第15話笑わない少女と復讐者

[アベリナを譲って欲しいのっ!」


リティシャは憎しみに燃える瞳を真っすぐに向けて私にそう告げた。

その真意は?


「理由を聞いてもいいかしら?」


リティシャは静かに頷くと、アベリナに対する憎しみを吐き出すのだった。



「あれは……あの女はジョリーナよりも残忍で恐ろしいわ。 そもそもジョリーナにあなたをイジメるようにそそのかしたのはアベリナなのよ」


リティシャは一度大きく息を吸って気を落ち着け話を続けた。


「私はね、私はルシル子爵が侍女に産ませた子供なのよ」


リティシャとアベリナが異母姉妹?

私によく突っかかってくる取り巻きの方がメアリーだから、メアリーを押さえる側の方がアベリナになるのかしら。


顔は、似て……なくもないのかしらね。

向こうは金髪でリティシャは栗色の髪だけども母親の髪に似たのかもね。


そんなことを考えているとリティシャは再び話を続ける。


「私が6歳くらいだったから向こうも同じくらいだったでしょうね。それまで私達親子は幸せだった。 父親は、私達をそっとしておいてくれたわ。正妻にも母のことは言わずにいてくれて、会いにはこなかったけれど。 でもある日私達が暮らしていた家にアベリナが現れたの。私はそのとき母の父親、つまり私の祖父ね、が経営している商会に遊びにいっていたわ。だからこれは隣の家の人から聞いた話。」


そこまで言ってしばし目を閉じ、胸に下げていたペンダントを握りしめ話し出す。


「あの女は、私兵をつれ母親を連れだしどこかへ行ったそうよ。そして母は帰ってこなかった。そして私が母と再び会えたのは、無残な死体としてだった。美しかった母の顔は切り刻まれて手足もバラバラに、アイツは、アイツは!ゴミのように私の家に放っていったのよ!」


リティシャは話している内に荒くなっていった呼吸を整える。


6歳で本当にそんなことをしたとすればそれは恐ろしい残忍さだ。

しかし、なぜリティシャは無事だったのか?

私は視線を向けて話を促す。


「あいつは満足したから私は見逃してやると言ったわ。とても楽しそうに…… そして私は祖父に引き取られた。そして祖父の勧めで、祖父の知り合いの商会の養子になり名前を変えた。ああ、この髪色は染めてるのよ、本来はあの女と同じ色。 そしてしばらくして祖父の商会は取り潰しにあった。違法取引という理由で」


こんな話をしているのにリティシャは笑顔だった。とてもきれいな笑顔。

でも私には能面のように見える。それはリティシャの顔に張り付いた仮面……


「ああこれ? すごいでしょ練習の賜物ってやつね」

リティシャは自分の顔を撫でてそう独りごちた。


[祖父はその罪で処刑。そのときに私は復讐を決意した。養父が盗賊ギルドに繋がりがあったのも大きいわね。養父も協力を惜しまなかったわ。なんでも祖父に命を救われたことがあったらしくてね。そして、なんとかこの学園に潜り込めた。魔法の才能があったことは幸運だった」


『なんか凄まじい人生送ってんなあチチでか姉ちゃん』


鉄屑カリヴァーンの一言に引きつるリティシャ。

私は余計な口をきいたカリヴァーンをストレージに押し込んだ。


「話の腰を折って悪かったわ。続けてちょうだい」


リティシャはしばらくカリヴァーンが消えたあたりを見ていたが、頭を振ってから話を続ける。


「えーとどこまで果たしたっけ? そうそう学園に潜り込んでからアベリナに接触しようとしたんだけど、あいつジョリーナの取り巻きに収まっててね。あいつ本人はガードがやけに硬いんで、まずジョリーナに取り入ろうとした訳よ」


なるほど。


「それで私を生贄にした訳ね」


「あー、それは悪いと思ってるよ」

リティシャはバツが悪そうな表情で笑う。


まあいいけどね。

彼女自体に思うところはない。たいした被害があった訳でもないし。

せいぜい彼女らから隠れていた場所を告げ口されたくらいだろう。


「まあとにかくそうやって取り入ってアベリナに近づこうとしたんだけど。あいつどうやら私のことを疑ってるらしくて、どうにも近づけなかったんだけどね。でもアンタがそれを変えてくれた。正直アンタになにがあったのかは知らない。けどチャンスだと思ったんだ」


彼女の言う通りならアベリナが裏で手を引いていたことになるが、まあ三人まとめて殺すつもりだったし特に問題はないだろう。


ーーー どうして? -ーー


そんな声が聞こえた気がしたが、私は頭を振ってその声を遠ざけた。

その動きを不安に思ったのかリティシャはオズオズと尋ねてきた。


「あの、ダメかな?」

「いえ、いいわ。ただしジョリーナは譲れないわよ?」


私の答えに満足したリティシャは頷いた。

「もちろん! 助かるよ」


そうとなれば、そろそろラストに向けて動くとしましょうか。


「アベリナは自分で勝手にやってちょうだい。まあ私の策が嵌ればかなりやり易くなるでしょうけど」


「どうするのか聞いてもいい?」

そうね……まあいいでしょう。


私はこれからのことをリティシャに教えることにした。

ついでに探知印マーカーもつけて監視も怠らない。リティシャがジョリーナと繋がっている可能性もあるしね。


とはいえ、だからといって大した問題ではないけれど……ね。



作戦を教えた後、リティシャは部屋に戻った。

結構時間が立っていたようだ。

今日のところは寝るとしよう。


明日は、残りの血盟員クランメンバーを始末して、そしてダイスを……


 


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