異文化交流 5 私も民泊しに来たよ♪

六月二十四日、月曜日。和雪達の通う高校では、期末テストまであとちょうど一週間に迫ったこの日のお昼休み、和雪は桜子に誘われて学食へ。

 今週は韓国・中華料理フェア。豊中塚高校では、こういった国際交流イベントがわりと盛んに催されているのだ。

「和雪くん、やっぱり辛いのばっかりだね」

「好きだからなぁ。乾焼蝦仁は日本でよく見るエビチリより辛いみたいだから楽しみだ」

 ファリーダちゃん達をここに連れて来たら、きっと大喜びするだろうな。

和雪はトッポッキ、石焼ビビンバ、乾焼蝦仁。桜子はサムゲタン、月餅、杏仁豆腐、韓国風鯛焼きのプンオパンを選んだ。

          *

放課後、和雪は俊也と秀則と本屋などに寄り道してしまい夕方六時過ぎに帰宅した。自室に足を踏み入れるや否や、

「E・カズユキ、E・バネッサがチラシから取り出した新作ゲームやろうぜ」

「和雪お兄ちゃん、このゲームでいっしょに対戦しよう」

 マヒナとクラリーチェが懐いてくる。

「こらこら、和雪君は期末テストが間近に迫ってるのよ。あまり邪魔しないようにしましょうね」

「カズユキくん、期末テスト頑張って。今日からテスト終了日まではワタシ、カズユキくんにプレイを求めるのは控えるようにするよ」

「和雪さん、テスト勉強の邪魔になるようならば、ミナ達はハンカチ内に戻っておきますね」

「普段通りにしてくれていいよ。みんながいる方が部屋が快適な環境になって、勉強が捗るし」

「そう言ってもらえてミナはなまら嬉しいです♪」

モニカが微笑み顔でこう言った直後、

 ピンポーン♪ 

いつもの朝のように玄関チャイムが聞こえて来た。

「和雪くん、おば様。こんばんはー」

 桜子がやって来たのだ。

やっぱり来たかぁー。

 和雪は気まずい気分に陥る。

 テスト直前になると桜子は毎回のように、テスト範囲の重要ポイントなどを教えに来てくれるのだ。中学一年一学期中間テストの頃から続けている桜子の習慣となっている。

「和雪ぃ、桜子ちゃんが来てくれたわよーっ。下りてらっしゃーい」

「はいはい」

 母に叫ばれ、和雪は部屋から出た。階段を下り、玄関先へと向かっていく。

「和雪くん、今日は私、お泊りするね」

「えっ!!」

 桜子からの突然の発言に、和雪は目を大きく見開く。

「和雪、よかったわね。今夜は桜子ちゃんがお勉強、付きっ切りで指導してくれるって」

 母はにこやかな表情で伝えた。

「和雪くん、今夜はよろしくね♪ 外泊許可は播野先生に取って来たよ」

「べっ、べつに、そこまでしてくれなくても……」

 和雪は困惑する。

「だって私、久し振りに和雪くんちでお泊りしたくなったんだもん。この間、英語の授業でパジャマパーティが出て来たでしょ、私もやりたいなぁって思ったの」

 桜子は満面の笑みを浮かべながら言う。大きめのトートバッグも手に持っていて泊まる気満々な様子だった。

「そんな理由かぁ。泊まるのはやめて欲しいんだけど」

 和雪は納得出来たが、やはり動揺していた。

「桜子ちゃん、自分のおウチのようにくつろいでね」

 母は温かく歓迎した。

「はい! お世話になりまーす。英語で言うとメイクユアセルフアットホームですね。和雪くん、あの世界地図柄のハンカチもう一回見せてね」

 桜子は靴を脱いで廊下に上がると嬉しそうに階段を駆け上がり、和雪の自室へ向かっていった。

「あっ、ちょっと待って、桜子ちゃん」

 和雪は大声で叫ぶも桜子は聞く耳持たず、和雪の自室に入ってしまった。

 これも毎度のことなのだ。

「どうしたの? 和雪。今回はやけに慌てて。和雪が持ってるオタクっぽい物、今さら見られたってなんともないでしょ?」

 母はにやにやしながら尋ねて来た。

「確かにそうだけど……」

 和雪はそう答えて、急いで二階へ駆け上がった。

 自室の扉を開けると、

「やっぱ何度見てもいい物だね♪」

 桜子はまたもローテーブル上に広げられていたのを楽しそうに眺めていた。

よかったぁ。あの子達、ちゃんとハンカチ内に戻ってる。

 和雪はホッと一安心したものの、

飛び出して来ないだろうな?

