第23話 事実に事実を重ねる
世界がよくわからない闇に飲み込まれる危機を救った
いや、この
この二人がノリスについていきたいのは放って置いて、自分だけ帰ってしまいたいとも思ったが、この二人と
いつもみたいにサクアが鎌を研いで、ついに俺の首がチョンパされて差し出されるシーンが、目をつむれば脳裏にくっきりと浮かぶ。
「ついて行った方が良いな……」
「ん? 使い魔殿もやはりノリス殿の活躍を見たいのですか?」
「まあ、そうだな……」
「そうですよね……次はどんな世界の危機を救ってくれますかね……」
「いや、いや、世界の危機なんてそんなごろごろと転がっては……あっ……まずいかなこの発言……」
うん。自分で言っててフラグっぽいなこのセリフだなんて思ってたら……
「きゃー! 誰か来てください! 大変です! 大変です!」
早速フラグ回収っぽい。
気づけば目の前には行きつけの酒場タベルナ。その中から店員のエルフのウェイトレスのデイジーちゃんが飛び出してくる。
「きゃー! ローゼとサクアとその使い魔だ! 来ないでください! 来ないでください!」
どっちなんじゃい。
「ヘイ。そこのプリティーなエルフ。何事がハプンしたんだい」
あいかわらずのインチキくさい
「は……ワイルドで強そうなお方」
なんだかハート目のデイジーちゃん。意外とおじさん好みだったのかこの子。
「助けてください……いえ、でもいくら1964年5月にロサンゼルスで開かれた空手のオールスター・チャンピオンシップで優勝したあなたでもこれは荷が重すぎるかもしれません……」
なんだこのエルフ。俺もwikipedia引かないとわからないようなチャック・ノリスの経歴に随分詳しいな。
「オー、ドン・ウォーリー。ともかく私に事情をスピークしてくだサイ」
「それでは……まずは店の中に……」
デイジーちゃんに連れられて酒場タベルナの中に行く
「これです」
なんじゃこりゃ!
「突然地獄の門が開いちゃいました」
おいおい、この都会の魅力に負けて故郷捨ててきたエルフ。気軽に言うなよ。
なんでこの店にそんなのが開くんだよ。
「店にえらい詩人だって人来たんですけど、散々食べて飲んだ後、金がないので窓から逃げようとしたんですけど、取り押さえようとしたら地獄の門が開いてそっちに逃げちゃって……」
食い逃げくらいでこんなの開くなよ。
中で亡者と悪鬼がうようよしていて、今にもこっちに出てこようとしているようだし、業火が燃え盛っていてそれもこっちに噴き出そうとしているじゃないか。
「オー、ヘル。でも、しんぱいアリマセン」
さっきは「ドン・ウォーリー」言ったのに今度は「しんぱいアリマセン」かよ。インチキ英語なのかカタコトの日本語なのか方針はっきりしてなくて気持ち悪いなと俺は思う。
しかし、そんな俺の思いは彼には届かずに、
「ヘイ、ヘル。キサマラニハジゴクスラナマヌルイ!」
一句の中でヘルと地獄が混ざった上、「生ぬるい」が言いたかっただけっぽい意味不明の言葉突ともに
——ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!
地獄の奥から聞こえてくる恐怖の絶叫をニヤリと顔を歪めて受け止めるノリス。
そして、
「あれ……」
一瞬前までのことがまるで幻か何かだったかのように、地獄は消え去っていたのだった。ああ、多分これは
——地獄には、「チャック・ノリスお断り」の札が立っている、
——悪魔が彼を恐れる余りに
*
その後も、
地球の軌道がずれそうになったのを腕立て伏せで直す。
——チャック・ノリスは、腕立て伏せをするとき、
——自分の身体を押し上げるのではない。
——世界を押し下げるのだ。
念写真を取るふりして魔法をかけて身ぐるみ剥ごうとした魔導師にはピースサインを出したと思ったら二秒後にぼこぼこにする。
——チャックノリスのピースサインは、「あと二秒で殺す」の意味。
街のそばの森にエイリアンとそれと戦いそうなプレデターが現れたら、二つまとめてあっさりしまつする。
——映画「エイリアンVSプレデター」は、
——元々「エイリアンvsプレデターvsチャック・ノリス」で話が進んでいた
その他にも、ピアノでバイオリンを弾くは、ゼロで割り算するは、無限まで二回も数えるは、
「あれ?」
俺はなんか今までの世界の危機とは桁が違うように感じられる、禍々しいカオスを目の前に見るのだった。
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