第17話 塵塚怪王現る

 俺と霧雲は車に乗って、五味山のアジトの廃スクラップ工場に向かっていた。


「霧雲って車の運転ができるんだな。なんか意外」

「いつもなら煙のように飛んでいきんすけど、泰寅様がいんすし。それにわっちは仕事柄、変装して運転することもありんすからね」

「霧雲って殺し屋なの?」

「まぁ『暗殺のかおる太夫だゆう』なんて呼ばれていんすね」


 霧雲が俺に一目惚れしてなければ、一発で殺されてたな。実際に霧雲は今も、俺の知らない誰かに変装している。本当は霧雲がなりすましたが、五味山が逃走したことで警察が検問しているものの余裕でスルーしている。


「五味山の能力って中古家電を付喪神に変えることなのか?」

「それは捨てられた道具を付喪神に変える技『機死怪生きしかいせい』でありんす。でもそれは彼のゴミを操る能力『塵芥戦術じんかいせんじゅつ』の一部でしかありんせん」

「ゴミを操る能力っていうと、あまり強くなさそうだけどな」

「気を抜いてはいけんせん。今向かってるのはゴミが至る所にある、五味山の独壇場でありんすから」





 そして俺たちは少し離れた所に車を停めて、ついに廃スクラップ工場に着いた。廃スクラップ工場は明るく、外にはたくさんの付喪神が巡回している。

「誰もいないはずの廃スクラップ工場なのに、目立ち過ぎでありんす」

「もしかして、罠か?」

「十分に有り得んす。泰寅様、どのようにいたしんしょう」

「時間はあまりねぇ、 特攻あるのみだ。如月を見つけて脱出だき」

「わかりんした。目をつぶって、なるべく息を止めておくんなまし」


 俺は言われるがままに目を閉じて右手で口を押さえる。すると、霧雲がいきなり俺の手を掴んだ。

「『愛煙飢煙あいえんきえん』‼ 」


 霧雲から煙が噴き出し、あたり一面が真っ白になった。霧雲が俺の手を引っ張っていく。引っ張られていく方向に、俺は走ってついて行く。おそらく目くらましの隙に敷地内に侵入しようということらしい。


「もう目を開けてもいいでありんすよ」

 霧雲の囁くような声がして目を開けると、そこは工場の中だった。外とは違い、中は薄暗く車の部品やら、金属パーツ大小様々なゴミが散乱している。





 俺たちは、如月を探すために中を探索した。音を立てたくなくても、床に散らばったゴミを踏むせいで足音が聞こえてしまう。


「おやおや? 仲良く廃墟で肝試しデートかぁ?」

 下卑た声が工場内を反響する。声の主を探すと、目の前に二つの人影があった。


「よぉ鬼の彼氏、久しぶりだな?その顔を見るとぶん殴りたくなるぜ」

「しかもキレイな花魁のネェちゃん連れてよぉ。蹴り飛ばしたくなるぜ」

 窓から雲に隠れていた月の光が差してきた。そこには見覚えのある不良兄弟がニヤニヤと笑っていた。


「お前らなんでこんな所にいるんだ、中井兄弟‼」

「「長井兄弟だ‼」」

 手長足長の長井兄弟がいた。長井兄弟は山を立ったまま滑り降り、俺たちの方へ拳を鳴らしながら近づいて来た。


「数日前やっとムショから出て来たら、五味山さんが拾ってくれたんだ」

「それで俺たちにお前に仕返しの機会を与えてくれたってわけだ」

「ムショに送ってくれたお礼、何倍にも返してやんよ」

「泰寅様の邪魔をするな『愛煙飢煙あいえんきえん』」


 結論から言うと、霧雲の圧勝だった。煙で目くらましをして、死角から首を絞めて、落としていった。さすが殺し屋、仕事が早い。


「おいおい、霧雲も来てるなんて予想外だぜ」

また別の声が聞こえた。これは聞き覚えの無い声だ。

「五味山…」

霧雲が呟いた。


「さすがに月明かりだけじゃ見えづらいな。ライトアップだ‼」

その掛け声とともに、工場の電灯がつき、視界がはっきりしてきた。


スクラップの上にボロボロのソファがあり、そこに一人の青年が足を組んで座っていたことだ。

「よぉ、待ちくたびれたぜ鬼門」














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