すぐにこんな心配がよぎってくる。

「じゃ、いっしょにテスト勉強始めよう」

「わっ、分かった」

 和雪が椅子に座ると、

「和雪くん、もう少し詰めてね」

 椅子の僅かなスペースに、桜子も座ってこようとして来た。

「あの、桜子ちゃん。そんなに引っ付かなくても」

「でも、落ちそうだし。じゃあベッドの上でやろう」

 桜子はそう言うと、和雪の腕をぐいっと引っ張った。

「わわわ」

 和雪はベッドの上に座らされる。

「和雪くんのベッド、ふかふかー♪ 私、今夜は和雪くんと同じベッドで寝るね」

 桜子はうつ伏せなって足をパタパタさせながら言う。

「ダッ、ダメだよ」

 和雪は嫌がる素振りを見せる。

「あーん、お願ぁ~い」

「でもぉ」

「和雪ぃ、桜子ちゃん。夕飯が出来たわよーっ!」

 気まずい雰囲気を打ち消すかのように、一階から母に叫ばれた。

 こうして二人はキッチンへ。

「今夜は外国のお料理より取り見取りよ。ちょうどイオンで世界の食卓フェアやってて」

 母は機嫌良さそうに伝える。晩御飯のメニューはジャンバラヤ、ピロシキ、タンドリーチキン、ドネルケバブ、フォー、ヴィシソワーズ。

デザートにゴマ団子、マカロン、ベルギーワッフルだった。

「わぁっ。とっても美味しそう♪ 全部食べ切れるかな? ありがとうございます、おば様。グローバルな食卓ですね。お昼に続いて」

 桜子は満面の笑みを浮かべる。

「……豪華だな」

 和雪は妙に気まずいで椅子に座った。

「桜子ちゃんが今日泊まりに来ることは昨日のうちに聞いてたからね」

「……そうなんだ」

「おば様、ナイショにしててくれてありがとうございます♪」

「どういたしまして。桜子ちゃんはここに座りなさい」

 母はにこにこ微笑みながら、和雪の向かい側の椅子を差した。

「はい、失礼します」

 桜子は嬉しそうにその場所に座る。

 そこ、母さんの席なんだけどな。

 和雪はちょっぴり迷惑がるも、ともあれ食事開始。母は普段は誰も使ってない予備の椅子に座った。

二十分ほどのち、三人が食事を終えようとしたところ、

「ただいまー」

 父が帰って来た。まもなくキッチンにやってくる。

「おじゃましてます。おじ様」

「やあ桜子ちゃん、お久し振りだね。ますますかわいらしくなって。和雪の嫁さんに最適だな」

「おじ様ったら」

 桜子は頬をほんのり赤らめた。

「何言うんだよ、父さんは」

 和雪は当然のように迷惑がる。

「ハハハ」

 父は上機嫌で笑いながら、スーツから普段着に着替えるためリビングへ。

「ふふふ、和雪も照れてるわよ。桜子ちゃん、お風呂ももう沸いとるから、このあとどうぞ」

 母は笑顔で伝える。

「ありがとうございます。でも、和雪くん先にどうぞ。私、夕飯のお片づけを手伝うから」

「あら悪いわね、桜子ちゃん」

「いえいえ」

「じゃあ、俺、先に入るね」

 和雪は夕食を平らげるとすぐに椅子から立ち上がり、風呂場へと向かっていった。

風呂椅子に腰掛け、髪の毛をこすっている最中、

「アロ~ハ、E・カズユキ!」

 全裸のマヒナが突如彼の目の前に現れた。

「あの、マヒナちゃん。俺の入浴中に小さな昆虫に変身して入り込んでくるのはやめようね」

 和雪は優しく注意する。こういうことが度々あり、和雪はもはや驚く様子は無かった。

