第26話 九条、裏情報を教えてもらう

「日本と世界のダンジョン状況について知りたいとは思いませんか?」


「ダンジョンの状況……ですか?」


眞志喜さんはニコリと笑いながらそんなことを提案する。

ああ、とても悪い顔をしているのが分かる。多分まともな話じゃないだろうな。

そんな俺の予想はある意味当たっていた。


「ええ、各地のダンジョンの状況です。国の対応と言葉を変えてもいいでしょうね。九条さんはどこまでご存知ですか?」


「確か、外国はあまり知りませんが日本ではダンジョンを第一級危険区域として全て立ち入り禁止にしているはずです。」


当初、日本でダンジョンが発生した当初はカメラが中に入ったこともあったが、政府はダンジョン自体を国民から切り離す為に全て立ち入り禁止にして入口をコンクリートで封じているようだ。今ではニュースすらやっていないのでそれ以上は分からないが。

もちろんうちのダンジョンは例外だ。バレてないから問題にもならないはずだ。

眞志喜さんはそんな一般的な回答を受けてうんうん頷いている。ある程度の及第点ではあったみたいだ。


「ニュースでやっている情報ではそんなところですね。では日本の対応についてまずは説明しましょうか。」


「政府はこれ以外に何かしているんですか?」


「はい。私は武器商ですので職業柄、表だけではなく裏の情報もある程度入ってきます。これから説明するのはその裏の情報です。あっ、私自身は全うな一般市民ですよ。むしろこういった情報は九条さんのことを信頼している証だとでも思って頂ければと思います。」


裏の情報か…。

随分とアンダーグラウンドなコネがあるみたいだな。

こうしてみるとニコニコしているお兄さんといった感じなんだがな。

眞志喜さんは色々とこちらに融通してくれるがなぜ協力してくれるかが今一つ腑に落ちなかったが向こうから歩み寄ってくれるならそれに越したことはない。俺もできれば信用したいとは思ってはいるがどうにも他人を信じ切るということに苦手意識がある。まぁ原因自体は分かっているから今更ではあるが。


「私もできれば眞志喜さんといい付き合いをできればとは考えています。教えて頂けますか?」


ここはそう言っておくべきだろうな。


「それは私も同じですよ。では日本の状況からですね。まずニュースでやっているダンジョンの封鎖ですが、これは概ね合っています。」


「概ね、ですか。ということは一部封鎖していない場所があると?」


「ええ、場所的に封鎖は困難。そして日本国にとってとても重要な場所である為放置もできない。九条さんどこだと思いますか?」


その言い方だと重要な施設ってことか。

ただ情報量が少なすぎて分からんな。


「それだけではなんとも。重要な施設であるのは分かりますが…例えば発電所や駅や空港などの公共施設、後は政治的に重要な場所とかですか?」


「実はその政治的に重要な場所に出来たダンジョンが問題でして。なんと永田町の地下にできてしまったものがあるんですよ。」


永田町の地下って、おいまさかあそこか?

眞志喜さんは俺の反応を見て回答を告げた。


「そう、国会議事堂の地下ですよ。」


「マジか?」


つい、口調が素に戻ってしまったが仕方ないだろう。

それだけビックリの事態だからな。

確実に外部に漏れたらまずいことはよく理解できる。

眞志喜さんは俺の口調に気にするでもなく続きを話してくれた。


「はい。議事堂の地下にダンジョンが発生しています。この国では戦闘行為は自衛のみに限りますので公には封鎖という手段を取らざるを得ない状況です。何せダンジョンに自衛隊を派遣しての戦闘行為です。必ず法律の問題が持ち上がります。そしてそれは何か月経っても解決しないでしょう。それだけ戦争の放棄という法律はこの国の根幹にあることと言えるのですが今回はそれが悪い方向に向かっていました。ダンジョンという危険が自分達の足元にあるということに政治家達は耐えられなかったのでしょう。各地のダンジョンについては先延ばし的に封鎖という対応を取り、自分達の足元のダンジョンは秘密裏に自衛隊に破壊させようとしました。」


「それが裏情報ということですか。」


「そういうことになりますね。ですが、ここから先が問題でダンジョン攻略中に自衛隊1小隊が全滅しました。」


全滅!?現代兵器で武装した集団がいくらダンジョンといえど全滅するなどあり得るのだろうか?


