第29話 桜木蜜葉は決断した


「陸斗、結斗。話があるの」


昼休みになると、綾ちゃんは高宮くんと姫島くんを連れて教室を出て行った。


ご両親の話をするに違いない。


「蜜葉ちゃん、蜜葉ちゃん」


「ん?なーに?優里香ちゃん」


私は優里香ちゃんを見る。


「高宮くん、演劇部に入るって聞いた?」


「え・・・」


「あ、聞いてなかったんだ!あのね、朝・・・桜小路に言ってたらしいんだ。創作研究部と兼部したいって。桜小路の演技を見て色々学びたいと思ったみたい」


「高宮くんが・・・」


「声優になりたい気持ちが強いんだね、高宮くん」


「うん・・・」


高宮くん、本当にやる気を取り戻したんだ。


良かった。


だけど


「ドラマCDの音録りまでは演劇部に顔出すって綾斗に言うみたいだよ」


「え?」


「なるべく自分の実力を上げる事に専念したいんだって」


演劇部は毎日ある。


高宮くん、暫く部活を休むつもりだ。


でも、高宮くんの夢のためだから綾ちゃんも止められない気がする。


応援しよう、私。


寂しいけど・・・。



だけど


教室に戻って来た創作研究部の男子達は不機嫌な顔をしていた。


「綾斗、昼飯行こうぜ。学食!」


「ユイユイ・・・」


「俺はC組行くわ」


「演劇部に入りたいなら演劇部に行け!」


姫島くんはC組に向かう高宮くんに罵声を浴びせた。


優里香ちゃんの言ってた話をどうやら姫島くんと綾ちゃんが知ったみたいだ。


「綾ちゃん・・・」


「もしかしてゆーちゃんから聞いた?みっちゃん」


綾ちゃんに聞かれると、私は頷く。


「最初はね、あたしの話をしたの。陸斗もユイユイもあたしの家族の話を聞いてあたしが内緒にしてた事を怒ったの。みっちゃんにばっか甘えるんじゃなくて俺らにも頼れって。親友だろって言われちゃった」


「話して良かったね、綾ちゃん」


「うん。だけどね、陸斗も話があるって演劇部の兼部の話を切り出して・・・そこから陸斗とユイユイが大喧嘩して。あたしはね、陸斗にせめて週に2回は部活に来てって話したのよ?だけど、聞かなくて」


「高宮くんが?」


「三人で親友だって話したばかりだったのにね。結局すぐ喧嘩。男子って面倒くさいでしょ?」


「そっか。難しい問題だよね。わ、私は高宮くんが頑張りたい事を応援すべきだと思うな。実際、高宮くんは台本完成するまでは暇しちゃう時間がどうしても多くなるし」


「まあね。でも、陸斗が部活暫く休むって言ったのには別の理由もあるんだろうけど」


「へ?」


「今日から早速休むみたいよ?陸斗の奴」


「そんな・・・」


「全く!役者様に振り回されてばっかだわ、俺ら。学園祭の時だってあんなに陸斗の為に桜木が・・・」


姫島くんが話に入って来た。


「学園祭があったから高宮くんはやる気になったんだよね。演劇部で学びたいなんて言い出したんだよね」


「桜木?」


「私は高宮くんが頑張りたい事を応援してあげたい。私が漫画家になりたいってお母さんに言えなかった時、高宮くんは背中を押してくれた。私の夢応援してくれたの、高宮くんは。だから私も応援してあげたいな。桜小路くんの演技は確かにすごかったし。私は勉強になるなら良いと思うよ!」


「みっちゃん・・・」


「桜木、良いのかよ?」


「分かるから。私もね、実力不足だなって感じて不安になった時はひたすら絵を描いた。高宮くんもたくさん練習して自信をつけたいんじゃないかな?」


「ユイユイ、みっちゃんの言う通りかもね」


「は?綾斗!?」


「陸斗はあたしやユイユイと違って挫折を味わったの。オーディションで。やっぱりまだその傷は癒えてないだろうし、暫くは好きにさせましょう。自信をつけられるまでやりたいのよ、きっと。部活は絶対辞めないからって話してたし、大丈夫」