「生E・サクラコ、本当にかわいいね。ねえE・カズユキ、今夜はE・サクラコとベッドの上でエッチなことするんでしょ?」

「……何言ってるんだよ。すっ、するわけないだろ、そんなこと」

 にやにや顔で質問してくるマヒナ。和雪は焦り顔で即否定した。

「E・カズユキ、せっかくE・サクラコが民泊しに来てくれて絶好のチャンスなのにつれないなぁ。普通現実世界の男にとっての女の幼馴染っていうのは、お互い仲良いのは幼少期くらいのもので、思春期を迎える頃には敬遠疎遠されるのが普通なのだ。E・カズユキは現実世界の住人のくせにラブコメマンガやエロゲー、ラノベの設定みたいに恵まれてるんだから、E・サクラコを大切にしてあげなきゃダメだぜ」

「大切にするってそういうことじゃないだろ」

 マヒナの力説に、和雪が迷惑顔で反論していたその時、

「おじゃまするね、和雪くん」

 浴室扉がガラガラッと開かれた。

「うわぁっ!」

「ひゃぅっ!!」

 和雪とマヒナはびくーっと反応する。桜子が入って来たのだ。

「あれ? 女の子……」

 桜子はマヒナの方に視線を向けた。

 その瞬間にマヒナは何かの小さな昆虫に姿を変え、目にも留まらぬ速さで窓から外へ逃げていった。

「ねえ、和雪くん。さっき南国風の女の子がいなかった?」

 桜子はきょとんした表情で尋ねてくる。

「きっ、きっ、気のせい、気のせいだよ」

 和雪が慌てて説明すると、

「……そうだよね? まあ、いいや。和雪くん。お背中流すよ」

 桜子はあっという間に普段の表情へと戻った。何事も無かったかのように和雪に接する。

「あっ、あの、桜子ちゃん。せめて服を……」

 和雪は桜子から目を逸らそうとする。

 桜子はバスタオルを一枚、肩の辺りから膝の辺りにかけて巻いただけの姿だったのだ。

「昔はよくいっしょに入ってたんだし、そんなに気まずそうにしなくても。私、タオルでしっかり隠してるじゃない。和雪くんだって前しっかり隠してるでしょ。いっしょにプールに入ってるようなものだよ」

 桜子は和雪の下半身をちらっと見て、にこやかな表情で主張した。

「そういう問題じゃないって」

 それでも和雪は居た堪れなく感じていた。目のやり場にも非常に困ってしまう。

        *

「どうしよう。E・サクラコにテッポウウオが獲物を狙って捕えるくらいまでの短い間だけど姿見られちゃったよ」

 和雪の自室に戻ったマヒナは苦笑いで四人に報告した。

「あらら」

「マヒナお姉ちゃん、間に合わなかったんだね」

 ファリーダとクラリーチェはハハッと笑う。

「その後は、何事も無かったかのように普通に接してるけど」

 バネッサはモニター画面に入浴中の桜子と和雪の様子を映した。

「幸いなことに桜子さんは、お部屋の様子を見る限りメルヘンチックなお方でしょうから、ミナ達の姿が見られても全く問題ないかもです」

 モニカは冷静に分析する。

「それじゃあさ……」

 マヒナはあることを提案した。

 それから少し時間が経過した浴室内。

「和雪くん、男子の水泳は大変だよね。五〇メートル途中で足付かずに泳ぎ切らないと夏休み補習に呼ばれるみたいだし。女子の方はノルマないし、遊びみたいなものだよ。和雪くん、一学期最後の授業までに泳ぎ切れそう?」

