第16話 僕は我が村の魔女っ娘女神様になりたくないのです

「あっさりと終わったね」

 芽衣子が何かを見上げている。

「そうだね」

 僕はそれをあえてみようとは思わない。


「これは女神様としては祭る必要はあると思う」

 アンリさんがわざとらしく頷いている。

 

「そうですね」

「ということでちょっと準備していたものがあって」

 うん、酔っ払いエルフが言う事は大体がろくでもないことはわかっている。

 むしろコイツは役立たずで酒を飲んでいるか、いらないことをしているか。

 どちらかしかない事はこの数日で理解してしまった。


「うん、お義兄ちゃんの言いたいことはよくわかるし、口に出ている事がとても抜けていて笑いが収まらないことも理解しようね」

「えっ、僕口に出ているかな。ルディアが役に立たないか碌なことをしないとか」

「口に出ていることは嘘だけど、考えていることは予想通り」


「酷いですッ! 私これでもエルフのエリートなんですよ! エ・リィ・トォ!」


 涙目で必死に抗議をしてくる残念エルフはちょっとかわいいと思ったかもしれないが、ポンコツエルフに言われてもまあ、どうにもならないというのが僕の感想である。

 それよりも、だ。

 僕は目の前を見上げ、そこから居たたまれない気持ちになって、さめざめと泣きたくなる。

 恥ずかしいのだろう。

 うん、それが一番だろう。


「まあまあ、ドラゴンスレイヤー様を称える為にはこれくらいやらないと駄目なんだよ。女神様」

「僕は男です。ドラゴン殿」

「アンリさ。ここではルディアに呼ばれたしがない食客。居候。一応酒くらいは持っているのでそれが家賃かもしれないが、な。女神様」

「そうね。女神様、いいよねププッ」

 芽衣子が笑いを抑えきれず、目の前にあるもの、僕の魔女っ娘姿をかたどった石像を見上げる。


「女神様、ああっ、女神様」

 何というか、色々と危ない感じのする言葉をアンリさんが半分笑いをこらえながら告げる。

 僕の顔はゆでだこのようになっているのは頬が熱を持っていることでよくわかった。


 幻影とはいえ、赤い竜を討った魔女っ娘の僕は女神として、村の英雄に祭り上げられた。

 実際のところは竜の力としては本体の竜の力の数分の一の張りぼてだったのだが、アンリさんは相当強いらしくあの竜の強さは村ひとつ分は焼き払ってしまう強さだったそうだ。

 だからこそ、僕が村のど真ん中に石像として称えられるのは当然らしい。


「とはいえ、準備が良くありませんか。これ。出来上がったのは3日ほど。それで出来上がるとかそんなのおかしくないですか」

「そうかなあ。それくらい村の芸術家の技術が良かったといってくれればいいのだよ。女神様」

 キメ顔で役立たずエルフが答える。怪しい。


「誤魔化す必要はないのでは。師匠」

 現れたのはコンラート王子とお付のラブ騎士ソニアさん。

「出たな。男アレルギーの王子様。しかし、今回は役立たずの王子様。私に負けたのだよ。フフッ、アハハハ!」

「いや、ルディアはただ檻の中でパニクッて、後は何もしなかった。一応僕を喚んだのはあるけど、それくらいしか」


「ウッ、めまいがする。酒が切れてきたようだ」

 最悪だ。このエルフ。


「ハハ。苛めるのはやめたほうがいいよ。本当は男の女神様」

「どうして、それを」

 僕はゆっくりと後ろに下がった。

「色々とね。僕は魔術師だ。数少ない男の魔術師。それくらいはやっていけないと」

 コンラート王子は杖をこつこつと叩いた。魔術師としてのアピールだろうか。

「要は格好がつかないわけだ」

「ドラゴン殿、私だってプライドがあるんだ。流石にあの赤竜のときのように間抜けなままというわけにはいかない」

「まあいい。今回の事だって、ある意味で出来レースだということも理解しているんだろう」

 したり顔でアンリさんがその言葉を伝えると、コンラート王子は杖を下げて頷く。


「ええっと、それはどういうこと?」


「女神様が必要なのだよ。ここにはね」

「私がグータラするには理由が必要だからね。私はエルフでありながら、魔術師を育てた大魔術師だからね。それを駐留させるほどの価値がココに欲しかった」

「ま、それもひとつ。あとはココが国境の村でありながら。栄えていないこと。流石に大切な場所という事をアピールしたかった」


「いやいや、話を聞いたら町おこしみたいなものみたい。この話」


「ハハ、芽衣子に言わせたらそういうことになるか。確かにこの村はさっきの山というか、山脈を越えたらすぐに隣のアドリア帝国に隣接する国境の村。しかし、山脈越えは厳しく天然の要害と化している。だからこそ、戦略的な価値はない。だから村も本当にのんびりとしている」

「流石にそれではいけないという事で私がやってきて、見張りのようなことをしていたわけだけれども、本当にのほほんとしていて、私がいなくても大丈夫かなと思ったのだけれども、それじゃあ面白くないし、いつか何かがあったら危ないなと思って、人を増やそうと思った。その為の女神様」

 僕をルディアは見つめ、女神像(のようなものにしたいの僕の心情)を見上げる。


「で、私もそれに少しかんでいて、ここに来るのもある程度調整をしてやってきたというわけだ」


「てことで、女神様で町おこし。しかも悪役をね、呼ぼうと思って私がやってきたんだけどさ、まずは竜とかドバーッとやっちゃおうと言ったらうまくいっちゃったわけ。私、プロデュースとしては最高よね」


「最高って、これとんでもない出来レースじゃないのか」

「うん。でも、楽しかったでしょ。主に私とか、お義兄ちゃんとか」

「ちなみに、王様にばれると」


 にやりと芽衣子が笑みを浮かべる。

 まさにそれは邪悪な大魔王の微笑み。


「死罪かもね」


「アホーかアアアアアアアアアアアアアアアア! そんな町おこしとか、怖くて出来るかアアアアアアアアアアアアア!」


「でもさ、女神様かっこよかったよ。だから、もう少しだけ楽しみましょ。魔女っ娘女神様」

 手を差し出す芽衣子。

 僕はその手に触れようとして。


 その手を振り払う。


「イヤだ。僕はなりたくないッ」


「そういわずに楽しもう。だって、我が村の女神様はあなたなのだから」

「ま、町おこしとか楽しいじゃん。だから、ちょっとだけ、協力ね」

「イヤナノジャアアアアアアアアアア」


「ちなみに協力しないと私の魔法で一生女の子に」


 うん、何これ詰んでないかな。


「さあ、頑張りましょう。女神様」

 芽衣子の笑顔が最高でどうしようもなく、可愛かったのにどうして、こうなった。

 かわいい大魔王様に囚われる女神様になってしまったのでしょうか。

 さめざめと僕は泣きながら女神様になったのでした。


 ああ、空が青い。

 ついでに目が曇る。

 僕の涙かな。

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