異世界で生き残るには? 窓から幼馴染が来る!

第25話 窓からくるあいつ

 うららかな春の日——今日もそんな日。この世界に召喚されてからもう数ヶ月はたったが、よく考えたらその間ずっと春であった。

 前に、サクアが冷蔵庫を見て「夏に便利」とか言ってたので、この世界にもたぶん夏はあるようなのだが、それはなかなかやってこないようであった。

 ここは異世界なのだから、その気候がどんなふうになっていても構わないといえば構わないのだが、この春みたいに、季節一つ一つの期間が長く、今度は夏がずっと続くとかだと嫌だなと思いつつ、——俺は、まずはこの過ごしやすく、爽やかな気候に感謝するのであった。

 柔らかな陽光、爽やかな薫風。宙を舞う花びら、小鳥の鳴き声。春の愛おしきものたち。それはこの異世界でも変わることは無い安らぎを与えてくれる。

「フーフーン、フーフー、ンーン、フーン」

 そして聞こえる歌声。

「フーフーン、フーフー、ンーン、フーン」

 それは単なる鼻歌でありながら、まるで天上の音楽ででもあるかのように美しい調べを奏でる。

「フーフーン、フーフー、ンーン、フーン」

 天使の歌声というものがあるのならばまさしくこういうものであろう。そう思えるような至上の音楽。

「フーフーン、フーフー、ンーン、フーン」

 それは俺の心をとても心地よく、軽くしてくれる。まるでこのまま天に登れるように。

「フーフーン、フーフー、ンーン、フーン」

 しかし……。


「はい。ローゼの使い魔さん! あなたの好きなトンカツと分厚いステーキよ」


 朝からやってきて、朝から重い手料理を作る、とても重い女。聖女ロータス様様であった。そのまるで悪意のない、にこやかな微笑みろ顔に浮かべながら、油がまだパチパイと言っている作りたての脂ギッシュ料理を目の前に出されて、

「召し上がれ(ニコ)!」

「……ウプッ」

 天上から地上へ、一気に引き落とされる俺であった。

 昨夜にローゼに深夜まで飲みに付き合わされて、胃の中がひどくもたれているのにこんなもん食えるか——とは思うが、

「召し上がれ(ニコ)!」

「…………」

 自分の善意が拒否されるなんてことは微塵も感じずに、心底、人を信じきって、全身全霊を預けて来る聖女ロータス。朝にこんな食事を作って相手が食べれないかもなんて考えもしないのだろう。

 とはいえ、もちろんここで俺が食べるのを断ったって、ロータスはそれで怒ることも非難することもないだろうが、

「召し上がれ(ニコ)!」

「…………」

 なんか悪くて、断れない雰囲気だ。

 と言うか畏れ多い感じだ。

 この人がドジっ子の残念ちゃんと知ってはいるものの、さすが聖女だ。オーラの圧力が半端ではない。その力に、ローゼに巻き込まれてこの異世界に驚天動地の騒ぎを引き起こし続けているとはいえ、所詮は平凡な一般人が逆らえるわけもなく、込み上げて来る吐き気を胸のあたりで無理やり抑えながら、俺はカツをジリジリと口に近づけるのだった。

 すると、そんな様子見ながら、ロータス様は悪意のまるでない笑みを満面に浮かべている。全く、迷惑なくらい良い人のロータス様であった。その迷惑にドジっ子属性が加わって、ローゼと並んで、時にはもはや災害レベルの危機とあんる聖女様。その人が俺にその全身全霊を注いでくる。一般人に過ぎない俺がこんな重圧に耐えることができるか? いやない!

 異世界に部屋ごと、ネット接続ごと。電気や水道、ガスごと召喚された俺であった。そして俺をこの世界に呼び出した、大魔法使いローゼとその従者サクア。このろくでもない二人に振り回されるだけでもストレスマックスな生活となっているところ、この頃新たに俺の部屋にやってくるようになった聖女ロータス様。この世界でローゼの魔力に対抗できると言われる霊力の持ち主。

 その全力が俺に向けて注がれているのだ。

 俺はカツを食べるかどうか? ということ以前に、その重い思いの呪いに、そのまま体が蝕まれて倒れてしまいそうな気分であった。


 しかし……


「あれ、あんた部屋にいるじゃん! なんでピンポンならしても出てこないのよ!」


 その時窓から入って来た、ショートカットの颯爽とした感じの女子。

 その子は——

「……なんでここに?」

「なんでって……? 幼馴染は窓から入って来るものでしょ?」

 俺の子供時代からの知り合い。家が隣どうしで、仲良く遊んだ幼年時代から始まって、そのあと学校もずっと同じの腐れ縁。

 いわゆる幼馴染の元気ハツラツ系女子——桜ヶ丘秋桜さくらがおかこすもすなのであった。





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