第28話 九条、買取依頼をする

ダンジョンに関することと俺のスキルの共有をした俺達は買取依頼の話に入ることにした。


「いよいよダンジョンのアイテムを見れるんですね。ふふ。今から楽しみで仕方ありません………!」


「あー、眞志喜さん分かってると思いますが落ち着いてくださいね?」


「これは失礼しました。どうにも好奇心が抑えられませんで……。気をつけます。」


さっきみたいにテンションダダ上がりはもうお腹いっぱいだから釘は刺しておく。

どこまで効果があるかは甚だ疑問ではあるが。


「ではダンジョンでのドロップ品ですが、今回は3種類しかありません。所詮まだ2階層までの攻略しかしていない状態ですので。」


「いえ、元々が手に入らない物ですから仕方がありません。九条さんの命が優先ですからね。それでそのアイテムはどこに?かなり小さい物なんでしょうか?」


「いや違います……あー、なんて言ったらいいか……眞志喜さんよくある小説とかの設定でアイテムボックスとかマジックボックスというのは聞いたことありますか?」


ある意味一般用語と化してるならこれで分かるはず。

但しこの一般用語はファンタジー脳を持っている人物に限るがな。

眞志喜さんはそれを持っていたようでアッサリと回答に行きつくことができた。


「ええもちろんです。空間に穴を開けてその中にアイテムを保管できるアイテムまたはスキルですよね?……九条さんまさかとは思いますがそれをお持ちなのですか……?お持ちならぜひ!ぜひ!見せて頂きたいですねぇ!」


ヤバイ。予想通り眞志喜さんのテンションがイエローラインを振り切ってレッドラインに入ろうとしている!先程の二の舞はごめんなので止めておかなければ!


「ストップ!ストップです眞志喜さん!落ち着かなければ答えませんよ!」


ピタリ、と先程のテンションが嘘のように眞志喜さんが静止して今は何事もなく紅茶を飲んでやがる。その上何事もなかったかのように俺に続きを促してきた。


「ほう。アイテムボックスですか。もちろん存じていますよ。それをお持ちなんですか?」


おい眞志喜さんさっきの話はなかったことにするつもりか。

そうなんだな。


「眞志喜さん……はぁ。もういいです。そうですスキルではないですがモンスターに囲まれる原因となった宝箱の中に収納の指輪というアイテムがあったので今はそれを身につけています。ドロップアイテムはそこに全て保管しています。今から出しますが……テンション上がらないでくださいよ?」


落ち着き払っているようだが、表情ヒクついている。

少しの刺激で結界するダムを見ているようだがそのまま頑張って維持して欲しいと思うのでスルーだ。

俺は収納の指輪を発動して空間に黒いひび割れを出現させ、影人間の100円玉を詰めたビニール袋、影戦士の魔石を30個と色違いの少し大きな魔石を1個テーブルの上に置いた。

眞志喜さんはプルプル震えている。ヤバイ決壊か?決壊するのか?、が今度はは何とか自制をしてもらえたようだ。一息ついて空いた空間を見ている。


「これが収納の指輪です。見ての通り空間にアイテムを保管することができます。そしてこれが今回の取得アイテムです。」


「……九条さん、その収納の指輪は売って頂けるんでしょうか?……これがあれば輸送関係で革命が起こせます。」


やっぱりそこに考え付くよな。俺もすぐに同じことに思い至ったくらいだしこれくらいは想定内だ。だから前もって用意しておいた回答を眞志喜さんに伝える。


「残念ですがこれは売れません。」


そう、答えはNOだ。

理由はいくつかあるが一番はダンジョン攻略には収納の指輪が不可欠だと判断したことが大きな理由だな。後は売ったら何が起こるか分からん。凄まじい争奪戦に巻き込まれるのは分かりきっているからな。金は欲しいが面倒はごめんだ。


「そうですか。いやそうですよね。こんなに貴重な物は早々売れないですよね。ですが九条さん次に手に入れた時は是非お願いします。」


「ええ。その時は考えてさせて頂きます。」


「はい。楽しみにさせて頂きますね。」


眞志喜さんもダメ元で言っただけなんだろうアッサリと引き下がってくれた。

ただ、あくまで考えさせてもらうだからどうするかはその時次第だけどな。

そしてテーブルに乗せられたアイテムを興味深そうに見ているが100円玉に関してはおや?と言った面持ちだ。まずはこいつから解説するとしよう。


「眞志喜さんも不思議に思っているようですので100円玉から説明します。この100円玉の山は最弱レベルのモンスターが落とすドロップ品なんですが…見て下さい。全て発行日が同じなんですよ。後、こっちが正規の100円玉ですが…比べてみると分かるんですが微妙にデザインが違うんです。」