 桜子は湯船に体育座りをしてくつろぎながら、嬉しそうに話しかけてくる。

「まあなんとか。じゃあ、俺、もう出るね」

「和雪くん、もう出るの? 早過ぎだよ」

 桜子は困惑顔で注意した。

 和雪はマヒナが姿を消してからすぐに逃げ出そうとしたのだが、桜子に捕まえられ、背中を洗われさらに湯船にも力ずくで入れられてしまったのだ。彼は嬉しいという気持ち以上に恥ずかしいという気持ちの方が遥かに凌駕していた。

「やっほー♪ 和雪。桜子ちゃんも来てるんでしょ?」

 そこへつい数分前に帰宅した雪英もすっぽんぽんで乱入してくる。

「あのっ、雪英ちゃん、素っ裸はダメです。気遣いが足りてないです。雪英ちゃんにとっては幼く見えるかもしれませんが和雪くんは年頃の男の子なので、せめてタオルは巻いてあげて下さい」

「あぁんっ! もう、桜子ちゃん大胆ね」

 桜子は慌てて湯船から飛び出し、雪英のおっぱいを両手でぎゅぅーっと押さえ付け壁際に押し込む。

「桜子ちゃんも気遣い足りてないと思うけど」

 和雪は困惑顔で主張しながら湯船から出て、桜子の背後を通り過ぎ脱衣場へと逃げて行った。

「桜子ちゃん、和雪見栄張って逃げてっちゃったし、タオル外しちゃいなよ」

「そうですね。外しちゃいます」

「おう、桜子ちゃん、いいヌード♪ めっちゃデッサンしたい。ますます成長したね」

「雪英ちゃん、そんなに見つめられると恥ずかしいです」

「ごめん、ごめん。おっぱい、触っていいかな?」

「それは、ちょっと……でも、私も雪英ちゃんのおっぱいしっかり触ってしまったので、ちょっとだけなら、いいです」

「サーンキュ♪」

「ひゃぅっ! 雪英ちゃん、優し過ぎてかえってくすぐったいです」

「めっちゃ触り心地ええ♪ もっと欲を言えばお顔埋めて吸い付きたぁい」

「それは、さすがにダメです」

「冗談、冗談」

こんな会話が聞こえて来て、

姉ちゃん、桜子ちゃんに猥褻行為はやめろよ。

和雪はついつい耳をそばだててしまう。罪悪感に駆られた彼は籠に置かれてあった雪英の薄ピンク系統の下着類はもちろん、桜子の白系統の下着類からも目を背けてバスタオルで体を拭き、急いでパジャマに着替え、リビングへやって来ると、