「わ、わーったよ!」


でも


本当はすごくすごく寂しい。



「今回はみゃーちゃん無しで行くのよね」


「あ、そっか。冬は演劇部忙しいよね。老人ホームと幼稚園のクリスマスパーティーでのボランティア公演がたくさんあるって優里香ちゃんが」


「うちの演劇部有名だもんな。桜小路は大変なんだな、これから」


「じゃあドラマCDは一本だね」


放課後になると、私達は部活へ。


「テーマは決まってるし・・・シナリオ作り開始ね。ユイユイはプロット考えて。あたしとみっちゃんはジャケットのイラストの構図を考えるから」


「了解。任せろ。プロットできたら桜木に回すな」


「わ、分かった」


高宮くん抜きの部活はどことなく寂しい。


「やっぱり冬だし、看病系は萌えるわね!熱でおかしくなった彼がヒロインを押し倒すの萌えシチュ!」


「綾ちゃん、やりすぎたら全年齢じゃなくなるよ?」


「俺らまだ16だし、18禁出す自体アウトだわ」


「はいはーい!でもちょいエロならありよ!女の子はエッチな部分あるからね」


「さ、桜木・・・そうなのか!?」


「わ、私!?違うよ!」


「みっちゃん?あーんな甘々な少女漫画描いといて言う?」


「あ、綾ちゃん!もう!高宮くん、二人が・・・」


あっ!


「そっか。高宮くん、いないんだった。あはは」


「みっちゃん・・・」


「桜木・・・」


「ほら、作業再開しよう!」


高宮くんがいなくても頑張らなきゃ。


高宮くんも頑張ってるんだし!


だけど


「やっぱり寂しいな・・・」


私は家に帰ると、高宮くんと撮ったプリクラを見つめる。


「諦められるのかな?私」


気付けば、高宮くんを目で追ってるし。


一度好きになったら好きな気持ちを忘れるのは難しい。


諦めなきゃって思えば思うほど高宮くんの笑顔が浮かぶ。


「叶わないのに・・・」


高宮くんには好きな人がいるんだよ?


でも・・・


(演劇部と兼部になったんだよね?綾ちゃんから聞いたよ。どう?楽しい?)


私はついLINEを送ってしまった。


気になるからね、うん。


(楽しいよ。桜小路くんいるし)


あ、すぐ返信来た!


(応援してるね!でも、たまには部活にも顔出してくれると嬉しいなぁ・・・なんて 笑)


私は返信した。


私、うざいかな!?


(ごめん。暫くは無理。悪い、疲れてるから寝るな)


た、高宮くん・・・。


(疲れてるとこLINEしちゃってごめんね!ゆっくり休んでね)


私がそう返すと、高宮くんはライアスがおやすみと言ってるスタンプを送ってきた。


LINE送って申し訳無かったなぁ。


でも、楽しいなら良かった。


良かった・・・。



だけど


「高宮くん、おはよう!」


翌日になると、私は高宮くんに明るく挨拶する。


「ああ」


「あのね、前に高宮くんが言ってた漫画読んでみたよ!不良の漫画!暴力的なシーンばかりだから最初ドキドキしたけど、面白かったよ!結構ハマれそう」


「そうか」


「高宮くんがああいうの読むの意外だったなぁ」


「結斗に薦められたから」


「ね、高宮くんの一番好きなキャラって誰?私は・・・」


「桜木、悪い。俺、職員室に行かなきゃいけないから」


「あ、ごめんね・・・また後で」


高宮くん、全然笑ってなかった。


昨日のLINEも態度素っ気なかったし・・・


私、うざいのかも!?