「まさか、自衛隊と言えど小銃などを持っての突入ですよね?」


「そのまさかです。89式5.56mm小銃だけではなく重機関銃である12.7mm重機関銃のM2を持ち出してていますが全滅しています。」


「自分のところでは少なくとも過剰戦力過ぎますよ。一体何があったんですか?」


影戦士がいくら集まってもそんなことには決してならない。

議事堂ダンジョンどうなっている?


「ダンジョンも5層までは順調に侵入できていたようですが、5層で何か強大な敵と相対したようです。最後に入った無線では巨大な恐竜のような生物がいると報告があったのが最後ですね。」


俺はまだ2層までしか攻略していないので分からないがこの先にはそういった存在がいる可能性があるということか。あるいは以前コアが話してくれたようにダンジョンでは知性体の情報を元にダンジョンを構築しているので永田町の地下という場所柄というべきなのかもしれんな。何せ伏魔殿と言われるくらいだし。


「つまりそこで大型モンスターの襲撃にあったということですか。うちのダンジョンでは今のところ人型の者しかいないのでそれがどういったものかは分からないですが、重機関銃を持った部隊が全滅しているのは相当ですね。」


「自衛隊では部隊全滅後、再度の突入作戦を計画していますが車両が持ち込めないのでこれ以上の戦力強化が難しく計画が難航しているようです。」


「なるほど。それが漏れたら大問題となりますね。少なくとも全滅の責任で何人か辞任騒ぎが起こるでしょうね。」


「ええ、ですから国としても秘密裏に処理をしたいというのが今のところの情報です。尚、このダンジョン攻略の情報を持って各地のダンジョンをどうするかも議論されているようです。識者を集めて発生原因の究明やダンジョンで発見された物の分析もしているようですが難航しているようで暫くは進展しないでしょう。ですから九条さんのお知り合いの敷地にあるダンジョンは今後も秘密にしておいたほうがいいと思います。」


あ、忘れてた。知り合いの敷地にあるって咄嗟に言ってたんだったな。

まぁこれくらいなら正直に言ってもいいか。

名刺渡していればその気になれば調べることもできるだろうし。

ただコアのことだけはまだ隠しておこうと思う。

情報を流してくれるだけ信用はできたがもう少し様子を見たほうがいいだろうしな。


「ああ、その眞志喜さん。実はダンジョンの場所なんですが知り合いの敷地というのは嘘です。本当は自分の自宅に発生しています。すいませんでした。」


「いえ、気にしないでください。いきなり全てを話すというのは無理があると私も思っています。でも少しは私のことも信用して頂けたということでしょうか?」


「そう言ってもらえて助かります。信用はしていますがまだ全てを話すというのは難しいのでそこはご理解頂きたいです。」


コアのこととかな。


「もちろんです。むしろ慎重なところが好感を持てますのでご安心ください。いつか完全に信用された時にどんなお話を聞かせて頂けるか楽しみにしています。話が逸れましたね。では次は各国の情報についても説明します。」


さすが眞志喜さんというべきか。

海外の情報も入っているなんてな。武器商人の情報網侮れんな。


「お願いします。」


「日本程情報はないんですが、アメリカでは既にいくつかのダンジョンを攻略しているようです。そしてそこで手に入れた資源を研究し始めているようですね。」


まぁアメリカならやりかねない。

フロンティアスピリットが大いに刺激されていることだろう。


「次に中国ですが、こちらは軍ではなく市民が金欲しさにダンジョンに入り込むケースが後を絶たないようです。都市部ではそういったことがないので表立ってはいないのですが地方ではダンジョンによる犠牲者が多数出ていると情報が入っています。後は韓国やヨーロッパなどどこも大して変わりがないですが、軍による探索が始まっているようです。封鎖しているのは日本くらいではないでしょうか?」


さすが事なかれ主義日本。

そして各国はどこも軍が入っている、と。

戦争するよりかはよほどいいもんな。ただしモンスターとの戦闘は発生するが。

眞志喜さんの話はこれで終わりだったが、やはり日本は少し平和ボケが過ぎるのではないかと思った。

いつまでも水と平和が無料だとは限らないだろうに。


「私の知っている情報はこの程度ですが、今後も何か分かれば逐一報告させて頂きますね。」


「お願いします。こちらも情報はあったほうがいいですから。」


コアの存在もあるからな。

ここでダンジョンを放り出すつもりもない。

もちろん買取のことについては言わずもがな、だが。



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