愛猫リリに捧げる哀歌

麻屋与志夫

第一話迷子の仔猫ちゃん「猫と亭主とわたし」木村美智子のブログ。

迷子の仔猫ちゃん 

2014-09

9月5日

それは今にして思えば、神の配慮。神さまからのお恵みだった。かわいい三毛猫が、わが家に迷い込んできた。

夫と買い物から帰る。門扉をくぐる。すると、庭木の茂みから猫の鳴き声がする。

微かな、すがるような、鳴き声だった。

「仔猫かしら」

わたしの声を聞きつけて、猫はさらに哀れぽい声で鳴いている。

低い植え込みから這い出てきた3か月位の仔猫が、わしを見上げて鳴いている。

両脚を少し開いて佇んでいるわたしの足元に、からだをすりつける。

仔猫はわたしの脚の間を8の字にまわりはじめた。

それから頭をわたしの脚にこすりつける。この「すりすり」にはわたしはヨワイ。

仄かにあたたかい仔猫の体温が伝わってくる。

「迷子になったのかしら」

「それにしては、骨がごつごつしているね」

「間違いなく飼い猫だわ」

「捨てられたのかしら」

「可哀想に」

猫大好きな夫が

「取りあえず餌をあげたら」

というのでブラッキーの餌をとりに家に駆けこむ。

何日も食べていないのか夢中で食べている。


さて、どうしたものか……

帰る場所のない仔猫のことを思うと涙が溢れそうになった。

夫に気づかれないようにそっと目がしらをおさえた。

その晩は心を鬼にして家に入れなかった。


次の朝バラに水やりをしていると夫の呼ぶ声が。

「仔猫が鳴いているよ」

夫の書斎の窓の下で昨日の仔猫がしきりに鳴いている。

餌を持って近寄る。すぐには寄ってこない。

猫は変にいさぎよいところがある。

昨日拒まれたと思ったのだろう。

毅然としている。それでも――。

餌を近づける。ひもじかったのだろ。

わたしの手から……やっと……食べ始めた。


その日の夜はひどい土砂降りだった。

可哀想なので、裏庭に面した廊下へ入れてあげた。

急きょトイレと寝床を用意した。

安堵したのか静かに眠りについたようだ。


翌日、お風呂場に連れて行ってシャンプーで身体を洗ってあげる。

気持ちよさそうにわたしに身体をゆだねている。

眼の周りについた目ヤニを拭いてあげる。

タオルであるていど拭き、ドライヤーで乾かしてあげる。

ドライヤーの音を怖がらなかった。

毛がフワッとして見違えるように可愛いお顔になった。

5日たったころ、安心したのかとても穏やかな顔になった。


ブラッキーを最後に猫は飼わないと夫と話し合っていた。

老夫婦がこれから猫を飼うことは最低15年元気でいなくてはならない。

もちろんこれから20年は頑張るつもりでいるが……

そんなわけで猫を飼ってくれる人を探したがなかなか見つからなかった。

はやいもので我が家に来て3週間になる。

リリを飼いたいひとがあらわれても、もうダメ。

手放すことはできない。

可愛い天使のようなリリのおかげで、わが家は笑いが絶えない。

体重も2キロまでに増えた。

名前はリリ、三毛猫の雌。

リリはわがもの顔で、部屋のあちこちを歩き回っている。

もとからわが家の猫だったような顔をしている。

このあたたかくて柔らかい、ふわふわした毛の生きもの。

そして小さな微かな鼓動。

魅惑的で不思議なこの生きている――仔猫。


ブラッキーとリリの距離

10月5日

仔猫が迷い込んで1ヶ月。

体重もⅠキロちかく増加した。

今、可愛いさかりである。

紙を丸めてその上からセロテープで巻いて直径2センチ位のボールを作ってあげた。

ボールを指で弾いてあげる。

するとすごい勢いで飛んで行って口にくわえてくる。

わたしが「いい子ね」と言って頭をなでてあげる。

「リリ、ちょうだい」と手を出すと紙を丸めたボールを口から落とす。

それを際限なく繰り返す。

「犬のようでしょう」


実はブラッキーがリリを嫌がる。

わが家に来て18年。

ひとり娘で気ままに育ったブラッキーにとって、リリの出現は当惑。

そのためお風呂場、洗面所、廊下の一画をリリの住まいにしている。

ブラッキーはそこにリリがいることを知っている様子。