「蜜葉ちゃん、大丈夫?」


「ゆ、優里香ちゃーん!」


「わっ!蜜葉ちゃん、涙目!」


「私って重い女なのかもしれない。高宮くんにうざがられてそう」


「か、考えすぎじゃない?桜小路だって機嫌悪いと関係ないあたしに素っ気ない態度とるし。たまたま機嫌が悪いだけなんじゃないかな」


「そうかな」


「そうそう!演劇部でも大人しかったよ?桜小路ばっか喋ってた」


だと良いけど・・・


でも


「高宮くん、あの・・・ライアスの最新話見たよ!それでね、カイト描きたくなったんだけど・・・どんなシチュエーションが良いかな?やっぱりライアス二号機との2ショット?それともライバルのミナトとの・・・」


昼休みになると、私は高宮くんに再び話しかける。


「二号機との2ショットで良いんじゃない」


「そっか!そうだよね!じゃあ、高宮くんに・・・」


「高宮陸斗ー!」


「悪い、桜木。桜小路くんとこ行くから」


「あ、うん・・・」


やっぱりよそよそしい!?


「はぁ、なーにやってんだか。陸斗の奴」


「みっちゃん、気にしなくて良いわよ」


「姫島くん、綾ちゃん!」


二人は呆れた顔をしている。


「良いの!二人も一緒に御飯食べよう?優里香ちゃんがね、綾ちゃんに聞きたい事があるらしくて」


「え、ええ」


「桜木、無理してないか?」


「大丈夫!私、鉄メンタル!」


きっと演劇部の事で頭がいっぱいなんだろうな。


桜小路くんとこ行くみたいだし。


邪魔しちゃ悪いよね。


結局、私はそれから高宮くんに話しかけるのをやめるようになってしまった。



だけど


「蜜葉ちゃん、高宮くん欠乏症?」


「へ?」


「あれから一週間は話してないじゃん」


優里香ちゃんに言われ、私は高宮くんと話さなくなって一週間も経った事に気が付いた。


そんなに話してなかったんだ!?


挨拶しかしてなかったな、そういえば。


綾ちゃんや姫島くんも高宮くんと話してる様子無かったけど。


一週間経っても慣れないな。


高宮くんが部活に来ない事に。


「蜜葉ちゃん、演劇部の練習見に来なよ」


「へ?」


「気になるでしょ?高宮くんの様子」


「気にならなくはないよ」


「もう!今日の放課後は体育館で練習なの!蜜葉ちゃんは絶対来る事!」


「う、うん」


そういえば綾ちゃんと姫島くんは用事があるんだっけ。


「一人で来てね?」


優里香ちゃん、謀った!?


「はい・・・」


差し入れ持って行ったらすぐ帰ろう・・・。


購買で高宮くんが好きなお菓子とスポドリ買お。


渡したら帰る!


「みっちゃん、今日は部活出来なくてごめんね。バイト代わりがいないらしくって」


「俺も。母さんに急に仕事手伝えって言われて」


「だ、大丈夫!漫画描く時間に充てるし」


「そうね。じゃあね、みっちゃん」


「またな、桜木」


綾ちゃんと姫島くんは二人で帰った。


よし、購買でお菓子とスポドリ買おう!


私は鞄を持つと、購買でコーンポタージュ味のスナック菓子とスポドリを買った。


高宮くん、コーンポタージュ味のお菓子も好きって言ってたし!


辛いスナックが一番好きらしいけど喉に悪いらしいからね。


「これでよし!」


(練習、ガンバレ!! 蜜葉)


