第10話 人間の武器は気合いと根性

「晴瑠、根性論で妖怪に勝てるんだったら苦労しねぇよ」

「違います。気をイメージして、相手に打ち込むんです。霊能者が憑りつかれた人の背中を叩いて除霊する感じです」

「そういうのって、修行して身につけるんもんじゃないの?」


 晴瑠は少し考えると爽やかな笑みを浮かべ、親指を立てた。

「そこは気合いでなんとかお願いします」

「結局は根性論じゃねぇか!?」


 こんなことを言っている間にも付喪神の大群は、じりじりと俺たちに近づいて来る。晴瑠はチラッと付喪神達を見ると、バッグからおふだの束を取り出し、俺に手渡した。


「妖気を奪うお札です。これを貼れば、付喪神たちは元に戻るはずですから」

「テレビ付喪神に使ってたやつか。やっぱお札って便利だな」

「では妖怪退治といきますか。人間の恐ろしさを思い知らせてあげましょう」

 俺たちは互いの別々の方向に走り出した。


 電源コードが俺の鞭のように迫る。それを半歩下がって避ける。

「その攻撃は、もうテレビで見てんだよ」

 実体験的な意味で。晴瑠が言ってたヤツ試すか。

 気をイメージして―

「打ち込む‼」


 俺の拳が扇風機の顔面に当たると、そのまま後ろに倒れた。

「お、効いてる」

 しかし、扇風機は再び立ち上がろうとする。さすがに戦闘不能までは無理か。


 すかさずお札を貼り、新たな標的を見定める。

「掃除機か」

 掃除機の付喪神は、本体から生えた腕で自分のホースを掴む。

 俺が身構えると、掃除機はスイッチを入れた。付喪神になったことにより、驚異的な吸引力が俺を襲う。


 ―なんてことはなく、掃除機はうんともすんとも言わない。

「何がしたかったんだよ!?」

 そのままお札を貼り、掃除機本体に蹴りを喰らわせる。

「よし、次っ‼」


 一方で晴瑠は、付喪神の攻撃をひらりひらりと躱していく。すると、躱した拍子にお札を落としてしまった。

「いっけなーい‼ 大事なお札がー!!」

 棒読みで叫んだ晴瑠はお札を拾うどころか、むしろ距離を取っていった。

「なーんちゃって、『火ノ札ひのふだ自炸自炎じさくじえん』」


 晴瑠が呪文を唱えた瞬間、落ちたお札が爆ぜた。爆発に巻き込まれ倒れている付喪神に、晴瑠はお札を貼っていった。

「威力えげつないけど、演技下手すぎだろ⁉」



 それからも続々と押し寄せる付喪神にお札を貼っていく。そしてついに、手持ちのお札がなくなった。

「晴瑠、お札全部使い切ったぞ‼ 付喪神はあとどれくらい残ってる⁉」

「半分くらいには減らせたでしょうか。追加のお札をあげます」

「この調子で残り半分も…」


 ベベンッ


 突然響き渡る弦楽器の音に、俺たちだけでなく付喪神の動きが止まる。

嗚呼ああ、諸行無常。百の若い付喪神たちが、人間二人にここまでやられるとは」


 ベベンッ


 付喪神達が、そそくさと道の脇に避けていく。

「しかし盛者必衰の理。妖怪と人間、どちらが滅びるのか決めようぞ」


 ベンベンベンベン…


 付喪神でできた花道の真ん中には一人の僧侶が、正確には姿が座っていた。彼は自分自身を演奏している。

「陰陽師の小娘と鬼門の小僧。このわしが相手になろう。わしの名は…」


 ベベンッ‼

「なんじゃったっけ?」

 思わずズッコケてしまいそうになった。


「自分の名前忘れんなよ⁉ 締まらねぇだろ‼」

「あぁ、思い出したわい。わしは玄上げんじょう法師と呼ばれとる。琵琶の付喪神でな……なんて呼ばれておったかの?」


「もしかして『琵琶びわ牧々ぼくぼく』ですか?」

『おう、それじゃ。どうも歳を取ると物忘れが激しくてな。よっこらせ」

 そう言って、玄上は杖を突いてよろよろと立ち上がった。


 そのまま電柱に向かって杖を突きながら歩いていく。

「いきなり動くと体に堪えてな。少し、時間をくれんか? なぁに」


 すると、玄上の目の前にある電柱が倒れた。

「一瞬もあれば十分じゃ」

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