王子様はまだ恋を知らない。

胡桃澪

第1話 王子様の秘密


「陸斗、今日放課後空いてる?」


「ああ。7時までに帰らなければならないが。再放送があるんだ」


「またあれか。じゃあ、放課後は陸斗んち行くわ」


私の学校には王子様がいる。


「結斗にもハマって欲しい。ヒーローが素晴らしくかっこいい」


「陸斗がそこまで言うなら見てみるわ。てか、陸斗!髪、はねてる」


「どこ?」


「しょうがないなぁ、陸斗は。直してやる」


ーー高宮陸斗(たかみやりくと)


クールで無口な印象のふわっとした黒髪のイケメン。


学年トップの成績を常に保っている。


そして、


ーー姫島結斗(ひめじまゆいと)


ワックスで盛った金色の髪、着崩したブレザー、耳にきらりと光るピアス、手首にはシルバーのブレスレットをつけていて、不良っぽい雰囲気の男子。


2人は常に一緒にいる学年で一番モテる男子達だ。


今日もキラキラしてる!!


私、桜木蜜葉(さくらぎみつば)


この春、高校生になったばかり。


2人とは同じクラスだが、話した事がない。


というか、クラスに友達がいない。


中学まではずっと幼なじみの女の子がいたんだけど、高校は別々になってしまった。


まあ、そうだよね。


いつも髪を二つ結びにして、眼鏡な私は他のいけてるJKには敵わない。


クラスではクラス委員をしているし、周りからはガリ勉地味子としか見られてないだろう。


高校三年間ずっと1人なのかな。


私は青春を謳歌しなければならないのに。



そう、私には秘密がある。


それは・・・


「私の何がいけないんでしょうか?」


「やはり、現実味ですかね。ヒーローが完璧すぎる。欠点を見せた方が人間身が出ますね。あと、ヒロインがあまり積極的でないですね。もう少しヒーローにアクションを起こさないと」


「そう・・・ですか」


「身近な人間を観察したら如何ですか?」


しているんだけどな、高宮くんと姫島くんを。


「もう少しですよ!桜木さん!頑張りましょう」


そう。


私は少女漫画家志望。


去年から持ち込みを始めた。


今日も担当さんにネームを見てもらった。


やっぱり恋愛経験ゼロな私の妄想満載な漫画じゃ上を目指せないのかな。


誰かに恋したらもっと、リアルに描けるのかな?




デビューしたいなぁ・・・。


小さな頃から漫画が大好きな私はずっと漫画家に憧れていた。


もっと私が可愛かったら彼氏だって簡単に・・・。


帰り道、ショーウィンドウに映る眼鏡に二つ結びの地味な自分を見てため息を付く。


だけど


「ゆいゆーい!」


「ゆいゆいって呼ぶな、綾斗!」


「もう!綾って呼んでよね!ゆいゆい!」


「うっぜ」


翌日。


私が教室に入ると、姫島くんが橘くんに絡まれていた。


ーー橘綾斗(たちばなあやと)


いつもミルクティー色の髪をシュシュで一つにまとめている男子。


いわゆるおネエ系男子。

かなり美形で女子力が高いので女子に人気な子。


あ、もうすぐ一時間目だ。


移動教室なんだよね。


「あの・・・」


「何だ?お前!」


うっ!


私が姫島くんに声をかけると、私は威嚇される。


次、化学室に移動だよって教えたかったんだけどなぁ。


「結斗、桜木は移動教室だって教えてくれようとしたんだ。威嚇、だめ」


「陸斗!」


高宮くんが姫島くんに注意した。


「全く、ユイユイは陸斗以外にはきついんだからぁ!」


「うっせ」


「ユイユイはヤンホモ疑惑・・・」


「誰がヤンホモじゃ!」


「桜木、すまない。結斗はすぐ人に威嚇しちゃう癖があるんだ」


「わ、私は大丈夫だから!じゃあ、先に化学室に行ってるね」


「あ、桜木・・・」


き、き、緊張したーっ!


あの3人と関わる事なんて滅多に無かったから。


高宮くん、良い人だったなぁ。


人間観察・・・か。


高宮くん、姫島くん、橘くんの観察はよくしてるんだけど。


やっぱり実際仲良くならないと分からないなぁ。


でも


あんなキラキラした3人と友達になんてハードル高すぎるよー!


「陸斗、何してるんだよ?」


「コメントの返信待ち」


「またtwitterか?」


休み時間になると、私は高宮くんと姫島くんを観察する。


高宮くん達から私の席は遠いから会話がよく聞こえない!


人間観察って難しい。


席替えしたいなぁ。


とりあえず、休み時間はデッサンでも。


あ・・・


そういえば、昨日サイトに上げた二次創作のイラストコメント入ってたなぁ。


また同じキャラ違う構図で描いて上げようかなぁ。


最近、ハマっているロボットアニメの主人公描いたんだよね。


私、アニメも好きだから。


昨日コメントくれたRickさんって最近よくコメントくれるなぁ。


イラスト上げてないし、どんな人か分からないな。


でも


すごい褒めてくれたんだよね。


Rickさんとの絡みが毎日の楽しみかもしれない。


リアルの友達は今、学校にいないけど・・・ネットの友人はすぐできちゃうな。


こんなんじゃだめだよね。



休み時間はたくさんデッサンしていつも終わる。


高宮くん達も描いちゃった。


あぁ、帰ったらストーリー練り直さなきゃな。


何としてでもデビューしたい!




