第21話 九条、影戦士団と激闘する

「「「「ギィィィィッ!」」」」


叫び声をの方向を見ると影戦士が4体出口を塞ぐように並んでいた。


「真打登場がやっと到着らしい。コア、話はここを切り抜けてからだ。いいな?」


『…はい、分かりました。マスター…お気をつけて。』


「まぁ何とかやってみるさ。こんなところで死ぬつもりはさらさらないからな。」


投げ捨てたメイスと山刀を腰に差して戦闘準備を整える。

敵は出口をガッチリと守っており逃がすつもりはないみたいだ。


影戦士はそれぞれ手に持った武器が個体毎に異なっており、大剣使い、槍使い、弓使い、盾を持った剣使いがいた。大剣使いと槍使いが前面に出て最後尾に弓使いそして弓使いを守るように盾使いが盾を構える。おいおい、随分と前衛とバランスがいいな。さしづめ影戦士団か。そして回りには影人間の群れ。こちらは実質俺一人。コアにはスキル【浮遊】で天井ギリギリまで退避させている。状況は最悪だ。

…はは。中々にムリゲーだな。


「だが、やるしかないんだが、な!」


俺は手元のピンを抜いて影戦士団に向けて小さな物体を投げつける。

足元で何回かバウンドしたそれは影戦士団の足元でコロコロと転がっている。

影戦士団がそれに注意を向けた瞬間--


ボンッッッッッ!!!


「「「ギィィィィィィッ!?」」」


辺りを強烈な音が支配する。俺が投げたのは市販用のスタングレネードだ。

軍用ではない為、光が出ないのでどちらかというと音響弾と言ったほうがいいかもしれない。

だが音だけとはいえ、実物のスタングレネードと遜色のない威力を発揮する。

影戦士団は突然の爆音に耳をやられたのか後衛の弓使いと盾使いがうずくまっている。前衛の大剣使いと槍使いは…ちっ。無事か。まぁ元々耳があるのかないのか分からないやつだから効くだけ御の字と言ったところか。俺は自分の耳を保護する為に着けていた耳栓を取り、続いてスリングショットに手をかける。馬鹿正直に突っ込んでも多勢に無勢。ここは遠距離攻撃といこうか。


先程、コアを救出する際に使ったスリングショット再度出し、構えて撃つ。


「ギィッ!?」


こいつの射程距離は約50mだが、風の影響を考えると有効射程は約30m。

大して練習してないので実際に正確に当てられるのは20mがせいぜいといったところか。

だが、構わずに撃つ。撃つ。撃つ。

牽制の意味を込めて撃ちまくる。敵は影戦士団だけではない。

ジリジリと囲みを縮めてきている影人間どももいるのだ。これだけ密集していればどこかしらに当たる。近接戦に移行する前に減らせるだけ減らす。


「ギィィィッ」


『マスター後ろです!影人間1体近づいてます!』


影人間は俺を中心に四方にいる為死角がどうしてもできる。

後ろから影人間が俺に向かって走り出してきたことには気づけないが頭上にはコアがいる。

コアが警戒をしていてくれるので死角を潰すことができる。

俺はコアの警告に振り向いてスリングショットを撃つことで答える。

鉛玉はゴムの張力を利用し致命の一撃として影人間の胸元に死を届け赤い粒子に変えた。


「すまん。コア助かった。」


『はい!周囲の警戒はお任せください!』


コアはスキル【浮遊】の特性を活かし天井付近まで上昇をしている。

このスキルは移動スピードこそ遅いが上昇する分には制限がないので高度から警戒する分にはちょうどいい。事実これまでもコアの警戒で気付いたことは多くコアが考えているよりはるかに俺はコアを頼りにしている。


影戦士団の後衛組はまだ立ち上がれないようだ。

奴らを倒せれば脅威はなくなる。俺はスリングショットで後衛の弓使いに狙いをつける。

今俺がそうしているように遠距離攻撃とは思ったよりもずっと厄介だ。できれば先に排除しておきたい。

狙いを定めて鉛玉を放つも大剣使いが間に入り鉛玉をその大剣の腹で弾く。


「ちっ。やはり無駄か。厄介だな。」


先程からも影戦士団にも何度か狙いをつけているが悉く大剣使いと槍使いが盾になり鉛玉を弾くので傷をつけられない。そうこうしているうちに弓使いと盾使いが立ち上がった。まだ頭を振っているようだが、足腰はしっかりしている。どうやら戦線復帰されたみたいだ。

