第七話;血の濃さ

 ヴァンパイア同士が争い合う事になった。その勝負は基本的に、『祖の程度』の濃さ薄さで決まる。

 不良グループのリーダーは、勝利を確信していた。



 そして彼は、勇気の姿に見覚えがあると言う。


 ---


 あの子は店に戻ったが、俺達の側に腰抜けがいるのは頂けない。

 こいつもしつこい。まだ懲りないようだ。やはり…昨日の晩、止めを刺しておくべきだった。



 それにしても、この町に先客がいたとは…。しかもかなり荒い性格だ。人前で興奮して、目を赤くするってのも考えられない。


 俺達は、人に正体をばらすとマズい。噂が流れると、世界中のヴァンパイアが消しに来る。奴らは、平穏を求めているのだ。人間と争う気などない。


 男は、『死人に口無し』と言った。

 なるほど…。つまり俺を消した後、この腰抜けも殺す気だな?そのやり方で、これまで正体を隠し通して来たって訳だ。



「行くぞ!」


 体勢も整わない内に、目を赤くした男がこちらに向って来た。


(どうする?俺も姿を変えるか?)


 考える暇はなかった。男の接近を許し、右頬にパンチを食らってしまった。


(!?……こいつ…!)


 ヴァンパイア同士の勝負は基本、『祖の程度』…つまり血の濃さで決まる。経験や知恵が対抗手段ではあるが、それでも血の濃さの違いは絶対的だ。


 奴のパンチが、俺をぶっ飛ばした。


(仕方ない………。俺も姿を変える。)


 変身をしてしまった事への対処法として、1つ良い方法を思いついた。


「裕也さん、凄え!」

「五月蝿い!人間は黙ってろ!」

「!!?裕也さん!?」


 ……腰抜けが、男の目が赤い事に気付いた。多分、俺の目が赤くなった事にも気付くだろう。


(しかし、この男……。)


 俺は次の攻撃が来る前に、すかさず男の右頬にパンチを食らわした。目には目を……って奴だ。

 パンチは見事に決まり、男は腰抜けがいる所まで飛んで行った。


(……薄い……!)


 勝負は一瞬だった。俺は男がいる場所まで走り、馬乗りになった。隣の腰抜けは、見たくもない姿だろう。

 そして鋭利に尖った爪を、男の首元に当てた。


「お前……死ぬか?」

「!!?」


 男は必死に抵抗したが……動き全部がスローモーションに見える。力も弱い。

 俺は男の抵抗全てを抑え、もう1度爪を首に当てた。

 今度は少し、突き刺した。


「何故だ!?何故お前は強い!?」

「…………お前が薄いだけだ。」


 男は、理解していない。興奮して自分を抑えきれない事を、血が濃いと思っているようだ。

 でもそれは、とんだ勘違いだ。こいつも、こいつのヴァンパイアとしての親も、人間だった頃から血の気が多かったのだろう。

 興奮を抑えられない事と、ヴァンパイアの血を抑えられない事は違う。


「お前は、何年生きた?」

「……300年だ。」

「それじゃ、俺の半分だ。経験も足りない……。知識や知恵は、もっと足りない。」


 俺はそう言って男の首を、鋭くなった爪で断ち切った。


 ヴァンパイアの仕留め方は、銀で体を貫く事…心臓なら確実だ。他にはニンニクを食べさせる事、太陽の光に当てる事。

 そして……首を切り取る事だ。頭と心臓が離れてしまった時点で、ヴァンパイアは灰に変わる。

 男は、断末魔を上げる事もなく灰に変わった。300年も生きて来たんだ。こいつの死を嘆く家族はいないだろう。



「ひぃい!裕也さんが!……いなくなった!!?」


 さて…後はこいつをどうするかだ……。


「ひっ、人殺し!」


 腰抜けに近づくと、怯えて逃げようとした。やはりこいつは、口で言い聞かせる事は出来ないだろう。

 俺は腰抜けを捕まえ、その首に牙を立てた。


「うっ……………。」


 腰抜けは血を吸われながら力が抜け、そのまま気絶した。

 殺す気はない。今吸った血の量だと、1時間程度の記憶を失うだけだろう。

 俺達の、食事の方法だ。


(しかし、こいつの血……。不味いな…。)


 ジャンクフードとタバコの過剰摂取、そしてシンナーの吸い過ぎだ。早死にするぞ?



 腰抜けが気絶してから間もない内に、血が薄い男の灰は消えた。


 灰になったヴァンパイアは、自力では復活出来ない。灰の内に新鮮な血を掛けて貰えば復活するらしいが、そのままにして置くと灰も消えてなくなる。

 永遠の命ってのも、人間が作った迷信だ。




 30分後、腰抜けが目を覚ました。


「……あれっ?ここは……?」

「目を覚ましたか?」

「うわっ!お前が何故ここに!……裕也さんは!?」

「……あいつはいない。俺に負けて逃げて行った。」

「そんな………。」

「で?お前はどうする?昨日の続き、やるか?」


 俺はこいつに、もう1度チャンスを与える事にした。昨日こいつを殺すと決めたのは、あの子に手を出したからだ。今日は俺に手を出した。あの子に会ったのに、手を出さなかった。

 裕也と名のヴァンパイアがいなくなったんだ。もう、俺にもあの子にも手を出さないだろう。


 腰抜けの目が覚めるのを待っていたのは、記憶が本当に飛んでいるかを確認したかったからだ。そして、裕也が町から去ったと、信じ込ませたかった。


 記憶は消えていた。ならば、こいつを殺す必要もない。


「………許して下さい。」

「信用出来ない。」

「本当です!心に誓います!もう2度とあなたには…そしてあなたの彼女にも、2度と手を出しません。」


(??彼女?誰の事だ?………あぁ、俺が言ったのか?昨日……。)


 とっさについた嘘だったが、それであの子が無事なら貫き通そう。


「……財布を出せ。」

「お金なら、全部差し上げます!」


 金を取る気はない。こいつの住所を確認したかっただけだ。

 財布の中にはバイクの免許が入っていた。


「お前の住所は確認した。町以外に逃げ場がないんだろ?この町で平和に暮らしたかったら、これ以上俺と……俺の女には迷惑を掛けない事だ。」

「はい!」

「分かったら帰れ。」


 俺は、知りもしない土地の住所を確認した後、財布を腰抜けに返した。


 腰抜けは逃げ去った。だがリーチだ。しかも2回目……。次にあの子に手を出したら、今度こそ容赦しない。




 しかし……この町に先客がいたとは驚いた。

 ヴァンパイアに出会ったのは、いつ以来だろう?100年前の、あいつ以来か………。


(……アキ………。)


 上から目線でいけ好かない奴だったが、それでも俺達は仲間だった……。

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