第2話あなたのパーティ決めます

「さて、剣士は了解したけど、ヨッシーの実力を見ないとな。ちょっとこの剣を振ってみて」

イツキは立ち上がって青銅の剣をヨッシーに手渡した。


 受け取ったヨッシーはその剣を軽く振った。


「どうだね? コントローラーではなく本物の青銅の剣を振った感触は?」

イツキはヨッシーに優しく笑いかけながら聞いた。


「はい。案外軽いですね」

ヨッシーは青銅の剣を振り回しながら応えた。


「ほほ~、じゃあこれは?」

とイツキはヨッシーの答えに満足げに頷いてから、今度はツヴァイハンダーを手渡した。


「あ、これしっくりきますね」

ヨッシーは剣を頭上から振り下ろした。

シュッと空気を切る音がした。


「なんだ、全然余裕じゃん。じゃあ、ちょっとランクを上げてこれは?」

イツキは壁に掛けてあった標準型エクスカリバーを手に取ると、少し感触を自分で確かめてからヨッシーに手渡した。


「ずしっと来ますね。片手より両手で持つ方が安定します」

そういうとヨッシーはエクスカリバーを両手で持って振り下ろした。


「うん。いい感じだな。だいたいのレベルは分かったよ」

イツキはそう言うとヨッシーからエクスカリバーを受け取って鞘に収めた。


「なかなかのもんだな。これなら結構いいところへ行けるよ」


「本当ですか?」

ヨッシーは明るく応えた。


「うん。後は潜在能力を見たいな。ちょっとこの装置の上に手を置いてくれるかな」


イツキはデスクの端に置いてあった四角い箱を指さした。

それは箱の天井が円形で水晶が嵌め込まれているようだ。箱の周りにはきれいな装飾が施されていて、ちょっと大き目な宝石箱みたいな感じだった。


「その丸いところに手をかざしてみて」

イツキに言われてヨッシーは手をかざした。


キュルルル……と何かを計測しているような音がしたかと思うと、箱の下の方から紙が1枚出てきた。

イツキはそれを手に取ると

「ほほ~、だいたい思った通りだけど、運動能力は思った以上に高いな……おお、頭も人並みよりは良い。本当に魔法剣士でも行けるな。どうする魔法剣士にする?」

イツキはヨッシーに聞いた。

「いえ。このままで良いです」

ヨッシーは迷わず応えた。彼の中ではもう迷いは全くないようだ。


「了解」

イツキは頷くと自分の椅子に座りヨッシーに聞いた。

「さて、ここで君はこのギルドのどこかの軍団かパーティーへ所属する事になるんだけど、アテはあるかい?」



「あるわけないですよ。」


「だよねえ」

イツキは軽く笑った。


「ヨッシー。ここで君は2つの選択肢がある。1つは軍団あるいはパーティに参加して仲間と協力して腕を上げる。

もう1つは軍団には参加せずソロで戦っていくか……だ。どうする?」


「どうするって言われても、こんな世界に1人で放り出されても訳分からないですよ。どっかのパーティでも軍団でも入りたいです」

ヨッシーは力を込めてイツキに訴えた。


「だろうね。そこでだ。僕はここで君に合ったパーティを紹介する訳だが、僕の紹介を受けるかな?」

「はい。是非お願いします。」

「オッケー。いい返事だ。それでは聞くが、そこそこ強い軍団に入るか、それより楽しければ良いっていうパーティに入るかどっちにする?」


「どう違うんですか?」

とヨッシーは聞いた。


「まあ、最強の軍団なんかには絶対に入れないんだが、この潜在レベルなら将来有望株としてそこそこの軍団には紹介ができるよ。ただ、規律が厳しかったり結構ハードな訓練が待っている。でも成長は間違いなく早い。レベルアップは一気に行くだろうね。勿論、高給だわ」


「例えば、ここなんかどう?」

とイツキは1枚の募集要項を見せた。




「剣士募集。LEVEL5以上。

主に森林のモンスターを狩ってます。

将来の前衛候補募集!

未経験者歓迎!