そうなのだ。

この100円玉だが、実は全て今年の7月1日と彫られており、正規の物とも微妙に違うのだ。当初は喜んで影人間を狩っていたが、このことに気付いたのは1週間前と割と最近だ。どうせだからここらでお札にしておこうと銀行に向かう為に袋に詰めていたのだがその時気付いた。……あの時は盛大に凹んださ。使用はできてもこんなものをばらまけばどうなるか分かったものではない。だからダメ元で買い取ってもらおうというわけだ。眞志喜さんは100円玉を手に取って見比べているがどうだ。少しでもいいから売れればいいのだが、あれだけの苦労が水の泡とか勘弁して欲しい。


「……確かに微妙に絵柄は違いますね。材質はほぼ間違いないようですがこれでは使えませんね。」


「やっぱりそうですよね。これ売れませんか?」


「うーん…。偽金になるので難しいと思いますが……材質の検証も兼ねて1万円ではどうでしょう?」


…1万か…。残念だが持っていたところで仕方ないのでここは折れておこう。

本番が残っているからここはある意味既定路線でいい。

俺は頷いて1万円で了承した。

次が本番だ。ここからは本気で商談させてもらう。


「では100円玉については買い取って頂けるだけでも有り難いのでそれで構いません。次にこちらの石ですが、これは何だか分かりますか?」


「黒い石と赤い石ですか…。生憎、石についてはあまり知識がないもので…。九条さんこの石なんでしょうか?」


眞志喜さんならなんでも知ってそうだけどそりゃ得手不得手があって当たり前だよな。

それにこれは地球上には今まで存在しなかった物質だしな。俺は手元にあった黒い石--魔石を手に取って魔力を放出させる。魔力に反応した魔石が淡く光るのを確認して唖然としている眞志喜さんに声をかけた。


「この石は魔力が固まった石、俗に言う魔石というやつですね。こうやって魔力を込めると反応して光ります。」


「ませき……魔石ですか!言葉では何度も聞いて馴染みがあるものですがこうして実物を見ることができるとは…。もしやこちらの赤い石は……もしかして火属性の物ですか?」


「はい。お察しの通り火属性の魔石です。魔力を込めると熱を持ちます。」


「はは…素晴らしい…これは素晴らしいですねぇ…!私にもできるんでしょうか?」


魔石は魔力がなければただの石なのでスキル【魔力操作】を持たない眞志喜さんでは反応させることは難しいだろうことを伝えておく。少しガッカリした眞志喜さんだがそれを抜きにしてもこの道の物質に対し興味はつかないようでそわそわしている。収納の指輪の時もそうだったけどこの人本当に好奇心強いよな。決して悪いことではないんだがこの商談では俺が有利に立てる才良となるだろう。

--そしてこの買取金額について交渉が始まった。


まずは俺からこの商品の売り込みをしてみる。

眞志喜さんの予算が分からないが製品価値を高めておくのが常道だろう。


「この魔石は見ての通り、魔力を込めることにより効果を発揮します。魔石単体では無属性は光るだけ火属性は熱くなるだけと単純な機能ですが、他のドロップ品とを併せて魔導具とすることも可能ですし、エネルギー問題を解決できる可能性も含んでいると私は考えています。」


「…随分詳しいことが分かっているみたいですね。」


「石板に魔石の解説がありました。恐らくではありますが物質としても非常に貴重であると思われます。何せ未知の物質なんですからね。どうですか?今はまだこれだけですがダンジョン攻略が進めば量も確保できるでしょう。」


「私が魔石に魔力を込めることができないので効果を引き出せないのが残念でなりませんが、研究用の素材としても申し分ないです。九条さん、この魔石ですが懇意にしている企業に研究素材として提供したいのですがいいですか?もちろん出所である九条さんのことは極秘とさせて頂きますので。」


まぁ、一介の武器商である眞志喜さんでは買い取ってもできることは少ないだろうしこの程度の繋がりは考えていたので問題はない。問題は眞志喜さんが間に入ることで卸商としての役割も担うことになったということだ。それならば値段もかなり高めでいけるのではないのだろうか。俺は内心の高揚を表に出さないよう気をつけながら眞志喜さんの提案に了承する。…そしていよいよ値段交渉が始まる。