「あら和雪、十分くらいで出てくるなんて烏の行水ね」

母から微笑み顔で突っ込まれる。

「だって母さん、桜子ちゃんと姉ちゃんが……」

「和雪ったら、小学四年生頃までは雪英や桜子ちゃんとよくいっしょに入ってたくせに」

 かなり気まずそうな和雪を眺め、母はくすくすと笑う。

「大昔の話だろ」

 和雪は当然のように不愉快になった。

「桜子ちゃんが昔みたいにいっしょに入りたいって言ってたから、入ったらって言ったのよ。そしたら桜子ちゃん嬉しそうに走っていって」

「母さん、その時引き止めてくれよぅ」

「どうして? べつにええやない。幼馴染同士なんだし」

 和雪と母とでそんな会話をしていた時、

「雪英ちゃんともいっしょに入れて私のお風呂タイムはいつも以上に楽しめました♪」

「うちも久し振りに桜子ちゃんと裸の付き合い出来てめっちゃ嬉しかったわ~」

 桜子と雪英も上がってリビングへやって来た。

「俺はとても疲れたよ」

 和雪はげんなりとした表情だ。

「それじゃ和雪くん、お部屋に戻ってテスト勉強の続きやろう」

「うっ、うん」

「二人とも頑張ってね」

 雪英に見送られ、和雪が前、桜子が後ろを歩いて二階へ上がっていき、

「アロ~ハE・カズユキ、E・サクラコ」

「うわぉっ!」

 部屋に入った瞬間、和雪は思わず仰け反った。

 和雪のベッド上に置かれた例のハンカチから、エスニック少女キャラ達の住居が浮かび上がってマヒナを先頭に五人全員、飛び出て来たのだ。

「ちょっ、ちょっと、あっ、あの」

「あらまっ!」

 慌てる和雪、桜子も目を丸める。

「和風でなまらめんこいお顔の桜子さん、ハウスカトゥトゥストゥア。ミナは、北欧出身のモニカです」 

「Ciao! 桜子お姉ちゃん。あたし、イタリア生まれのクラリーチェだよ」

「サクラコちゃん、アハラン ワ サハラン。アナイスミー、ファリーダ。エジプト出身だよ」

「バネッサ、ペルー出身よ」

「ハワイ生まれのマヒナなのだ」

 エスニック少女キャラ達は陽気な声で、桜子にごく普通に自己紹介した。

「あっ、あっ、あの……」

 和雪はかなり焦る。

「はじめまして、世界各国の皆さん。私、日本人の光久桜子です」

 桜子は爽やか笑顔でそう言って、ぺこんと頭を下げたのち、

「皆さんハンカチから飛び出したおウチから出て来て大きくなれるなんて、すごいですねぇ!」

 目をきらきら輝かせ、五人のすぐ側へぴょこぴょこ歩み寄る。

「さっ、桜子ちゃん、この子達のこと、不思議に、思わないの?」

 和雪は驚き顔で問いかけた。

「さすがにけっこうびっくりはしたよ。でも、飛び出す絵本や喋るお人形さんの進化版だって考えれば、そんなに不思議には思わなかったよ」

 桜子はとても嬉しそうに主張する。

「そっ、そう?」 

 和雪はかなりホッとした。

「マヒナさん、桜子さんにあのことを謝っておきなさい」

 モニカは困惑顔で命令する。

「うっ、うん」

「えっ!? マヒナちゃん私に何か悪いことしたっけ?」

 桜子はきょとんとなった。

「アタシ、E・サクラコんちのお部屋に無断で忍び込んで、下着を何枚か盗みましたのだ。エ カラ マイ」

 マヒナは土下座姿勢になり、ハワイ語で謝罪の言葉を述べた。

「なぁんだ。そんなことか。いいの、いいの、私、全然気にしてないよ」

 桜子は爽やかな表情で言う。

「マハロ。E・サクラコ」

 桜子の寛容さに、マヒナは再度深々と頭を下げ感謝の意を表した。

 その直後に、

「桜子ちゃん、和雪。勉強頑張ってるとこ悪いけどちょっとの時間失礼するね」

 ガチャリと扉が開かれ、雪英が入り込んで来てしまった。ファリーダ達は目にも留まらぬ速さでハンカチ内に戻って雪英の目には一切映らず。

「姉ちゃん、いつも言ってるけどノックくらいしろよ」

 和雪は迷惑そうに注意する。

「まあいいじゃん。うち、和雪と桜子ちゃんのために、期末テストの主要科目予想問題集作ってあげたよ。これも活用してね」

 雪英は期末テスト予想問題集と題された冊子を手渡してくる。

「ありがとうございます! 中間よりも良い点良い順位が取れるように頑張ります!」

 桜子は嬉しそうに受け取る。

「ありがとう。五教科九科目分あるんだな」

 和雪もちょっぴり躊躇うように受け取りつつも、感謝の気持ちは感じていた。

「ほな二人とも、テスト勉強頑張ってね。エッチはまだ高校生なんやからしちゃダメよ」

