374文字の世界「ポッド」

ポッドが死んだ。

帰宅した俺は否応なしにその事実を突きつけられた。

奴は洗面所の床に倒れていた。

「事故だったんだ」

弟は濡れぼそったジーンズを形見のように抱えている。

「ポッドは、どうしちまったんだ」

「見りゃ分かるだろ」

「おい、こいつ息してな」

「分かってんだよんなことは!」

目を真っ赤にして吠える。

気持ちは分かる。俺も一度は通った道だ。

「分かってんだよ、けどな、足掻かずにはいられねぇのさ」

「何をする気だ?」

弟はポッドをタオルにくるむと、きつく縛った。

「ぶんまわして、遠心力で水を抜く!」

「そうかその手があったか!」

弟は今まで見たことがないほど真剣にタオルを振り回したが、結局ポッドの意識は戻ってこなかった。


数日後、新しいポッドを手に入れたらしく弟はご満悦の様子だった。

どんなものかと見せてもらった俺は、思わず苦笑した。

「お前これ、walkmanじゃね?」

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