第3話リリちゃん、怖かったことは忘れようね

リリちゃん怖かったことは忘れようね

1月21日      

この三日間……

大変なことがあった。

「おかえり。リリ」というまでは……わたしは、毎日泣いてばかりいた。

リリはPTSDなのでしょうか。

3日間眠り続けたあと、ぼんやりしていた。

リリから離れようとすると不安そうな目で、わたしを追いかけてくる。

今朝からリリは紙を丸めたボールを追いかけて走るようになった。

リリがPTSDにかかるのは、事故で死と直面した彼女だからあたりまえ。

その事故をあやうく目撃するようなはめに陥ったわたしもPTSD

あのとき、ほんとうにリリが車にひかれていたら……と思うとぞっとする。

人間であるわたしは、このストレスを解消しようと、キャリーケースを買ってきた。

しばらく日をおいて再び避妊手術にいくときは、このケースで運ぼう。

そう思うと少し気が安らいだ。

でも、すぐ不安になる。

ボストンバック風のキャリーケースで大丈夫だろうか。

もっと頑丈なものでなければ……またリリが驚いて逃げたら……

あの悪夢の2日間が脳裏によみがえる。

リリの恐怖……絶え間なく響く自動車の騒音、空腹、凍てつく寒さ。

2日目の雪交じりの雨、風。

廃墟となった家の埃にむせ返るような所での2日間。

わが家からたった50メートル位の所に居て怖さで動けないでいたリリ。

何度も何度もこの辺とめぼしをつけて「リリ。リリ」と呼びかけていた。

わたしのリリを呼ぶ声が聞こえていたはず。

でもそこを動くことができなかったリリ。

リリが驚いて失踪したときは、ああすれば、こうすればよかった、時間が戻ってくれないか……などと思った。


リリとわたしのさらなる愛

1月28日    

3ヶ月も咳に悩まされ、やっとよくなった。

と、思いきや先々週、夜中に吐き気をもよおした。

新しくウイルス性の風邪をひいてしまった。

また、咳がでるようになってしまった。

寝ているわたしの傍らで、リリが1日添い寝をしてくれた。

わたしがぐったりしているのが解るのだろうか……

リリの失踪から、わたしとリリは、さらに愛をふかめた。

見つかった日は、「必ずみつけだす」という気持ちで夫と家をでた。

リリを発見したときは色々な良いことが幾重にも重なって、見つけることができた。人々の温かい気持ちに触れうれしかった。

 

雪の朝

1月30日

リリが枕元で騒いでいる。

朝はいつもリリに起こされる。

戸外はひっそりとして音一つしない。

カーテンから柔らかい明かりが透けて見える。

雪あかり……

カーテンを開けると、庭も木も白一色に染まっていた。

いつもと違った風景をみてすがすがしい気分になった。

寒い中、庭にでて何枚か雪景色を撮った。

「風邪をひいているのだから――」夫はそれ以上なにも言わなかった。

わたしにはまだ、雪景色を撮るために外に飛び出す情熱はある。


このところバラやそのたの花々にたいする想いが薄らいでいる。

歳のせいだろうか。

長いあいだ咳に悩まさて体力を消耗しているからかしら。

だんじてそのようなことはない。

花にたいする情熱が劣化したわけではない。

2月末には神代植物園にクリスマスローズの展覧会があるはずだ。

はやく風邪を治していきたいなと雪の庭で思いました。

リリは廊下から珍しそうに雪景色を眺めている。

        ↓

リリの不妊手術

2月5日   

今日はリリの不妊手術の日。

洗面所の水を飲むのが好きなリリ、水を少し張ってあげる。

喜んで舌でピシャピシャ音をたてて飲む。

キャットフードを探しているようだが、朝から絶食。

洗濯袋にリリを入れ、キャリーケースに。

あまりにおとなしく入ったので、かえって可哀想に思う。

また、怖いおもいをさせてしまう。

「ごめんね、リリ」

タクシーで病院へ。

病院についてもおとなしくしている。

怖くて固まっているの。

リリはどう思っているか知る由もない。

わたしは5日前に手術の予約を入れてから落ち着かない。

リリが前に恐ろしい目にあったことを思い出しはしないか……

無事に済むだろうか……

夫が「万が一のことがあっても…」

極端なことをいいだすので、さらにわたしは不安になる。

午後4時に病院から電話。

無事に済んでおとなしくしているとのこと。

良かった,よかった。

  