 雪英はにやけ顔でそう言い残し、この部屋から出て行った。

「邪魔だから二度と入ってくるなよ」

 和雪は不愉快そうな顔でこう注意しておく。

「それじゃ、勉強再開しよっか?」

桜子はちょっぴり頬が赤らんでいた。

「そうだね」

 和雪がそう呟いた直後、

「一応戻っておいたぜ。べつに姿見られてもいいとは思ったけど」

「ミナも、雪英さんにもミナ達の姿を見られてしまっても良かったのではないかとも思いました」

「あたしもそう思ったぁ」

「ワタシもだよ」

「わたくしも同意よ。途中で戻ろうかと思ったわ」

 マヒナを先頭に、他の四名も次々と飛び出し人間サイズ化した。

「私も雪英ちゃんにも見られてもいいと思う。むしろその方がいいんじゃないかな?」

「俺もそうも思うけど、とりあえず今はナイショにしておこう」

その後もエスニック少女キャラ達の姿は雪英に見られることなく、和雪と桜子はテスト勉強に励み、ファリーダ達は迷惑にならないよう静かに和雪所有のマンガやラノベを読んだり、携帯型ゲームなどで遊んだりして過ごすことが出来、あっという間にまもなく日付が変わる頃になった。

「和雪お兄ちゃん、桜子お姉ちゃん、ブォナノッテ」

「アロハ ポE・カズユキ、E・サクラコ。二人で最暖月のホノルルのように熱い夜を楽しんでね」

「ティスバフアラヘール! イラッリカー、サクラコちゃん」

「和雪君、桜子ちゃん、Buenas noches.Allin tuta.」 

「スパコイナイノーチ。ヒュヴァーウオタ。グナット。お二人とも、寝冷えしないように気をつけて下さいね」

 エスニック少女キャラ達は就寝前の挨拶をして、世界地図上に乗っかるような動作でハンカチ内に戻っていく。

「おやすみーっ。出会えて嬉しかったよ。和雪くん、とっても素敵な外国の女の子達だね」

 桜子は全く不思議がることなくその様子を眺めていた。

「あの、桜子ちゃん。あの子達の存在は、他のみんなには絶対ナイショにしてね」

「もちろんだよ。二人だけの秘密にしようね」

 桜子がこう言ってくれて、和雪はホッとする。

「桜子ちゃん、もう一つお願いがあるんだけど、俺と同じ布団で寝るのは、やめて欲しいなぁ。出来れば母さんの寝室で」

「それは嫌だよ。私、和雪くんと同じお布団で寝るぅ!」

 この要求は、桜子は受け入れてくれなかった。和雪は当然のように困惑してしまう。

「じゃあ俺は、床で」

「ダメだよ。そんな所で寝たら夏風邪引いちゃうよ。いっしょに寝るのは私と和雪くんだけじゃないよ。この子もいっしょだよ」

 桜子はほんわか顔でそう伝えると、

「じゃーん、これ見て。和雪くんにこの間取ってもらったナマちゃん。川の字に寝よう」

 トートバッグからそれを取り出し、敷き布団の上に置く。

「……」

 和雪は困惑顔を浮かべながらも、無いよりはマシかなっと思った。

「和雪くんも早く寝よう。夜更かしは体に毒だよ」

桜子はおかまいなく、いつも和雪が使っている夏蒲団に潜り込む。

「わっ、分かった」

 和雪はそれからすぐに電気を消して、ゆっくりとした動作で慎重に同じお布団に潜り込んだ。

「おやすみ和雪くん」

「……おやすみ」

 そんな会話を交わしてから二分も経たないうちに、桜子の寝息が聞こえて来た。

「……眠れない」

 和雪は極度の緊張で目が冴えてしまっていた。

 それから三〇分くらい経っても、状況は変わらず。

間にあのナマケモノのぬいぐるみがあったため、体が引っ付き合うことは避ける事が出来たのだが、それでもやはり気になってしまう。

「E・カズユキ、今、E・サクラコと交尾する絶好のチャンスだぜ」

「うわっ!」

 マヒナが突然目の前に現れ、和雪はびくーっと反応した。

「E・サクラコの寝顔、とってもかわいいでしょ?」

「たっ、確かにかわいいけど」

 和雪は桜子の寝顔をちらっと覗いてしまった。

「まず手始めに服を捲りあげて、ブラジャー外しておっぱいじかに触っちゃえ」

「そんなこと、出来るわけないだろ」 

「E・カズユキの性格はムリキみたいだな。そんなんじゃ子孫残せないぜ」

「マヒナちゃん、めっちゃ蒸し暑くなって来たから早く戻って」

「E・カズユキ、見ろ。好都合だぜ。E・サクラコさっき寝返りながら布団退けて、おへそ丸出しになったぜ。アタシがもっと室温と湿度上げればE・サクラコはきっと無意識のうちにパジャマを脱いで下着だけに。もっと上手くいけば全裸になるぜ」

