第四話 名前とスキルとステータスと

 どうやら瑞希みずきの今の名前はシュリナスカというらしい。

 変わった名前だが響きがいい。

 父と母は瑞希の事をシュリと呼ぶ。シュリナスカを短く縮めた愛称だ。


 なので、瑞希も今日から自分のことを高遠瑞希ではなく、シュリと思うことにした。

 自分はもう高遠瑞希という29歳の女性ではなく、シュリという生まれたばかりの男の赤ん坊なのだ、と。

 少しさみしいが仕方がない。


 29歳の高遠瑞希のままでいても、いいことは何もない。

 瑞希の家族も友人も、もう2度と会えないのだ。

 今日から瑞希は、シュリとして生きていく。

 そう、決めた。高遠瑞希の名前は心の奥にひっそり沈めておくことにしよう。


 あ、ちなみに父親の名前はジョゼ、母親の名前はミフィーという事は分かった。


 シュリの上に子供はなく、親子三人で仲良くつつましく暮らしているようだ。

 ミフィーはいつも家にいてシュリのそばに居てくれるが、ジョゼは出かけていることが多い。

 きっと外で仕事をしているのだろう。頼りになる父親である。


 そう言えば、自分や父母の名前を聞き取ろうと、言葉に意識を傾ける日々を過ごすようになってすぐ、不思議な出来事があった。

 その日も朝から、母の話す言葉に意識を傾けていた。

 何とか意味を理解出来るようになりたいなぁーそんな事を思いながら。

 すると、不意に脳裏に光る文字が浮かび上がったのだ。



 ・スキル[人族の言葉]を取得しました!



 何だろうと首を傾げた次の瞬間、母が話している言葉を理解している自分に気がついた。

 さっきまで、まるで理解できなかったのに、今は何の苦労もなく理解することが出来る。

 赤ん坊の自分はまだ無理だが、もう少し大きくなれば何の不自由もなく話すことも出来るだろう。



 (ん~、これってあれだよな?)



 ラノベで読んだ知識を思い出す。

 本の中ではよくこういう設定が出てきた。

 今の様に様々なスキルを手に入れることで、主人公達は大した苦労なく異世界を無双するのだ。


 思うにさっきのスキルは、ミフィー達が日常的に使っている言葉を身につけることが出来るスキルなのだ。

 人族の言葉ということは、きっと他の種族の言葉もあるのだろう。

 この世界には、一体どれだけの種族が暮らしているのだろうか。

 もう少し大きくなったら、色々とこの世界について調べてみる必要があるだろう。


 そう言えばラノベの無双主人公達は、よく特別なスキルを持っていた。

 とっても珍しい、他人には無いスキルだ。

 自分にも、もしかしたらそう言うスキルがあったりするのだろうか?それを確かめる術はないものだろうか。



 (流石にゲームじゃないんだし、ステータスなんてものは無いだろうなぁ)



 心の中でそう呟いた瞬間、ステータスという言葉に反応したのか、シュリの目の前に半透明なウィンドウが現れた。

 そこにはシュリの良く知る文字で、細々と色々な情報が書かれていた。


 こんなものが急に現れて母は驚いていないかと、慌ててミフィーの顔色を伺う。

 だが、ミフィーの様子はさっきと何も変わらない。

 どうやら彼女の目には、シュリの目の前にある半透明の板は見えていない様だった。

 ミフィーの反応が無いのを確かめてから、シュリはそこにある情報を上から順に読んでいった。



・シュリナスカ・ルバーノ[男][0歳]

・人族[クォーターエルフ]