「もちろん眞志喜さんを信頼しているので大丈夫ですよ。それで値段なんですが…。」


「それはよかったです。買取金額ですか…。何分未知の物質ですからね。値付けに迷うところですね。九条さんとしてはいくらくらいを想定されているんですか?」


眞志喜さんが俺を試すように視線を転じてくる。俺は少し考えた素振りを見せて値段提示をする。


「そうですね……。これだけ貴重な未知の物質です。私としては魔石1つ30万円で買い取って頂けないかと考えています。」


1個30万。無属性の魔石の総数は32個なので火属性と併せて33個--合計990万円を希望価格として提示した。ボッタくりと言うなかれ。魔石は今のところ俺からしか出荷できない未知の物質だ。だから堂々と、気後れすることなく最大価格で提示する。眞志喜さんは予定していた金額はもっと少額だったのだろう意外そうな顔をしているがすぐに立て直して反論を開始する。この会話が友好的な物ではなく利益を追求する商談であると感じているだろう眞志喜さんの視線は鋭い。


「九条さんいくらなんでもそれは少し高額が過ぎるんじゃないでしょうか?いくら貴重な物であっても利用価値が判然としない状況を考えてもせいぜい1個5万円が妥当でしょう。」


ファンタジー好きの眞志喜さんとしても原価は落としたいのは当然のことで価値が分からないことを原因として大幅に減額を提案してくる。普通の人間は魔力など使えないのだからその話は理解できる、がそれとこれとは話は別だ。押せるときは押すべきだ。


「私はそうは思いません。確かに今の価値だけを見れば現実味のない金額設定だと思います。ですがダンジョンから魔素が漏れている現在、魔石は石油、電気に変わる資源となり得る可能性があります。しかし国内ではダンジョンを封鎖している為、魔石は手に入りません。しかしここに偶然、魔石が安定的に供給できる可能性があるわけです。この偶然をその懇意にしている企業さんが上手く活用できれば研究している企業がいない今、リーディングカンパニーとなれるのではないでしょうか?」


所謂市場の独占というわけだ。

研究することのない分野である魔石を研究して活用さえできればその恩恵は計り知れない。放っておいてもダンジョンは魔素が溜まればできるのだ。ならば今の内から利用価値を探るべきだろう。


「九条さんの仰ることもごもっともですが、さすがに暴利にすぎます。……例えばそうですね。この魔石自体の買取というのではなく毎月定数を納めて頂くというのはいかがでしょうか?それならば先方との商談にもよりますが50個で400万円程をお渡しできると思います。」


つまり1個あたり8万円か。値段が下がるが定期収入となるのは正直嬉しい。

3か月分回収すればそれで借金がなくなるではないか。だが、まだだ。ここで折り合いをつけてはいけない。釣り上げることはできると俺の勘が囁いている。


「定数買取して頂けるという提案は受けたいと思うのですが、買取金額は50個で800万円でお願いしたい。眞志喜さんなら理解をされていると思うんですがこの魔石は実際にモンスターを倒して手に入れる物ですから当然命かけです。それならば危険手当はつくべきではないでしょうか?」


「九条さんが仰ることはもっともです。ですが物には限度というものがあります。それだけの高額であると先方も首を縦には振らないでしょう。50個で500万円。これが限界です。」


《古今戦術武器商店》としての取り分もあるだろうからこれくらいが妥当なところだな。それにごねすぎて話がなくなってしまうのは避けたいからな。


「……分かりました。50個で500万円でお願いします。」


「…では交渉成立ですね。結果については分かり次第ご連絡しますね。ああ、それと武具に関してはご安心ください。ある意味消耗品でもありますからね。今後も提供はさせて頂きます。」


商談も終わったので空間に満ちていた緊張感が解かれホッとする。

まぁそれなりの妥協点は出せたのではないかと思う。後は眞志喜さんと販売先の企業との交渉になるだろうがそこは俺も祈るしかない。武具についても依然と変わらず提供してもらえるようだがこれについては断った。こうやって取引を行うのであれば借りを作り続けるのは商売上よろしくないからだ。


「ありがとうございます。ですが武具については提供ではなく今後は購入でお願いします。」


「おや?よろしいんですか?」


「眞志喜さんとは出来るだけ貸し借りなしの対等な関係でいたいですから。」


「分かりました。ですが私も個人的にも商売的にも九条さんには協力したいと考えています。ご要望があれば遠慮なく言ってください。」


「助かります。……では早速ダメになったメイスの代わりの武器なんですが……」


こうして《株式会社フリーダム》と《古今戦術武器商店》の初めての交渉はうまくいき俺達は笑顔で握手することができた。その後、武器の選定に入った眞志喜さんからの蘊蓄の連発についてはもはや語るまでもないだろう。



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