第22話 玉座の日常2

「結局居なくなっちゃうんだよなぁ。ナイ君

も冷たいよなぁ。」


 また一人になった七野修太郎は仕方なしに

自分の思考に沈んでいくのだった。


「なんか家庭教師を住込みさせて監視してい

る、とか言ってたなぁ。家にはそんな余裕な

いからお金とかどうしてんだろ?」


「杉江統一とかいう名前だったなぁ。うん?

なんか聞いたことある名前だなぁ。すぎえも

といち?聞いたことあるなぁ。いつ、どこで

だっけなぁ。」


「あっ、小さいころ、確か小5くらいだった

かな。家の近くの公園で遊んでいると中学生

くらいの男の子が来て話しかけてきた、あの

人の名前がそんなんじゃなかったっけなぁ。」



(君、一人で遊んでいるの?もう暗くなって

きたからおうちに帰った方がいいよ。)

 

(お兄ちゃん、誰?)


(僕の名前は杉江統一。君は?)


(僕は七野修太郎。)


(修太郎君か。僕はここでやることがあるん

だ。君は早く帰りなよ。お母さんが心配する

よ。)


 実際には働きに出ていて帰りが遅い母親は

心配していないはずだった。父親が先日急病

で死んでしまったので母親が遅くまで働かな

いと生活していけなくなってしまったのだ。


 修太郎は帰るふりをして少年が何をしよう

としているのか興味があったので木の陰に隠

れて様子を見ることにした。


 杉江統一は公園で一番高い遊具であるジャ

ングルジムの一番上に上った。そこで何か小

さな声で空に向かって話をしているようだ。


 修太郎は何を言っているのか聞き取るため

に気づかれないように近づいて行った。


(**************)


 何を言っているのか、全く聞き取れなかっ

た。日本語じゃないみたいだ。



「そうだ、あの時の中学生が杉江って言って

た。今思うと日本語じゃなくて、地球の言葉

でも無かった気がするなぁ。何者だったんだ

ろう。でもその子が今僕の身体の家庭教師を

しているのかぁ。あの頃から縁があったのか

なぁ。地球人じゃない人に関わりを持つ運命

なのかなぁ。特に優秀でもなく、別に特技も

なく、というか何のとりえもないのになぁ。」


 卑下している訳でもなく本当にそう普段か

ら感じているのだ。斎藤加奈子は幼馴染でそ

あたりも知ったうえで好いてくれているから

安心だった。普通、平凡、凡庸、なんと言わ

れても仕方がなかった。


「でも、だったら、何でよりによって僕なん

かと入れ替わってしまったんだろうなぁ。本

当は別の人と入れ替わる予定が間違っちゃっ

たんじゃないのかなぁ。それならただの災難

だよなぁ。」


 修太郎の思考はとどまることを知らなかっ

た。というか、それしかやることがないので

仕方ない、というべきか。結論が出る事でも

ないので際限なく続くのだ。 

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