第22話ブラッキは痒くて掻く。GGは小説を書く。
11月6日 金曜日
ブラッキは痒くて掻く。GGは小説を書く。
●昨日はブラッキをS動物病院に連れて行った。
やはりダニだろうということで、飲み薬をもらってきた。
●このところ毎日「方舟の街」を書いている。
今夜は、一行と一行との間に1200字ほど加筆した。
塾のほうの授業を減らしたので、細かく書き込む余裕がきた。うれしい。
●昼と夜とが逆転してしまったようだ。いま明け方の三時。これから寝床にもぐりこむ。ブラッキがすでに軽快な寝息をたてている。いくぶん痒みが緩和されたのだろうか。気のせいかもしれないが、体を掻く動作が少なくなったようだ。
●こちらは、書いて、書いて、書きまくってやるぞ。
●ブラッキが痒がってからだを掻いていたように、GGは小説を四六時中書きまくってやる。
11月22日 日曜日
五郎丸じゃない、菊水の五郎八を飲んでから小説を書き出す。
●つくづく幸せだと思う。
子どもの頃、やりたかったことを、いま全精力を傾けてやっている。
もっとも、この歳だから、体のほうまで傾いてはこまるので、規則正しい食生活を試みている。
●すきなこと、読書と小説をかくことに集中できるのだから、こんなうれしいことはない。ようやく、やりたかったことが、やれるようになった。82歳。
これからがわたしの本当の人生のはじまりだ。
●あさ、4時起床。まず、寝床でメモしたことをパソコンに打ち込んで置く。
それから小説を書き出す。いくら書いても、納得できるようには書けない。
そこがおもしろいのだ。
●疲れると、五郎丸のプレ・パフォーマンス・ルーティンではないが、
菊水の「五郎八」を猪口で一杯だけ飲む。「未来の傑作のために」猪口を高く捧げる。ほんとは、もっと飲みたいのだが、小説を書く時間が減少するのはしのびないので、健康も考慮して、がまんしている。
●猪口一杯。
アルコール度21%だからそれでもかなり効く。元気をとりもどして、また小説を書き継ぐ。
●生きることが、毎日が、おもしろくて、楽しくて――ビンボウしているのに金のことはあまり考えない。これでは精神的には、いつまでも子供でいるのがあたりまえですよね。金の苦労をしてひとは大人になっていくのですものね。
●でもここまでくる82年は波乱万丈。
●ようやく訪れた、フルタイムの作家としての生活。
たのしく長続きさせていきたいものだ。
●GGの小説は『角川B00K WALKER 惑惑星文庫』でお読みください。
●さてこれから、吸血鬼とご対面。ということは、吸血鬼の登場する小説を書くということですが。吸血鬼が夢にまででてきます。
昨夜など、夢で吸血鬼と戦っているつもりで、寝ぼけて、となりで寝ていたブラッキの首を絞めてしまいました。
●ブラッキが鉤爪でわたしの腕をひっかいたので、ことなきを得ましたが――。
危うく愛猫を絞めてしまうところでしだ。
12月7日 月曜日
リリが重体です。死ぬかもしれない。
●昨夜。宵の口。3キロ700の重さ。
猫のキャリーバックを下げてS動物病院にいそいだ。
●「だいじょうぶだよね」と妻がつぶやく。
リリの元気がなくなってから一週間くらい過ぎた。
アルミホイルを丸めてサッカーボールにみたて、ふたりで戯れていたのに、まったく反応しなくなっていた。
●床をくくくと音をたててころがるアルミの小さな球を追いかけていたリリ。
妻のほうへボールを足で押し返す。
たまには、咥えてもってきて、妻の手のひらにのせる。
喜々としてふたりで遊んでいたのに。
それを追いかける仕草さえみせなくなっていた。
床や畳の上に数個のアルミのミニボールはころがったままになっていた。
●「ぐったりしてるの」
妻が気づいた。
そして、病院にいそぐことになったのだった。
血液検査。エコー。そのたの検査の結果。
「血液がたりませんね。鉄分も不足しています」
こういうとき、医学の知識がないのが悲しい。
ともかく三日後にまた連れて来て下さい。
ということで病院をあとにした。
なぜそうなったのか。
原因はわからないということだった。
●「リリ、元気だして。リリ死なないで」
妻はケースのなかのリリによびかけるが返事はない。
しばらくして、ニ―と一声鳴いた。
ニャーオと子猫のときから鳴けないリリだ。
スゴク綺麗な顔の三毛の雌猫に育ったのに。
「美人薄命」
ぼそりといったわたしの言葉に、妻がめずらしく激しい音声で反発した。
「そんなこといわないで」
12月9日 水曜日
「リリが水を少し飲んだよ」
●「リリが水を少し飲んだよ」
「リリがウンチしたよ。小指の先ほどのウンチしたよ」
「リリがフレイクの餌をチョッピリたべたわ」
●Sheba(シーバ)の極上フレーク。しっとりお魚にささみ添え。
●ヨークベニマルペットコーナーで買ってきた餌が冷蔵庫の中央に鎮座している。
猫用缶詰も置いてある。人間のモノとまちがって食べないようにしなければ――。
●GGは、おれの餌はどこだぁ……と扉を開いたまま絶句。
GGは当分禁酒。酒代を餌代にまわさなければ。
●リリが元気になりそうだ。
「このさい、いっそ、オサケヤメタラ」
妻はシンプルにいってくれるもんね。