私は付箋にそう書くと、スポドリに貼り付けた。


私くらいかなぁ。


演劇部の見学に行くのなんて。


私はドキドキしながら体育館へ。


「早速高宮くんが練習してる」


私は体育館の入り口に立ち、高宮くんを見つめる。


「何故あいつを殺した?俺はお前を信じていたのに!」


高宮くんは桜小路くんを睨みつけ、言う。


「邪魔だったからだよ。俺は自分の邪魔をする奴は皆殺してやる。権力を得る為なら何だってしてやる」


「お前はそんな奴じゃ無かっただろ!?目を覚ましてくれよ!」


普段冷静な高宮くんとは思えないくらい、熱い演技をしている。


すごいいきいきした表情をしている。


「はい、そこでストップ!高宮くん、今の演技すごく良かったよ!」


「本当ですか!?ありがとうございます」


高宮くんは先生に褒められると、笑顔で返す。


高宮くん、楽しそう。


演劇部が合ってるんだな。


そうだよね。


高宮くんだけ創作側じゃなくて演じる側だったから、創作研究部で。


本来はこういう部の方が良いんだな。


高宮くんは先輩と台本を見ながらずっと話している。


真剣な表情。


すごくいきいきしてる。


声かけづらいな。


だけど


「桜木蜜葉!」


ひゃっ!?


桜小路くんが私に気付いた。


さ、桜小路くん!!


「どうした?桜木蜜葉よ」


優里香ちゃんいたら優里香ちゃんに渡して帰ろうと思ってた。


でも、優里香ちゃんがいない。


よし


「え、えっと・・・これ!高宮くんに渡しといて!それじゃ」


「あ、おい!桜木蜜葉!」


私は桜小路くんに高宮くんへの差し入れを渡すと、その場を後にした。


「何逃げてんだろ」


でも


思ってしまった。


高宮くんがあのまま演劇部に馴染んで創作研究部を辞めちゃうんじゃないかって。


さっき、練習している高宮くんを見ていつもより遠くに感じたんだ。


高宮くんがすごく遠い・・・。


私の胸は痛み続ける。



夜になると、高宮くんからLINEが来た。


(差し入れありがとう。助かった)


高宮くん・・・


(役に立てたなら良かった(o^^o)部活慣れてきた?)


私は高宮くんにそう返す。


(ああ。すごくやりがいを感じる。たくさん学べるし、良い経験ができている。)


高宮くん・・・


演劇部に毎日ずっといたい?


そう打ちかけて私はやめる。


そんな事、聞けないよ。


私はその後、返信をしなかった。



だけど


「陸斗、今日も桜小路んとこか」


「みゃーちゃんから聞いたけど、陸斗役を任されたそうよ」


「マジか。あいつはやっぱり演技の才能あんだな」


翌日も高宮くんは創作研究部のメンバーと話をしなかった。


姫島くんは不満を感じているらしい。


「陸斗は演じるのが楽しいからね。だらだらやる創作研究部より演劇部のがやりがいはあるんでしょうね」


「なんだよ。創作研究部でまた頑張るって言ったくせによ」


「まあまあ、ユイユイ」


綾ちゃんも私と同じ事思ってたんだ。


「高宮くん、演劇部にずっといたいのかな」


「桜木?」


「演劇部にいる方が高宮くんにはプラスになるし。高宮くんが演劇部一本にしたいってもし言ったら私は反対しないつもりだよ!だって高宮くんには頑張って欲しいから」


「みっちゃんは本当自分より他人を優先するわね」


「え?」


「陸斗は陸斗で自分の気持ち我慢してるっぽいよな。似てんな、桜木と陸斗は」


「姫島くん?」


「ユイユイ、僕達が入り込む隙なんて無いのかもね」


「綾斗・・・」


綾ちゃん、姫島くん・・・?


二人は切ない表情を浮かべる。


そして、姫島くんが言った。


「好きな奴には幸せになって欲しいもんな。俺も綾斗も違うんだ」


え?


私はその言葉の意味を理解できなかった。


放課後になると、部活に行く前に鬼島先生に呼び出された。


「すまないな。手伝わせて」


「い、いえ!旧図書室の片付け、お一人じゃ大変ですもん」


鬼島先生に頼まれ、私は旧図書室の掃除をしていた。


「高宮くんに自主練する為に良い教室は無いかと頼まれてな。ここなら使う生徒が滅多にいないし、丁度良いと思ったのだ」


「た、高宮くんが・・・」


「だから、桜木に頼んだ。桜木は高宮くんの為なら何でも死ぬ気でやるだろ」


「し、死ぬ気でって!先生、大袈裟です!それに、私はもう高宮くんを・・・」


「大人を見くびるな。桜木がまだ高宮くんを好きな事くらいお見通しだ」


うっ!


