「それならこのマスキングテープを使いましょう」


「何だそれ?その黄色いテープで何かするのか?」


「取り敢えず、軍艦色で塗る部分を先に全部塗っておいてください。はみ出してもいいので」


マスキングテープをいらない紙に貼り付けて大まかな部分用と細かな部分ように少しずつ定規とカッターで切り分ける。

軍艦色が乾くのを待ってそれを船体に貼り付けて行き、その上から甲板などの色を塗った。


「……そろそろ乾きましたね。ゆっくりと剥がしてみてください」


ピンセットでゆっくりとテープを剥がしていく栞菜。

そこから現れた船体は綺麗に塗り分けられており、先ほどのような不恰好さは持っていない。

ビッグセブンの威光をまざまざと見せつけている。


「おおっ!!凄いな!!」


「これはいろんな部分に使えるので、覚えていて損は無いですよ」


「千秋ちゃんちょっとここ教えてー!!」


「はい、今行きます」


呼びかけられた方向にぶつかったりしてはまずいのでゆっくりと歩いて行く。

そうしながら千秋は「ああ、戦艦ってやっぱりいいな」と思っていた。

だってこんなにもたくさんの子が笑いながら作業しているのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る