第14話 九条、営業妨害される

今回のスーパーでのかき氷販売は結果からいって大成功となった。

連日の猛暑による影響でかき氷を求める客が多く、スーパーの担当者からも毎日出てくれないかと嬉しい打診があった。だが、他の場所でも営業する約束があるので毎日はできないので残念ながらお断りとなってしまったのが悔やまれる。なぜならキッチンカーは一台。そして俺と忍だけの人員なので突然の要請には答えられないのだ。ただしスーパーの担当者には出られる時はできるだけ協力することを約束し繋ぎは得ることができたからよしとしようと思う。家族連れのお客様にも約束したしな。


そして別の場所でだが今日もかき氷を販売しているが今日は俺一人だ。

忍は残念ながら平日なので学校だ。今は期末テスト期間中みたいで大変だと言っていたな。

コアはもちろん留守番中。スキルの練習をすると言っていた。最近はなんだか自分が役立たずだと持ち前のネガティブシンキングに拍車がかかっていたのが少し心配ではある。大事なダンジョン攻略の相棒なので頼りにしているとは言ってはいるんだがこればかりは本人の気持ちの問題なんだろう。

ということで本日は俺一人で営業をしていたというわけだ。

その代りと言ってはなんだがやかましいのがいてくれた。

いや、本当にいらないんだがな。


噂をすればうるさいのがやってきたようだ。ちっ邪魔だな。


「おい、九条。景気が悪りいみてぇだな。」


「隣に暑苦しいのがいるんでな。お客様が皆逃げるんだよ。」


「ふん!負け惜しみはみっともないぜ!」


ガハハハハッと馬鹿みたいに笑っているのは先日忍に完膚なきまでに撃退された日比谷会の轟だ。今回は面倒なことにこいつとバッティングしてしまっていて、朝から事あるごとに絡んでくるから正直うっとうしくてしょうがない。こんな時忍がいればあっさりと泣かすことができるんだが、生憎忍は学校で不在である。そうなるとこの暑苦しいムサ男は無駄に元気になってより暑苦しい。忍ではないが死ねばいいと思う。


「いつも思うがお前そのキッチンカーはないだろ?回りの迷惑を考えろ。」


「分かってねぇなぁ。キッチンカーは男の浪漫だぜ。ならデカくて派手なほうがいいに決まってんじゃねぇか!こいつみてぇにな!」


いや、無駄にデカすぎだろう。

俺のキッチンカーがワゴンタイプの比較的小さなタイプであるのにこいつはなぜか2tトラックを改造した大型タイプで大人と子供くらいの差がある。しかもやたらと電飾を点けて、目に眩しい。デコトラじゃなんだぞ。だが、そのタイプの大きさでも商材や場所によってはありなんだが、轟の扱っているのは焼きそばだからそんな大きさはいらないし、ここはホームセンターの一角だから場違いも甚だしい。


「だからと言ってデカすぎだ。2tトラックなんて持ってるならイベント会場でも出店場所取ってこい。見ろ。お前の無駄にデカいキッチンカーで威圧されてこっちまでお客様が寄ってこないだろ。」


「それこそ負け惜しみってもんだ。見てみろ俺のキッチンカーを客がどんどん来てるぜ?」


確かに轟のキッチンカーを見ると客は入っているようでバイトのスタッフが焼きそばを手渡しているのが見える。が、客層がやたら暑苦しそうな奴らばっかりなのは俺の気のせいなんだろうか?あの一角だけむわんとした男臭が漂っていそうだ。うん。近づきたくないな。


「俺のお客様はもっと普通の人でいいからな。あんな男臭い連中ばかりはごめんだ。」


「ふん!そうは言ってもその普通の客もいねぇじゃねぇか。俺の勝ちだな。」


「はっ。俺だけの時に勝ち負けを言われてもな。現に忍がいる時はいつも売上はこっちのほうがいいだろう?」


「うっ!忍ちゃんが可愛いからだろ!こっちだって同じ条件なら負けやしねぇ!今がいい証拠だろ!」


こいつは忍のことが好きなくせに苦手だったりするんだよな。

ムサイ男のあがり症なんて誰得だよ。

俺のからかいにムキになってきたので少しからかってみることにした。

まぁ、お客様も来ないので暇つぶしだ。


「同じ条件、ねぇ。お前のところは常にバイトが入っているんだし、忍がいる時は同じ条件ということだよな。それにこの前、お好み焼きで被った時お前のところに客が全然入らなかったこともあったよな。あれって同じ条件じゃないのか?」


「お、お好み焼きの時は調子が悪かっただけだ!焼きそばなら俺が勝ってた!」


「ふぅん。焼きそばなら、ねぇ。」


まぁ、こいつの焼きそばは確かに美味いからな。

自信があるのは分かる。


「そ、そうだ焼きそばなら負けねぇんだ!おい九条!焼きそばで勝負だ!」


「ほう。」


「俺とお前で焼きそばを作ってどっちが売れたか勝負だ!」


面倒な流れになってきたな。


「なるほど。俺とお前で勝負、と。」


「そうだ!俺が焼きそばを作ればお前なんかには負けねぇんだ!勝負だ!九条!」


「いや、面倒。」


マジでそんなのやってられるか。


「なんだと!」


「大体お前、場所はどうするんだ?同じ商材を扱うなんてできるわけないだろ?」


移動販売は商材がブッキングすると先方から断られてしまうから被らないように気を付けるのが暗黙のルールだ。


「ば、場所は俺達の仕切っている祭り会場がある!そこなら同じ商材を扱っても問題ないはずだ!」


まぁそれなら理屈はあってるけどな。


「なるほど。却下だ。」


轟は意外そうな顔してるが理由は明白だと思わないか?


「意外か?」


「当たり前だ!場所を用意するって言ってるんだから勝負できるだろ!」


「理由はある。まず第1に祭り会場でやるのは日比谷会が仕切っているんだろ?俺が出店できるはずもない。第2に俺は焼きそばを商材として扱っていない。そして第3に勝ってもメリットがない。以上だ。」


実際、祭りは売上が相当に大きく見込め参加できるなら参加したい。が、

祭り会場への参加は寺社関係の既得権益が強いので新参はほぼ入れない。

こいつが言ったところでまぁ無駄になるだろうな。


「だったら俺が会長に頼んでやる!それなら大丈夫だろ!それに焼きそばなんだから作るのは難しくねぇはずだ!」


おい、お前の自慢の商材を自分で貶めてるぞ。


「参加できるなら考えてやろう。ただし、参加できたなら勝ち負けのルールはつけるぞ。」


「もちろんだ!なら決まりだな!」


「あくまで参加できるなら、だぞ。他の場所でやっても焼きそばばかりのキッチンカーなんて誰も寄り付かん。」


「おう!絶対会長にOKもらってきてやるぜ!」


轟をからかうつもりだけだったのに変な方向に話が進んだな。

まぁそれを差しぬいても祭りに参加できるなら1日で半年分以上の売上を出すことも夢ではない。

もし参加できた時はガッツリ稼ぎつつもこいつにどんな負けルールを与えてやろうか。

忍さえいれば十分勝算はある。

ま、期待せずに待っておこうか。

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