第15話 一難去ってまた一難?

 それから俺たちは普通の大学生活を送った。拍子抜けするぐらい何も起きなかった。そして花火大会の前日、晴瑠から驚くべきニュースを聞かされた。


「昨日、ついに百鬼夜行のアジトに突入してリーダーを捕まえました‼」

「ほんとに⁉」

「はい‼ しかもリーダーが塵塚怪王だったんです‼」


 日本は妖怪と共存して数十年経ったが、未だそれを快く思ってない者も多い。塵塚怪王、五味山ごみやま かいもその一人だ。五味山は自分の能力で中古家電の付喪神軍団『百鬼夜行』もとい『百器夜行ひゃっきやぎょう』を作り、日本を妖怪が人間を支配する国にするつもりだったらしい。


 そんな中でくだんの予言を、五味山は知ってしまった。彼はその予言を『鬼門の人と魔除けの鬼に自分の野望を潰される』と解釈したという。だから五味山は俺や如月を探し出し、始末しようとした。


「霧雲や玄上法師は、五味山が雇った殺し屋だそうです。でも自分の作った付喪神の大群まで仕向けたのが、あだとなりましたね」


 霧雲はまだ捕まっていないらしい。彼女は俺に気付かれないようにストーカーするぐらいだしいいだろう。いや、よくないけど。

 こうして事件はあっけなく幕を閉じたのだった。





 花火大会当日。如月と小毬は浴衣を着てから来るので、俺と小毬は一足先に現地で待ち合わせている。ちなみに小毬は黒地に花柄の甚平姿だ。胸元がはだけてきて色っぽいが、俺は家族同然なのでなんとも思わない。


 小毬がニヤニヤしながら、まだこっちを見ていた。

「花火も、屋台もいいけど、花火大会といえばやっぱり恋だよね」

「俺たちに限って無いだろ」

「いや、この花火大会で何かが起こるね。ウチの野生の勘がそう言っている」

「それを言うなら女の勘だろ。それにお前、生まれてからずっと家猫だろ」


 少ししてから、如月と晴瑠と合流した。如月の浴衣は紺地に大小の花火があしらわれている。晴瑠は白地に金魚柄の浴衣。長い髪をお団子状にまとめている。

「お待たせしましたー。すみません、着付けに手間取っちゃって」

「晴瑠着付けができるのか。凄いな」

「はい、安倍家の次期当主たるもの着物から甲冑までなんでもござれです」

「甲冑を着る機会はないだろ、多分」


 如月が俺の前でくるりと回る。浴衣を褒めろということか。

「似合ってる似合ってる」

「気持ちがこもってない‼ もっとロマンチックに、『花火より綺麗だよ』的な」

「へび花火より綺麗だよ」

「それ煙出しながらうねうね伸びるヤツじゃん!?」


「じゃ皆揃ったところで、九時にまたここに集合ね。解散‼」

 小毬の掛け声とともに、晴瑠と小毬、金野はスタスタと歩いて行った。その統制された動きは軍隊そのものだった。要は嵌められたのだ。


 取り残された俺と如月は、仕方ないから二人で色々な屋台を巡った。一瞬はぐれそうになったので、仕方ないから手を繋いだ。行く先々で屋台のおじちゃんにカップルと間違えられたが、仕方ないから途中から否定しなくなった。






 だいぶ歩いたので、近くの公園で休憩することにした。二人でベンチに腰掛けた。小毬が変なこと言ったせいで、妙に意識するな。二人きりなんてよくあっただろ。心なしかやけに如月が大人しいな、下駄ずれか? 自然に、自然に聞こう。


「如月、足とか、その大丈夫か?」

「うん、平気」


 俺ぎこちねぇ‼ 如月もなに黙ってんだよ⁉ いつもみたいに元気よく話しかけて来いよ‼


「今までさ、あたし冗談半分で彼女とか好きとか言ってたじゃん?」

「そうだな」

「あたし、寅くんの本気が知りたい。だから今、冗談抜きで言うね…」


 もう俺の心臓の音と如月の声しか聞こえない。

 花火の音、喧騒、虫の声とかそういう音はすでに遠くの彼方に吸い込まれてた。


「あたし本気で寅くんのことが好き」

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