第13話

さて、いざ学校が終わると部活動が始まる。

高い性能の戦艦を保有していても使う人間が駄目だと意味が無いので猛烈な訓練だ。

バーチャル世界という特殊な訓練法により練習の量に文字通り制限が無いため砲弾も撃ち放題である。

大和を先頭に5隻が単縦陣をなして航行する。

想定しているのが何故か冬の北太平洋らしく、物凄い波に各艦が揺られている。

今も長門の艦首が海面に突っ込み、菊の御紋が思いっきり波をかぶっていた。

千秋のイヤホンに零式水上偵察機から標的艦隊発見の報が入る。

観測機が直ちに発艦して敵艦隊上空へと向かった。


「零式水偵の皆さん、索敵ありがとうございます。観測機の皆さん、着弾観測の報告を早めにお願いしますね。全艦、撃ち方始めっ!!」


「撃っ!!」


左舷側に旋回した各艦の主砲塔から爆炎と砲弾が吐き出され、海面が大きく凹む。

発射された砲弾は標的艦の周りに次々と着弾していく。

大和は以前のように第一射から夾叉とはいかなかったが敵艦後方400m付近に砲弾を着弾させた。

砲戦の距離からして誤差は1%以内である。


「遠近よし!!右寄せ4!!」


すぐさま角度が修正され次弾を装填する。

栞菜によって修正された値に有賀、森下、高柳、大野の砲室組が汗を流しながらハンドルを回して合わせる。

この微妙な作業の繰り返しが砲術なのである。

後方の各艦も前よりは練度をあげたようで作業が迅速だ。

あっという間に次弾発射準備完了という報告が伝声管を通して来た。

一応、報告そのものは試合と同様に伝声管で行う。


「撃っ!!」


大和の第一艦橋が次弾の砲撃、360×6=2160kgもの火薬の炸裂に大きく揺れた。

窓から一番、二番砲塔の砲撃による閃光が差し込む。

あまりの衝撃とまぶしさに千秋は座っている座席と窓枠にしがみ付き目を閉じてしまった。


「凄い衝撃ね」


隣の優香が髪を整えながらつぶやいた。

衝撃の際の揺れで髪型が崩れてきている。


「火薬の量が1.46tの砲弾を40000m以上先の敵艦に届かせることもできる量ですからね。弱装薬にすればまだましなんでしょうけど。周りに掴まっているだけでも疲れます。何か疲れを吹き飛ばすようなものがあるといいんだけど……」


「なら、艦内放送で歌でも流してみる?」


「それいいですね。やってみましょう」


しばらくして全艦5隻全ての艦内に歌が流れ始めた。

津留雄三海軍大尉が漏らした言葉が海軍内に広がったのが最初と言われ、高橋俊策海軍中佐が作詞、江口源吾が作曲したと言われる有名な軍歌だ。

歌詞の一部が競技に合わせて「男」から「乙女」へと替えられているものの、元の歌は休み返上で訓練に明け暮れた日本海軍をよく表した歌だと千秋は思っている。


「じゃ、私達も歌いましょう」


「そうね」


千秋の言葉に優香や周りのアンドロイドたちがうなずき第一艦橋で盛大な合唱が始まる。

それをイヤホンを通して聞いていた水上機に乗っている5人や砲室の4人、そして長門や金剛などに乗っている部員たちも歌い始める。

艦隊全員での大合唱会の開催だ。

その間にも砲弾は次々と着弾し標的艦を海の藻屑に変えていく。

敵の頭を抑えるために舵を切った大和に他の艦が連携して追随し、航跡が綺麗な一本となって重なった。

訓練はまだまだ続く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る