夫がトイレに行くと必ず廊下のガラス戸のとこまで迎いに行く。

リリが来てからわたしが傍によると威嚇をするようになった。

リリの匂いがするのだろう。


ノラ猫だったブラッキーは裏庭で4匹の仔猫を産んだ。

仔猫は幸いに猫好きの家庭に飼われていった。

ブラッキーは我が家の猫になった。

幼少期のトラウマがあるのかしら……

今まで何匹もノラ猫を飼ったが、こんなケースはなかった。

ブラッキーは甘えることが余りない。

いつも冷静で知性的な猫だ。

爪とぎを買ってあげても一度も使ったことがない。

玩具にも興味を示さない。

リリのように家の中では高い所に上らない。

とにかく、今までの飼った猫とはちょっと違う。

リリにやきもちをやいているのだろうか。

ブラッキーとリリで丸くなって寝ている姿を早く見たいなぁ……


わが家にはその他多数の飼い猫が訪れる。

5キロはありそうな白に茶虎の雄のボス猫。白いソックスを履いた黒猫、

シルバーの縞猫、勝手口の網戸を開けて平然と入ってくる黒猫、三毛猫。

ブラッキーのテリトリーが侵略されそう。

ブラッキーはそうとうストレスがたまっているようだ。

最近頻繁に外に出たがる。

家の周りにマーキングしているようだ。


外は激しい雨。

Ⅰ時間近く外にでたがって鳴いていた。

わたしはとうとう音をあげた。

ブラッキーを抱えて外の雨をみせた。

いつもは諦めるのに、すごい勢いでわたしの腕から外へ飛び出した。

「可哀想になぁ」

「困ったわね」

この雨の中ブラッキーはどこをさまよっているのかしら……


秋のバラ

11月3日

わが家で咲くバラたち

仔猫が迷い込んできてから早や、2ヶ月になる。

毎日やんちゃな仔猫に振り回されている。

でもうれしい。

障子の桟をかけのぼる。

障子は破る。

くぐれるように障子に一コマ穴をあけてあげる。

リリはこうしていろいろ学んでいくのだろう。


バラの手入れも怠り気味。

そんな中、シャリファ・アスマ、ルイ14世、アプリコットが綺麗に咲いてくれた。

シャリファアスマのかぐわしい香りに一瞬恍惚となる。


そのごのリリ

11月9日

仔猫のリリが、迷いこんで2ヶ月が過ぎた。

体も大きくなり元気に飛び回っている。

猫好きな夫と毎日リリに幸せをもらっている。

リリが来てから、ゆったりした私的な時間が少なくなったが。

リリはおかしな癖がある。

物をかじる癖とクシャミを頻繁にする。

本などによると、猫を選ぶときクシャミをする猫は避けるようにと書いてある。

「それで捨てられたのかしら……」

「こんなに可愛い猫だからいいじゃないか」と夫。

リリはブラッキーの気配がすると母猫と思うのか飛んでいく。

遊んでもらいたいのだろう。

ブラッキーに嫌がれる。

おばあちゃんのブラッキーには、リリと遊ぶのが面倒らしい。

ブラッキーはどちらかというと男性的。

きつい顔つきで知性すら感じさせる。



癒しの天使

1月7日

ねこちゃんのお話

迷い猫、リリがわが家の一員になってから、早いもので5ヶ月が過ぎた。

もう、まさにわが家が彼女のグランド、あたり狭しと駆けめぐっている。

来た当時の写真を見て驚いた。

痩せ細った哀れな顔をしている。

あの時「汝の性を恨め……」と突き放していたら……

でもわたし達にはできなかった。

今ではすっかりこの家の娘になって、なんて幸せそうなお顔。

小さい娘が突然現れ、わたしの日常も変わった。

寝ているときを見計らってPCに向かう。

キッチンに向かい主婦としての仕事をするのに大わらわ。

でもその見返りにもらう、たくさんの笑いのなんと楽しいことか。

3ヶ月も咳に悩まされ、やっとよくなった。

とおもいきや先々週、夜中に吐き気をもよおした。

新しくウイルス性の風邪をひいてしまった。

また、咳がでるようになってしまった。

寝ているわたしの傍らで、リリが1日添い寝をしてくれた。

わたしがぐったりしているのが解るのだろうか……

わたしとリリはさらに愛をふかめた。

  

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