第17話子猫のリリの大脱走。

3月22日 日曜日

子猫のリリの大脱走。

●ぽかぽか陽気の昼下がり。

突如なりひびく、カミサンの甲高い悲鳴。

「リリが外に逃げた」

「逃げたのではなくて、散歩にでかけたのだ」

「呑気なこといわないで」

カミサンがちょっと勝手口の引き戸を開けたすきに。

――リリはとびだしていった。

カミサンはすっかり取り乱している。

「ものすごく速いのよ。二階にいると思っていたの。かえってこなかったら、どうしょう?」

●春だ。

暖かな日差しのもとで思うぞんぶん跳びはねたい。

ねがいがかなった。

庭をかけまわっている。

「塀の外にはでないだろう。でても、ブラッキ―のにおいもする。じぶんのにおいもかぎつけられるから、帰って来るさ」

「パパはのんびりしていていいわね。リリ」

ようやくつかまえたリリを胸にだきしめて。

カミサンが、リリと会話を交わしている。

●リリがニャニャニャとかわいい猫らしいなきごえで応えている。

このなきかたで精いっぱいなのだろう。ニャオウ――とはなけないリリなのだ。

●すべて世はこともなし。薔薇の芽もふくらんできた。

4月8日 水曜日

桜吹雪と吹雪。いっしょにみられるなんて風雅だなぁ。

●カーテンを開くと雪景色。

あれっ。まだ夢を見ているのかな。疑った。まさかほほをつねるようなことはしない。

でも、おどろき、まさしく雪をかぶった屋根屋根屋根の朝。

宝蔵寺の急角度の銅葺の屋根にも雪が付着している。

●どうりで夜、寒かったわけだ。

ブラッキ―がわたしの寝床にもぐりこんできた。

テレビでかなり冷え込むと報じていた。

冬帽子をかぶって寝てよかった。

すっかり頭髪がうすくなっている。

室温が10度以下になるとまず頭が寒くなる。

クモ膜下出血でもおこしたらたいへんだと、素人考えで、毛糸の帽子をかぶってねることにしている。

●さて……きょうは、どんな一日になるのだろうか。

4月10日 金曜日

静かに春の夜るが過ぎていく。

●夜になって雨が降りだした。

カミサンと猫、ブラッキ―とリリ――広い家で2人と2匹の夜が静かに過ぎていく。

●先住猫のブラッキ―はあいかわらず子猫の新参者リリをきらっている。

こまってしまう。

仲良くしてくれればいいのだが、リリが近寄ると猫パンチをくりだす。

威嚇のウナリ声をあげる。

なんとか、仲良くなるような方法はないのだろうか。

飼い主としては、悲しい。

情けなくなってしまう。

●このところ毎日ブログを更新している。

小説のほうは停滞気味だ。

これも、情けない。

●家の中はシーンと静まり帰っている。

かすかに屋根を打つ雨音がする。

春の夜が更けて行く。

明日は晴れるのか。

4月11日 土曜日

街はまだ眠っている。 

●夜来の雨が降り続いている。

5時起床。

街はまだ目覚めていない。

静まりかえっている。濃い灰色の雲が不気味なうねりをみせて空を覆っている。

雲は確かに動いている。これから晴れるのだろうか。古賀志山は見えない。

●千手山の桜ももうおわりだな。色褪せしてきた。

宝蔵寺のしだれ桜は散りだしている。そうした風景を二階の寝室から眺めてから階下に下りる。

●ホリゴタツにはいるとブラッキ―が寄って来た。

「リリと仲良くしてやってよ」

と話しかけても、ニャンとも応えてくれない。

●さてと、きょうも、ショートショートを書こうかな。

4月12日 日曜日

おたがいに長生き競争だよ。

●ブラッキ―がすっかり老けこんでしまった。

カラスの羽のように漆黒の毛がつやつやと油でも塗ったように光っていたのになぁ。

茶色に色変わりした。もちろん全身茶色になったわけではない。光の当たりかたで背中の部分が茶色っぽくみえるだけだ。

