第8話 俺、ググるしかできないカスだけど…… 

 俺はなんとか生き残った。

 異世界で。 

 悪霊問題を解決したと思ったら、今度は巨大隕石が街に衝突しそうになったり、大洪水が押し寄せてきたり……

 この街は呪われているんじゃないかと思うくらい様々な事件が起き、それをローゼがさらに混乱させる……

 ——が続く異世界ここに来てからの数週間、

 俺はなんとか生きてます……まだ。

 大手質問サイトに、


”異世界で生き残るにはどうしたら良いのでしょう?”


 と問えば、


”ググれカス!”


 と返って来るそのアドバイスの通りググり続け、

 ——なんとか今の所は命を繋いでいます。

 なんのチートもないままにこんな異世界に呼び出されて良く生き残り続けていられるもんだと、我ながら感心しながら、飛ぶように過ぎ去ったこの数週間の回想を俺は終えると——深く嘆息をしながら、椅子の背もたれから目を起こし、ぎゅっと閉じていた目を開き、またパソコンに向かうのだった。


 そしてログインするのはネトゲのプライマル・マジカル・ワールド。

 わざわざ異世界に来てまで異世界ファンタジーゲームに興じるのは「なんかな」と自分でも思わないでもないが、PCの画面の向こう側の距離感のある冒険。そんなものが本物の異世界の冒険の只中に放り込まれた俺からすればとても心地よく落ち着くのだった。

 なのでは俺は、異世界にきてからも一人になればこうやってネトゲにログインし続けていた。それは(異)現実逃避なんだと自分でも思う。でも、そのおかげで、あのローゼの作った入り口ゲイトから何処かに行った悪鬼たちの行き先が——ゲームをやっていたら分かったのだった。

 それは、プライマル・マジカル・ワールドからの分岐異世界の一つ、ハッスル・マジカル・ワールドだった。筋肉剣士達が集うその汗臭い世界に、今俺がいるこの世界ブラッディ・ワールドから悪鬼達が攻め込むイベントが、ちょうどあの連中が入り口ゲイトをくぐった時から始まったらしかった。

 俺は、それをあの後にゲーム内の掲示板で知る。

 ——どうもそれがあの悪鬼たちの行き先であったようだ。

 なんでも——開発者のブログを見れば——ずっと前から開発を進めていたそのイベントのコーディングで、中の人たちは、ずっと謎のバグに悩まされ続けていたようだった。悪鬼たちがブラッディ・ワールドからハッスル・ワールド出て行くところの処理がどうしてもうまくいかなったらしい。

 しかし、それは、ちょうどローゼが新しい入りゲイトを作った時に解決。今はハッスル・ワールドの筋肉剣士たちと激しい戦いを繰り広げているという。


 なるほど——今俺のいるこの世界ブラッディ・ワールドのように、ハッスル・ワールドが実在するものなのか、ネットの中での仮想世界に過ぎないのかはわからないが……もしハッスル・ワールドが実在しているのだとしても——仮想世界でのハッスル・ワールドでのように——望まれてそこに行ったことであること俺は祈るのだが……


「えっ……!」


 俺はちょうどその時にPCの画面に流れたイベント開始告知のテロップに息を飲む。


 この間の悪鬼来週の逆襲として、ハッスル・ワールドが脳筋マッチョ剣士軍団をこの世界ブラッディ・ワールドに送り込むと言うのだった。


 俺は煩いヘビメタ音楽とともに、今始まったこのイベントが仮想世界の中だけであることを望むが……



 ——ドンドン! ドンドン!

 ——ドンドン! ドンドン! ドンドン!

 ——ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン!

 ——ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン! ドンドン!


「使い魔殿! 使い魔殿! 大変です!」


 ドアの向こうから俺を呼ぶサクアの声に、平安は儚い望みであったことを——また今日も思い知らされるのであった。

 そして、パソコンを見ながら、

「検索する(ググる)か……」

 とぼそりと俺は呟くのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る