高給優遇します。昇給年1賞与年2。モンスターの落とした宝物はとどめを刺した者に授与。

寮完備。交通費全額支給(狩場までの交通費は支給)狩場まで馬車30分・騎馬10分

制服貸与。武器貸与(標準型エクスカリバー)。食事つき。

年末年始休暇あり。

パーティ全滅見舞金有。」





「どう?」

「良いですねえ……武器も貸してもらえるのかぁ……」


「ちなみに、ここは昨年10人入団して8人死んだなあ……」

「え、そうなんですか……」とヨッシーは絶句した。


「離職率80%だな」

とイツキは答えた。

「いや、それを言うなら致死率でしょう……」

とヨッシーが突っ込んだ。



「まあ、LV5以上と書いておきながら、未経験者歓迎なんて矛盾した事を書くような軍団は人手が足りない案外ヘビーな環境だったりするな」

とイツキは事もなげに語った。


「そんなブラックなとこを紹介しないで下さいよ」



「悪い悪い、じゃあ、かたや和気あいあいのパーティはどう?

この村の近辺を徘徊するだけで、勿論この辺は弱いモンスターしかいないからレベリングも遅い。ただのんびりと出来る……さてどっちが良い?」

と新しい求人票をヨッシーに見せた。




「未経験者も大丈夫!!

狩場は村の近所のみ徒歩圏内。

パート歓迎。週3日以上でOK。主婦歓迎

家族的な雰囲気のパーティです。

三食昼寝付き。

制服貸与。武器貸与(ツヴァイハンダーOR斧ORダガー)

年末年始休暇あり。

長期出来る方歓迎。





「ここは楽そうですね」


「うん。楽だねえ……ほとんどキノコ狩りに来ている爺さんと婆さんの護衛だからね。のんびりしているよ。ま、滅多にモンスターは出ないし。パーティは爺さんと子供が多いな。だからレベリングは諦めた方が良いな」


「それじゃあ、いつまでたっても強くなれないですよね」


「まあね。あ、でも、そう言えば去年結構強いモンスターと出会っていたな」


「え、そうなんですか?」


「うん。油断しまくっていた上に、パーティーメンバーが現役引いた爺さんと未熟なガキ連中だったからレベルアップする前に全滅していたけど。ちなみにここは全滅見舞金はないよ」とイツキは資料を見ながらそう言った。


