第13話 鬼門と鬼が出会った日

 あれは時間を遡り、大学受験の前期の二次試験の日。俺が一科目の試験の受けていた時だった。


 バキッ

 試験中に聞こえるはずの無い、何かの折れる音が聞こえた。でも、今は試験中。目の前にある問題を解くことだけに集中する。

 

 バキッ

 しばらくして、また同じ音が聞こえて来た。しかもその音は、俺のすぐ左隣から聞こえてきた。

 左横ってたしか、ブロンドツインテール女子が受験していたな。 いかんいかん、俺には関係ない。何かあったら、監視員が動いてくれる。


 バキャッ

 ああもう、気になってしょうがねぇ‼ ……一回だけだ。一回だけ、チラッと横のやつが何してるか確認しよう。その後は何があろうと、無視して問題を解いてやる。


 カンニングと思われないように試験監督に見られないように俯きながら、視線だけ左に向けた。


 彼女の解答用紙の上にあった鉛筆は、すべてバキバキに折れていた。

  芯なら分かるけど、鉛筆ごと折れるって何⁉ どんだけ力強いんだよ⁉ てか全部折れてるってことは、書くもんねぇじゃん‼


 驚きの光景に目を離せないでいると、解答用紙に染みができた。もしかして、泣いてんのか? 手を上げて試験監督に言えば、書くものくらい貰えるだろうに。


 しかし、彼女はいつになっても手を上げない。解答用紙には染みが増えていくだけだった。


 さいわい俺と彼女の机はつながっている。もう見ていられなかった俺は予備の鉛筆を2本、指ではじいた。鉛筆は転がっていき、彼女の手に当たったのを見届け、俺は再び問題を解き始めた。


 一科目の試験が終わり、外の空気を吸おうと教室を出るとツインテール女子が俺のもとに駆け寄ってきた。

「あの、さっきはありがとう‼ 試験が終わったら返すから」

「あぁ、いいって、鉛筆2本くらい。次は折るなよ」


 人付き合いとか苦手だった俺は、ぶっきらぼうに返すことしかできなかった。その後俺は、ツインテール女子と話すことなく前期試験を終え、そして合格した。


 ツインテール女子の結果も気になったが受験番号は知らないし、合格発表もネットで見たので会うこともなかった。だから彼女の合否が分かったのは、入学してから初めて知った。






 あたし、如月南天は前期試験に落ちた。でもあたしに鉛筆をくれた彼は、無事受かったみたい。受験番号は、前期試験のときに受験票見たから分かった。


 丑門泰寅君。あたしは勝手に『寅くん』と呼んでいる。目つきが怖くて不愛想だったけど、優しい人だった。もうその頃には寅くんのことが好きになっていた。


 あたしは今まで以上に勉強した。多分人生で一番勉強した。寅くんと一緒の大学に行きたかったから、どんなにツラくても彼から貰った鉛筆で頑張れた。


 ついに後期試験の日。

 試験が開始するとやっぱり、緊張しちゃう、力が入っちゃう、頭が真っ白になっちゃう。


 そのとき、お守り代わりに持ってきた短い2本の鉛筆が目に入る。もう大丈夫。心が落ち着いた。自信が湧いて来た。


 そして私は無事、合格した。





 大学で初めての授業。教室を見回すと、あたしが一緒に大学に行きたかった寅くんは、一人で席についていた。

「隣空いてる?」

「空いてるけど…」

 顔を上げて、あたしの顔を見て少し驚く寅くん。あたしがツインテールからショートヘアにしたからか、気づくのに少し時間掛かってた。


「……お前受かってたのか。今更だけど合格おめでとう」

「ありがとう‼ あたし鬼の如月南天」

「俺は人間の丑門泰寅、よろしく。如月って呼べばいいのか?」


 本当はもう名前を知ってるけど、寅くんから名前を聞けた、あたしの名前を呼んでくれた。それだけであたしは嬉しさで胸がいっぱいになった。


「うん、よろしくね‼」

「いきなりフレンドリーだな、まぁいいや。よろしく如月」





 






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