・LV:1

・HP:10

・MP:5

・魔法:なし


・スキル

 [人族の言葉]人族の言葉を理解できる。読み・書きは不可。


・ユニークスキル

 [年上キラー]相手の庇護欲・母性本能をかきたて、好意を上昇させる。男女・種族は関係なく自分より年上な者に効果が発動。一度発動してしまうと効果は一生涯。


・称号

 [両性をそなえし者]男女両方の性を経験した者の称号。男女関係なく好意の上昇し、恋愛関係への移行が容易となる。


 [世界の境界を越えし者]世界の境界を越えた者への称号。この世界での経験値の取得値が通常の倍となる。



 ふむふむ。

 きちんとした名前はシュリナスカ・ルバーノというらしい。

 ルバーノは家名と考えるのが自然だ。

 家名があるということは、貴族か何かなのだろうか。

 だが、貴族と呼ぶには慎ましい生活だ。

 もしかしたら、平民でも家名を名乗れるのかもしれない。これについてはおいおい確かめればいいだろう。



 (年齢と性別はいいとして、種族は人族ってのは予想通りだけど、クォーターエルフか)



 ちらりと母親を盗み見る。よく見てみれば、耳が少し長くて尖っている。

 きっと彼女がハーフエルフなのだろう。

 手を伸ばし、自分の耳を探ってみた。

 よく分からないが、それほど尖ってないと思う。

 自分の中を流れるエルフの血は4分の1だから、身体的な特徴はそれほど受け継いでないのかもしれない。

 そんな息子の様子を見ていたのだろう。ニコニコしながらミフィーが話しかけてきた。



 「お耳が気になるの?シュリ。シュリは私ほど尖ってないから、あんまり普通の人と変わらないわね。でも、髪は私と一緒だわ。おめめはお父様の色ね。とっても綺麗なすみれ色」



 ミフィーはうっとりとこちらを見つめてくる。



 (ふうん。髪は銀色で目は菫色、か。異世界っぽい色だな。それにしても、こっちの世界でも菫色って表現、あるんだなぁ)



 妙なことに感心しつつ、再びステータスを読み進める。


 LV、HP、MPが低いのは仕方ない。何といってもまだ生まれたばかりだ。

 魔法も、生まれつき使える様な魔法はないようだ。

 いつか覚えられるのだろうか?魔法は是非、使ってみたいものだ。


 スキル、という項目の所にさっき得たスキル[人族の言葉]があった。

 文字通り、人族の言葉を理解するためのスキルらしい。読み、書きは出来ないようだ。

 出来るようになるにはそちらのスキルも会得する必要があるのだろう。


 その下にあるスキルが、ちょっと変わっていた。

 ユニークスキルであるらしいそのスキルの名前は[年上キラー]。ふざけた名前のスキルである。

 その効果について読み進める。

 どうやら、人の好意を得やすくなるスキルのようだ。

 どれだけの効果が見込めるのかは分からないが、まあ、無いよりはいいだろう。

 思っていたようなスキルとは、若干というか大分違っていたが。


 その下がまだ謎だ。称号とは何なのだろうか。

 [両性をそなえし者]と[世界の境界を越えし者]とある。


 [両性をそなえし者]は今の状態だからこそ得られた称号なのだろう。

 女性であった前世の記憶があり、今現在は中が女で外が男のような感じだ。

 きっと時間と共に、少しずつ混ざり合っていくのだろうけど、それにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 効果は、これも好意UP系。恋愛感情に発展しやすくなる効能があるようだ。なるほど。


 もう一つの称号[世界の境界を越えし者]。

 これも前世が関係してくるようだ。

 死んで魂がこっちの世界に来て生まれ変わったわけだから、それがすなわち世界の境界を越えたという事になるのだろう。

 効果は取得経験値のUP。

 この称号があるだけで手に入る経験値が2倍になるようだ。


 なんともありがたい称号である。

 まあ、今のうちはどうしようもないが、身体が動かせるようになったら経験値取得の仕組みを探っていこう。

 この世界はきっと前世より危険な世界だ。ラノベの知識からの想像でしかないが。

 だが、どのみちLVは上げられるだけ上げておいた方がいいだろう。

 もともと体を動かすのも鍛えるのも好きだからちょうどいい。LVが高すぎて困るという事もないだろうしな。


 何とか文字も読めるようになって、魔法に関する本とかも読んでみたいし、やりたいことが山積みだ。

 早く自由に動けるようになるのが今から楽しみだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る