第2回「恐怖のバイオコマンドー」

「恐怖のバイオコンマンドー」

2045年 アメリカ映画

監督 オートランド・B・ジョンソン


あらすじ……アメリカ政府の極秘施設で歴史上の偉人のDNAを集めてクローンを作り出すプロジェクト「バイオゲート計画」が実行に移され、優秀なクローン人間が作られようとしていた。遺伝子学の権威であるフロスト博士は計画の途中でこれが世界を滅ぼしかねない計画だと気がつき、中止を要請するが、逆にフロスト博士は解任されてしまう。そんな中、初期ロットのクローンが暴走を始めてしまった。あろうことか、偉人たちのDNAに凶悪な因子を持つDNAが混ざってしまったのだ!施設は破壊され、クローン軍団は地球を征服するべく大都市へと向かっていく。これに対抗するため、フロスト博士は史上最強の兵士のDNAを掛け合わせたクローン兵士、ノリスを作りあげる。しかし、急造クローンであるノリスの活動限界時間は96時間。果たしてタイムリミットまでに邪悪なクローン軍団を撃破できるのか。


[レビュー]

 当時話題となっていた人体クローン技術を題材としたB級アクション映画。


 話題を先取りした題材であるが、内容は非常に大雑把で突っ込み所が満載だ。クローン技術により偉人のDNAを用いた高性能クローンを作るという発想はいいものの、劇中で作られたクローンはヒトラー、スターリンと言った超凶悪な独裁者や、エド・ゲイン、果てはジャック・ザ・リッパーなどの凶悪犯ばかりで明らかに暴走する気満々という物ばかり。案の定、映画の流れで暴走していく様を見て当時の観客たちは「やっぱりな」と思った事だろう。


 恐らく公開が半世紀早ければ絶対に問題を起こしていたであろう内容だが、幸か不幸か、1世紀ほどの時間の流れで、そうしたバッシングの声が上がらず企画会議でゴーサインが出てしまった。その結果がコレである。どうしてこうなったんだ。


 クローン軍団が結託し、世界征服に乗り出すというストーリーながら予算に限りがあったのか、彼らが襲撃するのは極秘施設から数キロも離れていないテキサスの田舎町という体たらくで、のどかなトウモロコシ畑のわき道で完全武装のクローンヒトラーがバイクで疾走するシーンなどはアンバランスさが際立って爆笑必至だ。臨時の拠点としたダイナーでクローンヒトラーとクローンスターリンが世界征服後の取り分をめぐって口論するシーンはB級映画史に名を残すくだらないシーンになっている。


 また、フロスト博士の手によって作られる完全無欠兵士ことノリスの設定もすさまじい。このノリスというキャラクター自体はモデルとなった偉人こそいないが、この作品が公開される数十年前に銀幕を彩ったアクション映画俳優、チャック・ノリスをモデルとしている。彼が長らくB級映画黎明期を支えたレジェンドである事は歴史が証明したが、その伝説をこうした形で再現したのは特筆すべき事だ。


 しかもこのノリスというキャラクターが最強の男であり、「クローンによる制約で96時間の寿命しか持たない」という設定を終盤20分で捨てるほどの最強生命体だ。神出鬼没で弾丸を避け爆発もかわし、回し蹴りとパンチだけで完全武装のクローン軍団を血祭りにあげていく様はさながらスラッシャー映画そのもの、クローンスターリンを相手に「これがデタントだ!」とキメ台詞をはいてぶちのめすシーンは一周回ってホラーの領域である。


 爆発シーンや銃撃戦シーンそれなりに多く、実に楽しい映画であるが大雑把な設定や低予算ならではな絵の安っぽさが気になる作品だが、このチャレンジ精神は褒めてたたえるべきであろう。

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