「見舞金以前の問題です」

ヨッシーは呆れたように求人票をデスクの上に投げた。




「そこそこハードで和気あいあいっていうのは無いんですか?」

ヨッシーはダメ元でイツキに聞いてみた。


暫くイツキは考えていたがポンと手を叩いて

「お、1つあるわ。そこに行って見る?」

と答えた。


「え、あるんですか?……言ってみるもんだな」

とヨッシーは喜んだ。


「それでは行こうか」

とイツキは資料を戸棚にしまうと振り返って言った。


「どこへ?」


「ヨッシーに紹介する軍団に行くんだよ。実際にその目で見た方が早い」

そう言うとイツキはヨッシーの肩をポンと叩いた。


二人はイツキの部屋を出た。

イツキはギルドの受付で暇そうに座っていたマーサに

「彼は剣士で登録しておいてね」

と書類を渡した。

「はい分かりました。」

マーサはその書類を受け取るとさっと目を通した。


「じゃあ、ちょっと行ってくるね」

とイツキはマーサに声を掛けながら玄関に向かった。


「行ってらっしゃい」

とマーサの声を背中で聞きながら2人はギルドから出て行った。


「これから行くところはね。そこの団長も君と同じように転移してきた人なんだ」


「え、そうなんですか?」



「そこは未経験者はダメなんだが、君の潜在レベルは高かったしね。実際、剣もそこそこ振れたから取りあえず紹介してみようと思ってね。」


「ありがとうございます。」

ヨッシーは腰を90度に折り曲げてお礼を言った。


「こんな道端で良いよ。それよりもあそこに見える建物がそうだよ」


「え?近いんですね」

ヨッシーが頭を上げると、石畳の通りにある十字路の角に建っている3階建ての建物が見えた。

玄関には大きな旗が飾ってあったが、それは軍旗なのか国旗なのか分からなかった。


入り口の衛兵に

「通るよ」

とイツキが挨拶すると、

「団長は今、部屋に居ます」

と衛兵が敬礼しながら教えてくれた。

「ありがとう」

とイツキは応えて中へ続く石段を上った。


そのまま、2人は一度1階のロビーに出てから3階まで上がった。建物の真ん中にある階段を3階まで上がると目の前が団長室だった。


イツキが

「団長、居る?」

とノックをすると中から

「どうぞ」

という声がした。


 ドアを開けると正面に大きな窓が目に飛び込んできた。

その前に古い年季の入ったデスクがあって、そこに大柄な男が座っていたがイツキの顔を見ると笑顔で立ち上がった。

「イツキさん、どうしたんですか?呼んでくれたら僕が行ったのに……」


「いや、一人紹介したい剣士が居てね。彼なんだけど」


「ほほ~。団長のシラネだ。よろしく」と急にヨッシーに握手をしてきた。

思わずその手を握り返したヨッシーだったが、あまりの握力に顔をしかめながら

「よ、よろしくお願いします」

と答えるのが精一杯だった。


「この人、馬鹿力だから気を付けてね」

とイツキが言うと

「あ、ごめんごめん」

とシラネは手を放した。

「いえ。大丈夫です」

とヨッシーはジンジンしびれる手をさすった。



「この子ね。今さっき転移してきたみたいなんだけどね。名前はヨッシー。標準型エクスカリバーを両手だけど普通に振り回せたから連れてきたよ」

と言いながら持ってきた書類を団長に渡した。


「え、未経験でエクスカリバーをですか?」

シラネは驚いたように聞き返した。


「うん。そう。だから連れてきた。剣士で雇ってあげてよ」


「いや、イツキさんの紹介なら大歓迎ですよ。イツキさんの目利きは信じてますから」

シラネはそういうとヨッシーの能力に関して記載されているであろうその書類に目を落とした。


「そうでもないよ。俺は結構その時の気分だからねえ……」

とイツキは応えながら、そのままヨッシーに視線を移して聞いた。


「この軍団はね。いつもニコニコしながらね。この近くの森に行っては散歩がてらにモンスターを殺戮(さつりく)しまくる軍団なんだよ。いつも皆殺しさ!。イェイ!で、その後は残った財宝をごっそりと分捕って帰ってくる。どう?」


「ちょっとイツキさん、そういう言い方したら、うちがとんでもない軍団に聞こえるじゃないですか?」

と慌てて団長のシラネが間に割って入った。


「え?そう?モンスターやっつけないの?」とイツキが可愛く聞いてくる。


「いえ、やっつけますけど」シラネは困ったように応える。


「いつも何匹かには逃げられるの?」さらにイツキは突っ込む。


「いえ、見つけたら全部倒しますが……」何言ってやがんだと思いながら答えるシラネ。


「だったら、間違ってないじゃん」

満面の笑みのイツキ。


「いや、そうですけどね……ものには言いようってもんがあるでしょう」

とちょっとキレかけるシラネ。


それを無視してイツキはヨッシーに

「そこそこハードで和気あいあいって分かって貰えたかな?」


ヨッシーは

「はは……な、なんとなく……」

と苦笑いしながら答えた。


イツキは

「ヨッシーさぁ。冗談はさておき、取り合えずここで頑張ってみてよ。君の境遇も良く分かってもらえると思うし」

と励ました。


「はい。頑張ります。ありがとうございました」

ヨッシーはまた90度に背中をまげてお礼を言った。


「もうそれは良いって」イツキは笑いながら言った。


「じゃあ、団長さん。ヨッシーをよろしく頼みますね」


「分かりました。一人前の剣士にします」


「ほい。じゃあよろしく。彼は良い”騎士”にもなれると思うよ」


そう言うとちょっと驚いた顔をした団長を横目に、イツキはヨッシーを置いて部屋を出て行った。


 階段を下りて玄関までたどり着くと、さっき敬礼した衛兵に

「トシちゃん。若いの入れたからちゃんと教えてあげてね」

と声をかけた。


 トシと呼ばれた衛兵は

「はい。任せてください。

さっき一緒にいた彼ですね。彼も転移組ですか?」

と聞いてきた。


「そうだよ。君と一緒。まあ、よろしく頼むよ」


「はい、分かりました。でもこの頃、転移してくるの多いですねえ…。」


「そうそう、多いねぇ。お手軽に異世界にやってくるからねえ……それと同時に『エタの呪い』も流行っているねぇ……」

と言いながらイツキは肩をすぼめた。


「エタの呪いですか……。あれは厄介ですねえ。急に消えますからねえ……あるいは一歩も先に進めなくなりますしね。」


「そうそう。お互い気を付けてエタらないようにしないとね」


「そうですね。気をつけます」

と言って衛兵はイツキに敬礼した。


そう、この国『ナロウ王国』は転移してくる勇者ヒッキーと、『エタの呪い』で動けなく人間が増えている。

折角、転移・転生してきてこれからの活躍を期待されている多くの勇者達が消えていく……本当に残念な事だ。


「それでもやって来るんだよねえ……だから俺の仕事もなくならないってね」


イツキはそう呟くとまたギルドの自分の部屋へと戻って行った。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る