さすが鬼島先生。


「桜木、お前・・・逃げてんだろ」


「先生・・・?」


「何かと理由をつけて高宮くんに告白するのをやめてる。違うか?」


「私は・・・」


「お前は怖いだけだ。ずっとクラスで孤立していたし、他人の目を気にしてしまいがちなのは分かる。だがな。後悔するのは自分だぞ」


「っ・・・」


「姫島と橘はお前に真っ直ぐアプローチをしている。だが、お前は高宮くんに近付く勇気すらない。高宮くんが演劇部にいたいならほっておこうとか、高宮くんに好きな人がいるなら気持ちを伝えない方が良いとか。桜木は安全な道しか行ってない」


「ですが・・・」


「桜木の人生は違う誰かの為にあるのか?」


「え?」


「桜木、お前は人の事を考えすぎだ。人間、そんなに器用に生きられない。誰かを傷つけずに、自分を傷つけずになんて無理だ。だから失敗を恐れず、自分の思うままに行動しろ」


「鬼島先生・・・」


「桜木、お前は自分がやりたいようにやれ!若いんだ。たくさん間違える事もある。俺だってそうだった。だが、恐れるな。桜木が今本当にしたい事は何だ?」


「た、高宮くんとお付き合いしたい・・・です」


「なら、頑張るんだ。ちゃんと最後まで諦めずに。自分の気持ちを大事にしろ」


自分の気持ちを大事に・・・。


「先生、ありがとうございます。もう、迷うのはやめます」


「・・・良い目だな、桜木」


先生が言うと、私は笑う。


私はやっぱり自分の気持ちに正直でいたい!


鬼島先生の手伝いが終わると、私は部室へ走った。



「・・・みっちゃん。遅かったね」


「鬼島先生に仕事をお願いされて」


「人使いの荒いセンコーだぜ」


・・・言わなきゃ。


「みっちゃん?」


「姫島くん、綾ちゃん・・・ごめんなさい!」


私は二人に頭を下げ、言う。


「ど、ど、どうしたのよ!?」


「桜木、何だ?急に」


「私・・・高宮くんに告白する!」


「えっ?」


「二人の気持ちにはどうしても応えられそうにない。振られちゃうかもしれないけど、でも・・・ちゃんと高宮くんに頑張りたいの!最後まで諦めずに」


「みっちゃん、はっきり振ってきたわね」


「ようやく決心したのか」


「ごめんなさい・・・」


「謝らないの!みっちゃん。僕達がみっちゃんに告白したようにみっちゃんも陸斗に告白する。誰にも止める権利は無いよ。僕はみっちゃんにこれ以上自分の気持ち我慢して欲しく無い」


「俺も。悔しいけど、桜木がこれ以上無理するの見てらんねぇ。陸斗に全部伝えて来い」


「綾ちゃん、姫島くん・・・」


「俺らは大丈夫だからさ」


「あ、ありがとう・・・」


ごめんなさい・・・ありがとう。


こんな私を好きでいてくれて。



部活が終わり、家に帰ると私はドキドキしながら文章を打つ。


(明日の朝、時間作って貰える?

高宮くんに大事な話があります。)


送信・・・っと。


「はぁ。ドキドキした!短い文章なのに」


すると


高宮くんからすぐ返信が来た。


(分かった。何時に何処で会うんだ?)


えっと・・・


(7時半に屋上で!)


私はそう返した。


(分かった。じゃあ、また明日)


明日の朝7時半・・・。




「はぁ」


夕飯を食べ、お風呂に入ると、私は布団に入る。


眠れない、眠れないよ!!