モッコリしなくなった僕チンはお酒くらいノミタイ――。
●GGは猫になりたい。きめた。来世は猫に転生だ。
12月11日 木曜日
野坂さんが亡くなった、麻屋はこれからまだまだだ。
●「十年命縮めてもらいます。そうすれば、安泰よ」
と妻がいった。そうだよな。全くその通りだ。
高等遊民のなれの果て。戦後無頼派の底流をつねに漂ってきたGGには、妻の言葉は天からの至言だ。
●………と書きだしたが、これでは何を書こうとしているのか、説明が必要だ。
このところ、12月になって何かと物入りが嵩み、無収入の老書生にとっては、体のすくむ思いだ。
●それは不意に、猫の病気から始まった。ブラッキーがダニに襲われ――ダニに寄生された。大げさな誇張した表現ととられるかもしれないが、GGにとっては青天の霹靂だった。
●からだを夢中で掻いているうちに、発疹(ブッブッ)ができ、血がでても狂ったよに掻きむしり、見ていられない惨状だった。もちろん、放って置いたわけではない、あらゆる、ペットの薬を買って試みたが、薬石効なし。
●これでもだめなら、動物病院だ! ということになった。
●やはり最初から、病院に駆けつければよかった。ブラッキーは痒いのは快癒。
疥癬ができて、かさぷた、血まみれの状態となっていた。
それでも痒さには耐えられず、血のにじむ箇所をパパパと掻いて、さらに血がとびちる。見るも無残な症状から回復した。
●その間、GGはどうしていたかというと、ブラッキとの同衾(ドウキン)は止めなかった。同衾とはおなじ寝床にねることです。ともかく、18年も一緒に寝ている猫との間柄だ。疥癬ができたからとムゲニ、愛猫のブラッキーを拒絶することはできない。おかげで、GGもからだに発疹、赤いぶつぶつができて、上都賀病院の皮膚科にお世話になることとあいなった。
皮膚科にかかるなんて、この歳に成って初めてだった。
「拷問の歴史」という本で読んだことがあるが、痛みより痒みに耐える方が辛い。
ということが、実体験として理解できた。
●ブラッキが健康体にもどったと思ったら、リリが食欲がない、拒食。
鉄分が血液中にすくないとのこと。
●もう毎日、毎日、動物病院通い。
妻は歯科医院がよい。廊下が老朽化したので、妻の弟にムリにお願いして改造。
●先立つモノはお金。その金額の総計に、村八分の処遇だったので年金に加入していない、無収入のGGはただひとりふるえあがっていたら、……文頭の妻の言葉となった。
トホホホ。
●妻の食客の身分、GGが早く死ねば、たしかに解決することだ。
トホホホホホホホホホホ。
●妻の苦労をみかねているGGは、ツゴウデ、粗大ごみとして始末されても、仕方ないと思っている次第。子どもたちにも、お母さんの老後はみてあげるけど、お父さんは面倒はどうもね……。
●GGだって、遊んでいるわけではない。
高等遊民などとは、言葉のアヤでありまして、必死で小説を書いているのだ。
寝食を忘れて精進しているのだ。ミューズよ哀れなGGをお救いき下さい。
●GGのやっていることは、狂気のさただ。同世代の作家が、功なり名を成して死んでいく現状に逆らって、(野坂さんも死んでしまった)――いまから文筆でお江戸に攻め上るなんてこと、ソノキガイヤヨシ。でも、
傍から見たら、棺箱(がんばこ)に片足を突っつこんでいるような、GGの高言することばではありませんよね。
●劈頭の妻の言葉と言い、文末のGGの高言といい、ふたりともいい勝負ですよね。
これで夫婦円満、ケンカヒトツした事がないのですから、オカシナ、カップルです。あまり仲がいいので、Museが妬いて、GGを助けてくれないのでしょうか――。
12月12日 土曜日
師走の街をとぼとぼと歩いた。
●ひさしぶりで外出。街を歩いた。イチニイチニイチニと掛け声を心の中で口ずさみながら歩く。べつに今日の日付に合わせた訳ではないが、気合いをいれないと歩くのが億劫な歳に成っている。
●大江戸線に乗った。土曜日なので通勤、通学の乗客は少ない。みんなスマホの画面とにらめっこ。くつろいでいる。横目でのぞいてみると、ゲームをやっている。
GGの電子書籍でも読んでくださいな。
●妻がそばにいない。一人ぼっちの老人に――。若者が敬老精神を発揮して席を譲ってくれた。素直に、親切をうけいれられる。少し前までは、おれもGGになったのかと、コソバユカッタのに――。
●開戦記念日の8日も過ぎた。
10日の田舎町の方の神社の祭り「冬渡祭(おたりや)」も済んだ。あいかわらず、今年も二都物語。東京在住なのに、田舎の方へも足しげくかよった。もうどちらか一方に定住しないとムリだな。やはり、東京がいいかな。でもそうしたら、この「田舎暮らし」のブログのタイトルをかえる必要があるな――。などと、まだまだ迷っている。
●今年は、義理の弟が二人も亡くなった。
カミさんの弟と妹の亭主だ。寂しくなった。
●意気消沈するのを励ましてくれるような温かな一日だった。
●ブラッキーは元気なりました。リリもどうやらなんとか小康を保っています。
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