●抱きあげても、背中の骨がゴツゴツしてお腹のあたりの脂肪も減り、要するにやせ細ってしまった。

ふっくらとして、弾力のあった下腹部に肉はついていない。

いちばん肥っていたときの半分くらいの重さしかない。

●「認知症じゃないの」

とカミサンがいう。

猫もボケるのだろうか。

たしかにおかしい。

外に出たがる。

出してあげても直に戻って来る。

餌をたべたがる。

いつも飢えているみたいだ。

食べたことを忘れてしまうのだろうか。

●ブラッキ―は16歳。まだまだ元気でいてもらいたい。

わたしが小説を書きつづけてきて、一番苦しい時期をわかちあった、戦友みたいなブラッキ―だ。いつもPCの脇に香箱すわりをしてジーッと声にはだせないが、わたしをはげましつづけてきた愛猫だ。

がんばろうよ。おたがいに長生き競争だよ。

●けさも4時にブラッキ―に起こされたから、こうしてブログが書けた。

感謝しているよ。ブラッキ―。

4月15日 木曜日

リリとブラッキー/猫のヤキモチ。

●カミサンとわたしは、それぞれ一匹づつ猫を飼っている。

カミサンの猫はリリ。一歳。三毛の雌猫。

わたしの猫はブラッキー。十六歳になる同じく雌猫。

ブラッキーがあまりわたしになついているので、

「わたしの猫が欲しい。飼ってもいい?」

とかみさんにねだられていた。

ボンビー書生が猫を飼うだけのユトリがあるわけがない。

そういうときは、沈黙。

Silent is gold.

言わぬが花。

●ところが、ある日、玄関先で「ニャ。ニャ」とあきらかに子猫とわかる鳴き声がした。掌にのるサイズ。生後、二か月くらいの三毛猫が迷いこんで来た。

リリという名前をカミサンがつけた。

「わたし初めて子どもに名前をつけた」

とよろこんでいる。猫もわが子。

この気持ちは愛猫家ならわかってもらえますよね。

●先住猫のブラッキーはまだリリとうまくいかない。

側に寄られるのをいやがる。リリはブラッキーの背に乗りたがる。

ブラッキーは猫パンチをくりだす。威嚇する。野獣のウナリ声だ。

●ブラッキーの見ていないところで――。

かわいそうにションボリシテいるリリをだっこする。

あとになって、ブラッキーのところにいくと残り香がするのか。

わたしに近寄らない。完全にジェラシイモードだ。

「ブラッキー」

と離れて行くわが愛猫に呼びかける。

チラッとこちらをふり返っただけだ。ソッポを向いてしまう。

つれないな。

ブラッキー。

まだ妬いているのかな?

猫の気持ちはわからない。

でも、その拗ねているところが、かわいいのだ。

4月21日 火曜日

リリの大脱走。

●塾生が帰り静かになった教室。引き戸を開ける。

「ブラッキー。帰っておいで」

闇に向かって呼びかける。

足元を白いイナズマが走る。

どこに隠れて、うかがっていたのか、リリだった。

空き黒板を教室の隅に立てかけてある。

その裏にでもかくれていたのだ。

スキをうかがっていたのだ。

●リリの狙いはドンぴしゃり。

夜の徘徊に出かけたブラッキーを呼び戻すために。

引き戸を開ける。その習慣を読まれていた。

わたしの背後からスタートして庭にとびだしたのだった。

●外は春雨。

帰ってこないブラッキー。

後を追うように飛び出していったリリ。

初めての夜の散歩を楽しんでいるのだろう。

●リリが戻ってこない。

心配で外灯を明々とつける。

それでも心配だ。

隣の空き地まで探しに出た。

「リリ。リリ」

暗闇に向かって小声で呼びかけた。

返事はない……。

●春の雨にうたれてしばらく空き地にたたずんでいた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る