怖くて今からもう胃は痛むし、ドキドキが止まらない。


泣きそうだ。


ちゃんと言え、私。


大丈夫だよ!


そうこうしている内に朝になってしまった。


「7時半に屋上・・・7時半に屋上・・・」


私は髪を整え、コンシーラーでクマを隠す。


ちゃんと伝えたい。


決めたんだ、逃げるな!


桜木蜜葉!


「い、行ってきます!」


私はドキドキしながら、いつもより1時間早く家を出た。


高宮くんより先に着いてないと!!


「人が少ない・・・」


学校に着くと、私は驚く。


うちの学校は8時半登校だからか、部活をやってる人しかこの時間はいない。


7時15分・・・。


15分早く私は屋上に着いてしまった。


この15分がやたらと長く感じるんだよね!


お腹痛い。


高宮くんは困っちゃうかな?


振られるのは怖い。


でも


伝えなきゃ後悔するもん。


綾ちゃんと姫島くん、鬼島先生が背中を押してくれた。


ちゃんと伝えなきゃ!


私が屋上に着いてから10分くらい経つと、屋上のドアが開かれた。


高宮くんが来た。


「お、おはよう!高宮くん」


「おはよう、桜木」


「ごめん、朝早くに」


「構わない」


どうしよう・・・心臓の音がかなり大きく聞こえる。


エラー起こしてる!


「あ、あ、あの・・・」


「うん」


高宮くんは私を真っ直ぐ見つめる。


私は一回深呼吸をする。


「高宮くんにね、伝えたい事があって・・・」


「俺に?」


「わ、私・・・私は・・・」


泣いちゃだめ、私!!


「私は・・・高宮くんの事が・・・好きです」


「え・・・」


「振られちゃうのは分かってる。でも、ちゃんと伝えたかったの。だから・・・」


高宮くんの顔見れない・・・


「ごめんなさい。私は高宮くんが大好き・・・」


・・・え?


いきなり高宮くんが私を抱きしめる。


「あ、あ、あの?高宮くん?」


「・・・俺も好きだよ、桜木の事」


えっ!?


「た、高宮くん・・・」


「桜木が大好きなんだ」


嘘?


ゆ、夢?


「すっげぇ嬉しい・・・」


我慢していた涙が一気に溢れ出る。


「桜木?」


「ごめんね・・・嬉しくてつい・・・」


「ごめん、桜木。俺はずっと勘違いをしていた」


高宮くんが私の身体を離し、言う。


「え?」


「桜木が綾斗を好きなんだと誤解していた。だからこの気持ちを忘れる為に桜木を避けていた」


「だから、演劇部に?」


「ああ」


「そう・・・だったんだ」


高宮くんも私と同じだったんだ。


そっか!


「高宮くん、演劇部で楽しそうにしてたからあのまま演劇部になっちゃうのかと思ったよ」


「確かに勉強になるし、楽しいけど・・・俺は創作研究部の部員だ。創作研究部にいたい、ずっと」


「高宮くん・・・」


「すまなかった。桜木を避けて。桜木はずっと俺を応援してくれていたのに。学祭の時のサポートも・・・こないだの差し入れも・・・」


「だ、大丈夫だよ!私の為だったんだもんね」


「桜木・・・」


高宮くんは私の手を取る。


「俺は至らない所がたくさんある。でも、これからはちゃんと桜木と向き合う。逃げない!ちゃんと大事にする。だから・・・俺を桜木の彼氏にして欲しい」


っ・・・


高宮くんの手の力が強くなる。


「は、はい・・・よろしくお願いします」


私が言うと、高宮くんは笑う。


本当に本当なんだ・・・。


「前もこんな事あったな」


あっ!


高宮くんが私のデッサンノートを拾っちゃった時も高宮くんが私の手を取って・・・


私達は笑い合う。


私・・・桜木蜜葉、16歳。


初めて彼氏ができました。


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