第37話 枷村忠志

「桂田かぁ。最近は確かに見てないな。それ

であいつを探してお前に連絡すればいいの?」


「頼みますよ。ちょっと急いでいるもので。」


「それはいいけど、あいつ探してどうするつ

もり?変なことに巻き込まないでくれよ。な

んかお前たち、お前とか岡本浩太とか学校辞

めちゃって何があったのかは知らないけど。」


「彼を探して欲しいだけですから。それと見

つけたら本人には直接連絡を取らないですぐ

にこちらの方に連絡をください。」


「ほらほら、それがおかしいって。なんで桂

田に直接連絡を取ったらダメなんだよ。あい

つ借金とか作って逃げてるのか?」


「そうじゃありませんが、説明すると巻き込

んでしまいますよ。割のいいバイトだと思っ

てよろしくお願いします。」


「分かったよ。杉江には世話になってたから

まあなんとか探してみるさ。」


 桂田利明は行方不明だと聞いていた。杉江

統一は自主退学。岡本はアメリカに留学。そ

れと同時に講師の綾野先生も学校を去った。


 枷村は少し前に地元に帰ったとき映画の撮

影かのような、でも迫力のある場面に遭遇し

た。アメリカ軍用機か琵琶湖に浮かんだ島の

ようなもの(映画のセット?)に実弾を打ち

込んでいたようだ。まさか、あり得ないこと

だが。


 その時に岡本浩太を見かけた。あとで問い

ただしたけど、そんな場所には行ってない、

とはぐらかされてしまった。でも、間違いな

くあれは岡本だった。後で取材に来た新聞記

者にもそう言ったのだが、その後の話はなか

ったので結局事実かどうかは判らず仕舞いだ

った。


「とりあえず、電話とメールとLINEか。」


 桂田利明について、知っている限りの手段

で連絡を取ろうとしてみた。予想された通り

全て無駄だった。電話は呼び出し音が鳴るが

出ない。電話自体は生きている、ということ

だ。メールは返信がない。LINEは既読に

ならなかった。


「SNSはどうだろう?」


 Facebookとかmixiとかありと

あらゆるものをチェックしてみた。桂田利明

ではヒットしなかった。試しにメアドでFa

cebookを探してみた。


 ビンゴ!桂田は別名でFacebookを

やっていた。『サイクラノーシュ』という名

前だ。


 そこには様々な写真がアップされていた。

ただし、場所が特定できるような写真がなか

った。風景が多いのだが全景でありピンポイ

ントで何かを写しているものはなかった。た

だし、彼が行方不明になってからの更新があ

った。その写真を保存し、プロパティを見て

みる。旧式のスマホで撮ったものらしく緯度

と経度と高さが保存されていた。


 調べてみると神戸市内のマンションだった。

自宅の窓から街と海を撮ったもののようだ。

但し、今でもそこに居るかどうかは判らない。

枷村は自身で確かめたうえで杉江に連絡する

ことにした。


 現地に着くと、そこは6階建てのマンショ

ンだった。高台に建っているので見晴らしは

いい。裏手には山があった。そこに登れば部

屋への出入りが確認できそうだ。表札は出て

ないので桂田の部屋がどこなのかはわからな

かった。しばらく様子を見ていると外国人の

女性が最上階に現れた。一番右側の部屋に向

かう。


 居た。桂田利明だ。間違いない。


「そうですか。本当にありがとうございます。

バイト代は振り込んでおきますね。」


「いや、それより、何で桂田を探しているの

かをバイト代でどうだ?」


 高額なバイト料。その裏にあるものに興味

が出てきたのだ。


「それは。聞かない方がいいと思いますよ。

あと、聞いても信じられないでしょうから。」


「岡本浩太絡みじゃないのか?」


 確信はなかったが、カマをかけてみた。


「枷村君、何か知っているのですか?」


「まえに湖西の湖畔で大規模な映画の撮影が

あったんだよ。とても撮影とは思えないリア

リティーがあった。そこで岡本を見たんだ。

てもあいつはそんな場所に行ってない、って

取り合わなかった。そのあと結城とかいう新

聞記者が訪ねてきて、その時のことを聞いて

きたから正直にそのまま話したんだけど、そ

の後確認てきたかどうかは連絡がないので分

からない。でも岡本は何か事の中心にいる気

がするんだ。桂田が居なくなったりしたのも

岡本と彦根で地下探検とかに行ってからだし

な。」


「少しは事情をご存じなのですね。でも、そ

れ以上は関わらないほうが身のためです。素

直にバイト料を受け取ってください。」


 渋々ではあるが枷村忠志は杉江に従うこと

にした。興味はあるが自分の身が一番大切だ

からだ。大学になってしまうような事には巻

き込まれたくなかった。

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