422文字の世界「アップル」

「くそ、弾切れか」

「隊長、他の隊は全滅しました! 退路確保できません!」

「どうやら、ここまでのようだな」

「隊長っ!?」

「残された道は一つだ、上等兵。引きつけて、一網打尽にする」

「自爆、ですか」

「自害するなら敵諸共、だ」

「分かっておりますとも。覚悟はできています」

「いい返事だ。よし、アップルを用意しろ」

「はっ、ここに」

「……おい、なんでリンゴなんか持ってる」

「は? 自分は隊長のご指示通りリンゴアップルを」

「袋一杯に詰めてきたのか」

「はっ、ここに」

「ここにじゃねぇよバッキャロー!! 戦場でアップルといえば手榴弾だろうがっ!! アップルパイでも作る気かっ!!?」

「はっ、アップルパイは得意料理であります!」

「だったらさっさと焼き上げて、敵に食わせて手なずけろっ!!」

「はっ、ただいま!!」


上等兵のアップルパイは疲弊しきった敵兵の心を見事に掴み、隊長共々食客として丁重にもてなされた。

これをきっかけに停戦協定が結ばれるまで、さほど時間は必要とされなかったそうだ。

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