第2話笑わない少女と迷宮

……あれからしばらくその場で呆然としていたが、まずはこのなにもない通路から移動するべきだと考えつき、歩き出すことにした。


私の前後に道が伸びていたのでとりあえず私から見て前に進むことにした。


この通路は石造りで、隙間無く石が敷き詰められている。

こんなもの見たことがない。 王都で暮らしているが、こんな隙間が無いような造りなんて城ですら無いはずだ。

もちろん私が知らないだけなのかもしれない。 ただの平民には知らない場所にはこんな所があるのかも。


でも、そんな私でも一つだけ心当たりがあった。


迷宮ダンジョン……

なぜ存在するのか、誰が作ったのかすらわかっていない物。

一説によるとアル=レギルス時代より昔の、神話時代E2Oにはすでにあったという説があるけれど。

女神ル・シャラの祝福が世界に満ちていた時代かぁ。


迷宮ダンジョンとは、内部に魔物モンスタートラップ、そして財宝を要し入る者、冒険者達に死と栄光を与えると言われる物。


中は様々で、自然の洞窟のようになっている物やこのように人工物のような物なと様々、話によると中に森や川、果ては火山がある物すらあるという。

すべて本から得た知識でしかないが、そしてそれらの知識が本当だとすると、ここが迷宮ダンジョンたとすると、それは危険を意味する。。

つまり……


その時、私の後ろ側の通路の奥から低い唸り声が聞こえた。

瞬間、私は後ろを見ることなく走り出した!


魔物モンスター! この世界に存在する人ならざるもの。

遥か昔より人を襲い人類と敵対する存在。

私は必死に足を動かし走り続けた。 止まれば殺される!

魔物モンスターは人を見れば必ず襲ってくる。 自らがどんなに傷ついていたとしても。


まともに攻撃魔法すら使えない私では魔物モンスターと戦うなど無理だ!

後ろから聞こえる吠え声はこちらを追ってくる。

だがあまり差が縮まった様子はない。

このまま逃げ切れるの?


私はもつれそうになる足を叱咤しながら走り続けた。

心臓が早鐘を打つ、目眩がしてくる。

ダメっ!? 涙が視界を塞いでしまうっ。

乱暴に目をこすり視界を確保しながら走り続ける。


足を動かすのも限界に近づいてきた頃、右手に扉が見えた!

私はその扉にすがりついてノブを掴むと、引きちぎれよとばかりに扉を引き開け放つとそのまま中に飛び込んだ。


そして中を確認せす扉を閉める。 次の瞬間扉に衝撃とギャウッという声がした。

どうやら魔物モンスターが扉に激突したようだ。

しばらく扉を引っ掻くような音が続いたが、諦めたのかその音も聞こえなくなる。


……助かった? 


私はその場で尻餅をつきへたり込んでしまった。

安心した途端不安になり、慌てて辺りを見回す。

私が逃げ込んだのは、小部屋のようだった。

部屋にはなにもない、いえ、正面の壁から少量の水が垂れていた。

それ以外はなにもない殺風景な部屋だった。


冷静になって考えるとかなり危険な事をしてしまった

もしあの時、扉に鍵が掛かっていて開かなかったら? この部屋にも魔物モンスターがいたら?

そう考えると身体が震え、涙があふれるのを押さえることがで出来なかった。








この部屋に逃げ込んでどれだけ経っただろう?


あの魔物モンスターかどうかは分からないが、時折扉を開けようとしてか爪で引っ掻くような音がする。

そんな時は部屋の隅で震えるしかなかった。


お腹が空いたな……

喉の渇きは壁から流れる水を飲むことでなんとかなった。とても少ないが仕方がない。

幸い毒もないようだった。






あれからどれだけ経ったのだろう……


魔物モンスターが恐ろしくて、部屋から出ることも出来ないまま時は過ぎていく。

空腹は限界でもう立つことすら出来ない。


このまま私は死ぬのかな?


学園は私が居なくなって探してくれるんだろうか?

落ちこぼれが逃げ出したくらいにしか思われてないのかな?

また涙がこぼれ落ちる。 でももうそれを拭う力すらない。


仲のいい友達はいない。ジョリーナに目を付けられた私に近づいてくる人などいないのだ。


でも一人だけ、一人だけ友達と呼べる子がいた。 いつも笑顔なあの子。

会いたいなぁ……


誰でもいい、私を助けてよ……


ジョリーナでもいいよ。 また水をかけられてもいい。 いくらでもイジメてもいいから。


お腹空いた……


誰か助けて……



お腹空いた……




お腹 す…… いた……







……目の端に何かが写る。

私の顔位の大きさの毛玉?のような銀色に光る魔物モンスター、それが私の顔の側まで近づいてくる。

私が死んだと思っているのだろうか?

側まで来て匂いを嗅いできた。


どうやって入って来たのか? そんなことはどうでもよかった。


もっと側まできて。そうもう少し。もう少し……


その毛玉は私に噛みつこうと口を開くが、それより先に私がその毛玉に噛みつく方が早かった!


腕も足も動かないので顎の力のみで必死に食らいつく。


毛玉は小さな声を上げながら抵抗するが逃がさない!

私は貪るように毛玉の血を啜り肉を咀嚼し飲み込んだ。

毛玉の毛は金属のようで口の中で刺さるが気にしていられない。私の血なのか毛玉の血なのかわからないが溢れる血を啜り喉を潤した。



死にたくない! こんな所で死にたくない!

何日ぶりの食事だろうか。 しかし、それでも私の身体は言うことを聞かない。もう指一本すら動かない。


そして私はこの迷宮ダンジョンの中で死を迎えた……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る