第7話リリの悪戯と思っていたのに

リリの悪戯と思っていたのに

1月26日

久しぶりに風も穏やかだ。

部屋に射しこむ陽の光も春を思わせる。

今日はバラの土替えをしょう。

2年も植え替えていないルイ14世。

シャリファアスマ、リルケの薔薇……。

棘のあるバラを鉢から抜くには皮手袋をしないと……が、いくら探しても片方がない。間違いなくテーブルの上に置いたのに。

それからが大変、家中を見つけて歩く。

夫もみかねて探してくれる。

リリは作業をしているわたしのそばをうろちょろしていた。

「リリ手袋どこにもっていったの」

「教えて」とリリを責めた。

リリが隠しそうなところを探してもみつからない。

リリには前科がある。

良くスリッパをソファの下に隠す。

ある時はベッドの布団の中に。

棘が刺さり悲鳴をあげながらバラを鉢から抜いた。

後方付けをしながらひょいと下を見る。

エプロンのポケットから半分手袋がぶら下がっている。

「うわぁ!!リリごめん」

「リリを疑って」

リリを抱きしめ精一杯愛撫する。

なくし物はたいてい夫が探し当てる。

さすがにわたしのポケットには目がいかなかったのだろう。

なんてドジなわたし。


雪あかり

1月30日

リリに起こされる。

部屋がいやに明るい。

まだ陽の射す時間ではない。

窓を開けると一面純白。

雪あかりだった。

廊下に面した障子を開け、庭の雪景色を眺める。

夫もわたし大喜び。

実は昨年の12月まで、ここは開かずの廊下だった。

柱もガラス戸も朽ちて開けたら最後閉まらなかった。

弟が暮れになおしてくれた。

ガラス戸は透明なサッシにした。

この冬は隙間風が入らず快適。

リリは透明なガラスの向こうに庭が見えるのに……。

「どうして出られないの」と、不思議な面持ち……。

雪の朝でした。


リリの脱走

2月4日

昼近く来客。

赤紫蘇をつけたシロップをいただく。

夫が執筆中だったので「午後出直してきます」と帰った。

夫が仕事をすませ二階から下りてきた。

昼近く夫とはじめて顔を合わせた。

夫はこのところ昼と夜が逆転している。

「リリは」と夫。

そういわれてみれば、リリは見当たらない。

わたしは、二階にいるとばかり思っていた。

それからがたいへんだった。姿を消したリリを探した。

家の中を隈なく探したが、いない。

夫が外に探しに行く。

来客があったので玄関を開けたとき、わたしの足元からサッと脱出したのだ。

削り節で呼び寄せる秘策も効果がない。

わたしのリリを呼ぶ声だけがむなしくひびく。

あきらめて、しばらく部屋で仕事に精を出していた。

庭に眼を転じた時だ。目の隅を、白いものがかすめた。

あわてて、もう一度、削り節のパックをもって、庭に飛び出した。

リリちゃん、確保。


陽だまりでうつらうつらするリリ

2月21日

陽の光が障子にさしている。

天気予報では今日は暖かくなると報じていた。

障子を開けるとまばゆい陽の光が部屋にさしこむ。

日向ぼっこをしたくなるような暖かな陽ざし。

あっ、リリが目ざとく見つけた。

廊下に置いてある椅子の上に飛び乗る。

リリは自分に合った快適な場所を見つける天才だ。

おもむろに毛づくろいを始めた。

それが終わるとごろりと日向ぼっこ。

いつのまにかすやすやお休み。


猫の餌…それとも夫の酒の肴

2月22日

今日は2月22日「猫の日」

リリの薬をもらいに獣医さんに。

帰りスーパーで猫ちゃんたちにササミを買ってくる。

鶏肉は最も猫の体に適したたんぱく質と「クロワッサン」の特別編集にかいてあった。

「わさびのかいおきあるかな」と夫。

あらまぁ。夫は鳥わさを酒の肴につくると思っている。

「ブラッキーとリリのためよ」といっていいものかしら。

猫ちゃんたちはわたしのもてなしを喜んで食べてくれなかった。

夫はとりわさを肴にお酒を飲んでご機嫌。


春の庭で遊ぶブラッキーとリリ

3月2日

リリはほとんど寝ているか、窓の外を眺めている。

遊んであげようとボールを弾いても興味を示さない。

短い命かもしれない。

外で遊びたいのだろう。

おもうようにさせてあげよう。

直射日光にあたるのもいいことだし。

というわけで外に出してあげた。

外に飛び出すと庭を思い切り走っている。

さいわい間口は25メートルある。

ブラッキーも一緒に出してあげた。

尾尻をキュキュとさせてリリはブラッキーを追いかける。

お互い、いい運動になる。

疲れるとブラッキーと濡れ縁で日向ぼっこ。

ツーショットを撮りたいとカメラを向けると、ブラッキーはすぐ逃げ出す。

なかなか二匹の写真が撮れない。

Ⅰ時間近く遊ぶと疲れるのか家に入ってくれる。

運動したので食事も食べてくれるし、こんな感じで見守ってみよう。


いつまでも元気でいてリリ

3月11日

3日間雨や曇りの日が続いている。

リリは元気がない。

リリはわたしの気配を身近に感じる場所で寝ている。

心配でわたしの気持も重苦しい。

そのためか雨の日が長く続いているように感じられる。

雨の合間。庭で出てみると沈丁花の香りがした。

いつの間にかすっかり開花していた。

一枝きって花瓶に挿した。

馥郁とした花の香りが部屋に満ちた。

ほっと一息ついた。


リリ 食べて食べて お願い

3月22日

3月11日からリリは食欲がなくなった。ジッと寝ている。

薬を飲ませた。いっこうに効き目がない。


30年ぐらい前飼っていた雄猫。ムック。息も耐え耐えでも、かえって来た。

夜遅かった。電話でやっと隣町の獣医さんと連絡がついた。

タクシーで駆けつけた。

横隔膜の破裂、肋骨が数本折れていた。

無事回復。

その後数回往診をしていただいた。

そのときの獣医さんを思い出した。

医者を変えてみようと思った。

0先生へ詳細をメールすると、一度連れてくるようにと連絡が入った。


翌日リリを連れて行った。

間違いなくO先生だった。

歳はとられたが無口な純朴な感じは30年前とかわらない。

覚えていらっしゃるのかどうか……。


血液検査の結果ピーカーに入った血液を見せてくれた。

赤血球が小豆粒ほどもない。ほんの少し底に沈殿していた。

わたしの胸はつぶれそうだった。

3.6キロあった体重は3キロになっていた。

首をかしげて考えていた先生は「インターフェロンを打って見ましょう」といった。

わずかだが元気になったような気がした。

3日目に「もう一回打ってみましょう」

「1週間後診察に来てください」ということで今週の金曜日に連れて行くことに。

先生はわたし達の見ている傍らでインターフェロンを打ち、診察してくれる。

リリもわたしたちも安心していられる。


リリはなかなかじぶんでは食べようとしない。

獣医さんでいただいた缶詰の流動食を注射器で口に流し込む。

嫌がるが少しでも食べさせなければと無理に口に押し込む。

自分で食べてくれる時もあるが、鼻の先に持っていくと顔をそむけてしまう。

色々品を変えて何とか食べてくれるものがないかと、手あたりしだい買って試している。

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