リリの様子

2月6日

5日5時ごろ雪まじりの冷たい雨の中、夫とリリの様子をみに病院に。

看護師さんに病室に通される。

ガラスばりのケージの中に、横たわるリリ。

頭にエリザベスカラーをつけて、足には点滴の針が。

毛を刷ったピンク色のお腹に、手術のあとを縫い合わせた黒い糸が痛々しい。

ガラス越しに「リリよくがんばったね」と声をかける。

むっくり起き上がってわたしの目の前に来て鳴いている。

何回となく口を開いているので鳴いていることがわかる。

鳴き声がかすかに聞こえたような気がする。

「明日むかえにくるね」

もっとそばにいてあげたいが、ゆっくり休ませてあげなければ……

病院を後にする。


カラーが邪魔よ はやくはずして!!

2月8日

リリは6日に退院。

キャリーケースに入れられて、待合室のわたし達のもとに。

わたしの顔を見て安堵したのか、声にならない声で鳴いた。

かぼそく、頼りない声をきいたような気がした。

家の玄関を入る。

わが家とわかったらしく、嬉しそうな様子が伝わってきた。

いつもいる暖かい2階に連れていく。

カラーをしている。

プラスチックのカラーが机やイスの脚にあたる。そのつど、カチカチと音がする。

慣れない足取りで、物にあたってはバックして確かめ、また歩き出す。

机を伝って、ジャンプ。大好きな本箱の上に陣取って一安心。

2日間ほとんどじっと休んでいた。

今日はだいぶ元気になった。部屋から部屋へと歩き出そうとしている。

でも、あちこちにぶつかって音がするので断念。

カラーが邪魔よ。はやくはずして!!


リリの検診日

2月12日     

リリの1週間後の検診日。

手術後は順調に回復とのこと。

1週間後は抜糸、エリザベスカラーをはずせる。

抗生物質の薬を1週間分もらう。


明日はリリの抜糸

2月18日

明日はいよいよリリの抜糸。

エリザベスカラーをはずすことができる。

2週間になるのでカラーをつけていることに慣れた様子だが。

あまり自由には行動できないでいた。

カラーがはずれたらまたどんな悪戯をすることか……

あまり悪戯が過ぎたらそのときは、カラーをつけちゃおうかなどと話しています。

とにかく無事不妊手術ができてよかった。


残念!! リリ抜糸延期

2月20日

残念!! リリ抜糸できませんでした。

元気がよすぎて傷あとがまだ少し腫れているとか?

また、1週間延びてしまいました。

カラーを取り外せると喜んで夫とリリを連れて病院に行ったのに。

医師から今日は無理と、告げられた時はがっかりしてしまいました。

リリが可哀想……

突き当たってはバックし。

カラーの上から夢中で頭を掻き、そんなリリを見ているのがつらい。

3週間もカラーをつけてストレスがたまらないだろうか……

抗生物質を4週間も朝、一服飲んでいるが大丈夫。

わたしでは胃が悪くなってしまう。


リリのおきゃん

3月6日

2月26日リリの抜糸も無事すんだ。

エリザベスカラーもとれ、毛が濡れるほど夢中になって毛繕いしている。

すっかり元気になってリリのやんちゃがエスカレートしている。

家中飛び回っているかと思うと、シーンと静かになる。

心配になってリリ、リリと呼んでも、かくれんぼの名人? なかなか見つからない。

心は終日リリに振り回されているわたし。

歳をとってからの子供(リリ)はこんなに可愛いものなのかしら。


おいたされるのもたのしみのうち

3月23日

リリが来て7か月になる。

リリのやんちゃぶりはますます活発になっている。

どうしたらいいのかしらと、苦慮する毎日だ。

でも、それが仔猫を飼っている楽しみなのかもしれない。

テッシュの箱に小さなボールを入れる。顔をつっこみ、咥えてくる。

どうかすると、箱から顔がぬけなくて、大騒ぎになることもある。

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