 マヒナはわくわく気分で呟く。

「それ非常に困るから」

 和雪は迷惑していたが、ついつい桜子のおへそをちらっと見てしまった。

「マヒナちゃん!」

「あいたぁ!」

 突然、バネッサに背後からケーナで頭を叩かれた。

「ペルドン和雪君。マヒナちゃんがご迷惑かけて。すぐに引き戻すから」

「あーん、E・バネッサ。もう少しだけぇ~」

「いけません、和雪君困ってるでしょ」

「やっ、やめてぇぇぇ~」

 バネッサは嫌がるマヒナを、ハンカチ内のペルー付近に押し込めた。室温は一気に5℃くらい下がる。

「それじゃ、おやすみ和雪君。マヒナちゃんのことならもう心配ないわ。自分用の地域以外からは、自ら侵入も脱出も出来ないからね。望み通りにしてあげたわ♪」

 バネッサはにこにこ顔で伝え、ハンカチ内に戻った。

「あっ、ど、どうも」

そんな仕様もあったのか。よかった。

 和雪はこれで一安心する。

 布団に潜り込もうとしたら、

「あの、和雪君」

「うわっ!」

 再びバネッサが飛び出して来た。和雪は少しだけ驚く。

「早くともお互い高校卒業、出来れば結婚するまでは桜子ちゃんにかつて栄えたインカ帝国の首都と同じ名称の医療器具を突っ込まなきゃならない事態にならないように、健全なお付き合いをしなきゃダメよ」

 バネッサはウィンクして、再びハンカチ内に戻った。

……姉ちゃんの変態思考そっくりだな。

 和雪は呆れ顔を浮かべる。彼は再び布団に潜り込んだが、やはり桜子がすぐ隣で眠っていることもあって、なかなか寝付けなかったのだった。

 

          ☆


朝、七時四〇分頃。

桜子ちゃん、いないな。

 和雪が目を覚ました頃には、すでに桜子の姿は無かった。和雪はいつも通り制服に着替え、一階ダイニングへと向かっていく。

雪英は今日は一コマ目の講義がないため、まだ睡眠中だ。

「おはよう」

「おはよう和雪くん」

「おはよう和雪、今朝の朝食、桜子ちゃんも手伝ってくれたわよ」

「そうなんだ」

桜子もすでに制服に着替え終えていた。制服は持って来てなかったので、一旦家に戻ったらしい。

「私はイギリス料理のスコッチエッグを作ってみたよ。食べてみて」

「美味そうだ」

 和雪は椅子に座ると、最初にスコッチエッグに箸をつけた。

「桜子ちゃんの手料理、すごく美味しいよ」

 塩、コショウ、ナツメグ、トマトケチャップで味付けされた牛豚合い挽きと、うずらの半熟卵の味が、和雪の口いっぱいに広がる。

「ありがとう。嬉しいな♪」

桜子は満面の笑みを浮かべる。彼女はゆで卵は半熟派なのだ。

和雪も同じく、半熟派である。


今日以降も、桜子はあの子達といるとすごく快適な環境になって頭が冴えて勉強が捗るからと、毎日のように和雪のお部屋を訪れて来て、さすがに毎日お世話になるのは悪いからと食事とお風呂は一旦おウチに帰って済ませて来て、夜も二時間程度、和雪といっしょにテスト勉強をして過ごしたのだった。 

息抜きにと、クラリーチェ達とテレビゲームなどで遊んであげる時間も少し作りつつ。

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