ーー放課後。


「な、無いっ!?」


私のデッサンノートが!!


あぁ、掃除の時間机動かす時に落ちちゃったのかな。


先生にいきなり仕事を頼まれて鞄に仕舞うのを忘れてしまっていた。


誰か拾っちゃったかな。


中身見られたら終わる!


中には練習用に描いた男性の身体のスケッチとかキスシーンの練習に描いたプチ漫画が!!


「・・・桜木」


「た、高宮くん!」


高宮くんにいきなり声をかけられた。


「このノート、お前のだろ?」


えっ!?


高宮くんが拾ってた!!


「あ、あの・・・まさか中を」


「俺は非常に感動した、桜木」


「え?」


高宮くんはいきなり私の手を取る。


「神絵師は桜木だったんだ」


高宮くんは瞳を輝かせ、言う。


「へ?」


「はちみつ。さんが桜木だったなんて。不覚だ」


「な、何故私のネットでの名前を!?」


「Rick。それが俺のネットの名前」


「えぇっ!?」


(はちみつ。さんが描くカケル本当に素敵ですね。アニメのコミカライズははちみつ。さんにして欲しかったです。はちみつ。さんの描く絵柄、僕は大好きなんです。)


「・・・大好きなんだ」


えっ?


た、高宮くん?


「桜木の描く絵が」


っ!?


「ちょっと待ったァ!!」


えっ!?


いきなり姫島くんが教室に入ってきた。


「陸斗!俺はお前に好きな女がいるなんて聞いてないぞ。親友なのに。俺は認めないぞ!そんなわけわからん女と付き合うなんて」


「落ち着け、結斗。お前は早とちりをしている」


「一言相談してくれよ、陸斗!」


「何!?NTR?NTR?」


あ、橘くんも来ちゃった。


「お前ら面倒くさい」


「陸斗がぐれやがった・・・」


「ユイユイ!へこむな!あたしがいるじゃない!」


「オカマは黙っとけ!」


「あぁ?オカマって言うんじゃねぇ!」


橘くんは姫島くんの頭を叩いた。


「あ、あの!違うんです!高宮くんが好きなのは私の絵で!」


「あ?なんだよ、それ」


姫島くんは私を睨む。


「結斗にも見せただろ、さっき。はちみつ。さんの描いたカケルのイラスト。はちみつ。さんは桜木だったんだ」


「えっ?」


「まぁ!そうなの?委員長ちゃん」


「は、はい」


「あたしも見たわぁ!陸斗に見せて貰った!あの絵柄でBLも見てみたいと思ってたのよねぇ」


「び、BL!?」


「これだからオカマは・・・」


「あぁ?何か言ったか?ユイちゃん」


「たまに男出すなよ、綾斗」


姫島くんと橘くんにまでバレちゃった!



でも


「わ、笑わないんですか?私の事」


「何で?」


「だって、あのノートにはその・・・男性の身体とか」


「大丈夫だ、桜木。結斗なんかこんな見た目でギャルゲーと魔法少女系アニメが好きだから」


「えっ?」


「おい、陸斗!勝手にばらすな!」


「桜木だけ秘密を明かすのはフェアじゃない。俺は見ての通りアニヲタで声優志望だし」


「声優志望!?」


「まあ、俺はそれが自分だと思ってるから恥じないが。で、綾斗はこんなキャラだから理解してくれない奴も少なくない」


「そうなのよー!男子からは疎まれがちなのー」


「だから、桜木は気にするな」


「高宮くん・・・」


「ちょうど良いわ!陸斗」


「ん?なんだ?綾斗」


「桜木ちゃんにも部に入ってもらいましょ!」


部?



「創作研究部よ!」


「創作研究部?」


私は首を傾げる。


「そ!あたし達と桜木ちゃん。皆で一つの作品を作るのよ!ギャルゲーもよし、BLゲーもよし、乙女ゲームもよし!ドラマCDでもよし!」


「綾斗、勝手に話進めんなよ!困るよなぁ?陸斗も」


「ドラマCDとゲームの声優は!?」


「やるなら陸斗に任せるわ。声優志望なんだし」


「桜木の絵に声をつけるのが俺・・・」


「おい、陸斗?」


「結斗、俺入りたい。創作研究部」


「り、陸斗!?」


「桜木も入ってくれ。俺、桜木と作品作ってみたい・・・」


高宮くんは私を真っ直ぐ見つめ、言う。


部活に入れば、高宮くん達の事もっと知れるよね?


「は、入りたいです!」


「良かった」


「で?ユイユイはどうするのよぉ?」


「お、俺は・・・」


「結斗、 部活入らないのか?」


高宮くんはしゅんとした表情で姫島くんに聞く。


「しゃ、しゃーねぇな。陸斗に付き合ったる」


「さーすがヤンホモ♪」


「綾斗!その呼び方辞めやがれ!」


そんなわけで私はクラスで人気のある3人のイケメンと同じ部活に入る事になった。


何!?この少女漫画的展開!


でも


意外だった。


3人がヲタクだなんて。


部活に入るのは初めてだし、男子とこんなに話すのは初めて。


これからドキドキの高校生活になりそうだ。





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