影戦士団が立ち直ったのであればスリングショットでは決定打にかけるのは鉛玉を弾かれたことからも自明の理だ。ならば残るは近接戦のみ。

俺はメイスと山刀を再び抜き、目の前の影戦士団に向けて構える。


「ふぅ。…………いくぞ!」


深呼吸一つして覚悟を決める。

俺は影戦士団に向けて走り出す。


「ギッ!」


すかさず後衛の弓使いの弓から放たれた矢がこちらに一直線に向かってくるがレベル5になり強化された動体視力でなんとか避けるが腕にかすってしまう。やはり真正面からなら弾道も予測しやすいし避けられるがギリギリだな。何度も出来る芸当ではないだろう。だからこそ安全地帯は弓が使えない近距離戦に終始するしかない。幸い防刃シリーズはある程度は斬撃も防いでくれる。今はそれをあてにするしかない。


俺が走り寄ってくると前衛の大剣使いと槍使いが立ちふさがる。

相変わらず盾使いは弓使いの護衛となるようだ。


手に持ったメイスを槍使いに振り下す。槍使いはその一撃を嫌いバックステップしてかわす。槍は懐に入ると思うように振るえないから距離を取ったんだろう。そして俺の振り下ろしに合わせて大剣使いの巨大な刃が降りかかるのを山刀を持った手で裏拳をして軌道をずらす。


「ギィッ!」


そして今度は距離を取った槍使いが槍を突いてくる。っ!狙いは胴体か!俺はその場でしゃがみこみ槍を避けると立ち上がる勢いを利用して槍使いに肉薄する。槍使いは槍を突き出したまま動くことができない。


「まずは1体……っ!?おい、護衛はどうしたんだ?職務放棄するなよ。」


「ギィィィィッ!」


山刀で首を斬りつけようとした瞬間、刃と槍使いの間に滑り込んだ盾によって山刀は金属と金属をぶつけた甲高い音を発するだけに留まってしまう。俺の罵倒に対して喋ったのかギィギィと自慢げに鳴いているがいい気になるなよ。まだ片手が残ってる。残った片手のメイスで力任せに盾を叩きつける。盾使いの盾と俺のメイスが激しく衝突し火花を上げる。衝撃の勢いに負けて盾使いは盾を持ったまま後ろ手に倒れてしまう。槍使いへの障害が消滅した。


「死ね。」


「ギィィィアアアッ!」


槍使いの胸元に山刀で袈裟斬りに撫で斬る。槍使いは断末魔の叫びを上げた後、赤い魔力の粒子になり消滅した。


「……ふぅ。これで少しは楽になる……な!?」


『マ、マスター危ない!』


コアの叫び声が聞こえたが反応できなかった。

油断したつもりはなかったが、槍使いを倒して緊張の糸が緩んでしまったのだろう。俺の右腕に黒い矢が深々と刺さっている。やられた。弓使いが距離が近いから撃ってこないと高をくくっていた。その代償がこれだ。矢は近距離で合った為威力が高かったのだろう防刃コートを貫いていた。そして俺の右手の自由を奪い俺はメイスを握ることも出来ず落としてしまった。矢が刺さった個所は痛いということはなくただ熱かった。


「ギィィッ!」


「ちっ!」


俺の致命的な隙を逃すことなく態勢を直した大剣使いと盾使いが同時に武器を振るう。右手は矢が刺さっており使えない。残る山刀で防ぐことが出来るのはどちらか一方だ。俺は迷わず大剣を防ぐ為に大剣と山刀を合わせる。大剣と山刀では刃としての強度が違うのだろう。攻撃は防いだものの山刀は半ばから折れてしまう。


「ぐぅッ!」


そして大剣を防いだ後の無防備な俺の胸部を盾使いの剣が斬りつけ衝撃で倒れ込んでしまう。

防刃コートが斬撃を防いでくれたものの一直線に赤い筋が付いている。何より斬られた衝撃は俺の体に大きく痛みを与えてくる。動こうにも力が入らない。今ものたうち回りたい気持ちを必死に抑えているくらいだ。


「…ゴホッ!やばいな…。手詰まりだ。」


メイスは弓使いの一撃で落としてしまった。

そして山刀は大剣の一撃で折れてしまった。そして体は満身創痍。

マジでここから打開できそうにない。

くそっ!諦めてたまるか。こんなところで死ぬ為に移動販売で頑張ってきたんじゃない。

店を潰した後も移動販売を立ち上げて必死になってここまできたんだ。終わってたまるか。


だがなんとか俺が立ち上がろうとしたところで盾使いの剣が無常にも振り下ろされる。

俺が無理矢理、剣を防刃グローブで防ごうとした時だった。


『光よ!闇を打ち払え!光線レイ!』


盾使いの剣は俺に当たることがなく逆に光線が空中から一直線に盾使いを貫いた。

誰が…と思ったところでその声の主が現れた。いや、降りてきた。


『マ、マスターは私が殺させません!』


そう、コアがスキル【浮遊】で俺の目の前に降りてきていた。

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